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第二章
2
しおりを挟む執務室に入ってきたエリアスは、室内にいる人物を見て、目を見開いた。
「兄上。あれ?ルイスに隊長まで? 急いで来いってどうされたのですか?」
全く遠慮なく室内に足を踏み入れたエリアスに、ルイスが敵を睨みつけるような、厳しい視線を向ける。
ルイスは王弟であるガーフィールド公爵から王太子であるアルフレードに向けられた手紙を、エリアスの顔面に無言のまま突きつけた。
「少し前に届いたんだ」
そんなルイスの行動を補足するようなアルフレードの言葉に、エリアスは不思議そうな表情を浮かべた。
だが、突きつけられた手紙を読み進めるにつれて、その表情は焦ったようなものに変わっていく。
「いや、違う!!待ってください兄上。ルイスも!! 俺は今回は本当に、関与してません。ていうか、そもそもこれ、こんな手紙を送ってきた時点で、叔父上は間違いなく確信犯ですよね? 」
「まあ、そうだろうね」
「て事は、アリスはソニア・ベルラルディーニのサロンの招待状と引き換えに、チューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状を手に入れたってことですよね?これって確か今夜……。兄上、アリスは今どこに?」
「さあ、どこに行ったと思う?」
アルフレードが冷たい笑顔を浮かべる。
「いや、でも……。そもそもチューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状なんて、影経由で手に入れたら必ずルイスの耳に入るだろうし、一体どこから……」
続く言葉を切り、はっとしたようにエリアスはフィオリ伯爵に視線を向けた。
「こうなるとやはりあの二人ですか。殿下、本当に申し訳ありませんでした」
フィオリ伯爵が立ち上がって、アルフレードに向かって勢いよく頭を下げた。
「…なんで隊長が謝罪するんですか?」
エリアスが戸惑ったように問うと、アルフレードはくすりと笑いをこぼした。
アルフレードらしくない、楽しいというよりはどこか皮肉げで背筋が冷たくなるような笑みだった。
できればあまり見たくはない、過去のトラウマを呼び起こす兄のその表情に、エリアスはゴクリと喉を鳴らした。
「君とルイスに話を聞く前に、念の為僕の影達が簡単に調べられる範囲で、チューダー伯爵の仮面舞踏会になんて興味は無いのに、招待状を手に入れようとした人間がいなかったかどうか調べてもらったんだ」
そこまで言うと、フィオリ伯爵がさらに頭を下げた。
「本当に、申し訳ございません」
「もういいよ伯爵、頭を上げて。こればっかりは、近衛の規律に違反してる事でも無いし、君の事は不問に付すよ」
「君の事は?」
エリアスの問いに、アルフレードは頷いた。
「うん。ソニア・ベルラルディーニの大ファンで、なおかつここ最近チューダー伯爵の招待状を手に入れようとしていた人物が近衛に二人。レオナルド・ ベルトランド・デル・オルシー二と、リカルド・アウトーリ」
「そしてその2人は今、近衛の寮にはおらず、外出中です」
アルフレードの言葉をフィオリ伯爵が補足した。
「レオナルド、リカルド……」
呆然とするエリアスの前で、苦々しげな表情でルイスが二人の友人の名を呟いた。
「さて、どうしてくれようかな……」
執務机の上に肘を乗せて両手を組んだアルフレードは、美しくも仄暗い笑みを浮かべながら呟いた。
そこには、兄弟や従兄弟といった身内だからこそ感じる類いの恐ろしさが、多分に含まれていた。
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