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肉食系ヒロインちゃんは、真面目系童貞君に喰べられてどろどろに溺愛される

ファーストシーズンのエンディング

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「ねぇ、お姉さんは、ここで気になる人とかいるの?」

 ちなみにセカンドシーズンのお助けキャラは保健室にいて、ちゃんとお助けキャラの仕事をしている。なのになぜこの人はちっとも私を助けてくれなかったのか。

「……強いて言えば、君かな?」

「私?」

 なんでだ?と思ったけど、処女膜キープして逆ハーかましてるんだから、セカヒロちゃんは間違いなく転生者だ。だったらたしかにファーストのヒロインのエンディングは気になるだろうと納得する。

「君とアレクセイの関係を気にしていた」

「ティアラとアレクセイではなく?」

「いや、君とアレクセイが付き合っているのかと聞かれた事がある。君はアレクセイとよく一緒にいるからね。それに君は高位貴族を狙ってるように見えるし」


 真面目くんの言葉にイラッとした。アレクセイと一緒にいるのは、委員会が同じでペアを組んでいるからだ。
 この人は私が親友の婚約者に手を出すとでも言いたいのか。発想が下衆い。



「そう。あなたには私が親友の婚約者だろうが、高位貴族なら見境なしに手を出すような、屑女に見えてるのね」

 思わず笑ってしまった。お助けキャラなのに、お助けしてくれない筈だ。たしかにビッチな玉の輿狙いの屑女なんか、真面目な彼は助けたくはないだろう。まあ、ファーストシーズンも、あとはチャラ男先輩のエンディングを残すのみ。別にこの人にどう思われようが関係ない。
 私はみなりんとの友情と趣味に生きるんだ。

 そんな私の目の前で、真面目くんは驚いたように目を見開いた。



 それにしても、セカヒロちゃんはやっぱりアレクセイ狙いなのかぁ…と、遠い目をした時。
「ヴィンス」と、セカヒロちゃんが真面目くんを呼ぶ声がした。


 声の方を見ると、さっきの顔射の痕跡も服の乱れすら全くないセカヒロちゃんが現れた。おおぅ、リアルセカンドヒロインちゃん!! いつも覗き見ばっかりだったから、こんな近距離で真正面から見るのは初めてだ。
 めっちゃ美人だ。清楚系美人。中身は私とおんなじビッチだけど…。


 私はにっこりと微笑んで立ち上がった。

「弟さんをお借りしてごめんなさい。私はもう帰りますから。ご機嫌よう」


 私は逃げ出すようにその場を後にした。失礼かもしれないけれども、セカヒロちゃんと攻略対象者のリアルスチルを集め終わるまでは、間違ってもセカヒロちゃんとはお近づきになりたくはないんだ。

 セカンドシーズンが終わるまでは、私の大好きなゲームの中のヒロインのままでいてほしい。


 ああ、でもアレクセイの攻略はやめた方がいいよって忠告はしておくべきかな。
 いくら彼女に処女膜があっても、みなりんがいる限りアレクセイは落ちない。監禁陵辱エンドですら無理だろう。今のアレクセイには破滅エンドしか無い。


 …うん、とりあえずセカヒロちゃんが逆ハーに成功した時点で教えてあげようと考えつつ廊下を歩いていた時。

 不意に私は右手を引かれ、人のいない教室に引き込まれた。








 「ミア…」切なそうな声を出すのは、ファーストシーズンの攻略対象者No.5、公爵家の次男チャラ男先輩。彼の名前は重要ではないので、ここではチャラ男先輩と……。



 いきなり壁ドンされ、額にキスをされた。


 私はしっかり目を見開いて、チャラ男先輩を見つめながら、胸元の魔石が仕込まれたブローチにふれる。このブローチは半径5メートル以内なら、任意の場所を録画できる魔法具だ。高かった。すごく高かった。必死に節約したお小遣いニ年分つぎ込んだ。


 荒々しい動作からは考えられないほどにそれはすごく優しいキスで、額からこめかみ、瞼、頬へとキスの場所がかわっていく。

「ミア…ミア…」

 キスの合間に囁くように、何度も私の名前を呼ぶ。それでも彼が私の唇にキスする事はない。

 ああ、これはファーストヒロインとしての私の、最後の攻略対象者であるチャラ男先輩ルートのエンディングだ。



「ベアトリスとの婚約が決まった……」

 チャラ男先輩はゆっくりと唇を離すと、喉の奥から絞り出すような声を出す。切なくて苦しくて、そして愛しさを滲ませた視線。

「そう……」

 私は短く答えた。泡沫の恋であろうと、攻略した限り最後まで攻略者へのヒロインとしての役割はしっかりとこなす。この先彼が歩んでいく未来が、優しさと愛と希望の光に包まれるように。



「…俺は望んではいない」

「……ねぇ、ラウル。私たち、うたかたの恋をしていたのよ」

「うたかた…」

「そう。淡い淡い小さな…時がたてば、何一つ残さずに消えてしまう。海の泡のような、そこに存在した事さえ誰も知らない。とても美しい泡沫の恋」

 私は『君とうたかたの恋を』のヒロインとして、そして何よりも私自身として話をする。


「消えない…君は、永遠に俺の心の中の最も美しい輝きとして残り続ける」

「いいえ、消えるわ。だってあなたは本当はとても誠実な人だから。あなたはこれからベアトリス様だけを見て、彼女だけを愛して。……そしてだれよりも彼女と幸せになるの」

「貴族の義務を果たすための政略結婚なのに? 君との美しい思い出さえも持つ事は許されないなんて…」



 チャラ男先輩…いえ、ラウルは常に長男と比べられ、家族からの関心も愛も全てを長男に奪われて、人を信じられなくなり、女性と派手に遊んでいた。けれど本当は寂しがりの甘えん坊だ。

 私は手を伸ばして、綺麗な金の髪に指を差し入れる。そしてゆっくりとなでおろし、頬に手を添える。



「ねぇ、ラウル。あなただってこの結末は最初からわかっていたはずよ」

「それでも…」

「この世界のありとあらゆる美しさはやがて色褪せ、いつかは消えてゆく。だってそれこそが自然の流れだもの」

「けれど俺の中の君は色あせない、君に宿る美しさは消えることはない。俺が生き続ける限り…」

「私はあなたの美しい時間の中で、ほんの一瞬道が交わっただけの存在。だから、あなたはどうかそのまま先へ進んで」

「君は…、俺との全てを忘れられると?」

「ええ。消えてしまった恋を振り返ったりしないわ。それが私、ユーフェミア・ノーフォークだから」


 それが『君とうたかたの恋を』のヒロインとしての矜持プライド。そして、子爵令嬢ユーフェミア・ノーフォークとしての生き方だ。去っていく男に惨めに縋ったりはしない。



 ラウルは無言のまま強く私を抱きしめて、「さよなら…。俺は永遠に君の幸せを祈るよ」と囁き、再び額にキスをし去っていった。







「はぁ…。ラウルのトゥルーエンドのスチルコンプだ…」


 私はずるずると床に座り込んだ。
実の所私は惚れっぽい。そもそもが、大好きなゲームのキャラな訳だし、毎回途中から結構本気で好きになってしまう。
 けれどここは『うたかたの恋』の世界。トゥルーエンドはあってもハッピーエンドは存在しない。

 リアルスチルはもちろん欲しいけど、私を選んでくれる人さえいれば、私は逆ハーに成功する事も、アレクセイのルートが開いて、みなりんを泣かせる事もなかった。


 まあ、アレクセイはそもそも攻略する気はなかったのだけど。
 それにしても、ファーストのアレクセイは全く悪役令息の仕事をしなかった。これも全部みなりんのおかげか……。

「いーなぁ、みなりん。……いや、良くないか。相手はあのサイコパスだし」




 ぼんやりと床を見つめる。
 やり遂げた感がないとは言わない。けれど現実には、完全にスチル集めだと割り切れる程でもない。去る者を追わない主義だとしても、続けざまに5人に振られるのは、流石に切ないものがある。


「サイコパスって何?」

 不意に私の上に影がかかった。よく知っている声に、つい眉間に皺がよる。

 目の前には何故か真面目くんがいた。



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