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最終章
四兄弟の再会
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「美冬、もうじき僕の実家に着くよ」
ようやくもぎ取った休日のある日、草太は美冬を連れ、実家に帰省しようとしていた。長く電車に揺られて、やや疲れた顔をしていた美冬だが、「まもなく到着」という声を聞いて、ぴりっと緊張が走った。
「もうじき草太の御実家に着くのね。失礼のないようにしなくちゃ……」
初めての会いに行くということもあってか、美冬は昨晩から緊張のあまり、よく眠れなかったようだ。
「美冬、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。前にも言ったけど、僕の家族は細かいこと気にしないから」
「でも、でもね。大事な息子さんを六野家のお婿さんとしていただくのよ。私は六野家の代表として、失礼のないようにしなくちゃいけない。どうしても心配になってしまうわ」
「『大事な息子さん』って言っても、僕はみそっかすの末っ子だし」
美冬は草太の言葉など頭に入らないといった様子で、今日の挨拶の段取りで頭がいっぱいのようだ。
来月、六野家の家族と田村家の家族とで初顔合わせする予定だが、今日はその前の挨拶を兼ねた実家訪問であった。心配性の美冬がつい気になってしまうのも無理はない。
「しかし、結婚の準備ってのも何かと忙しいもんだね」
「そうね。式場や披露宴の確保にプランの組み立て。招待客や、披露宴の料理、とか決めなきゃいけないことが山積みだものね」
「女性には大事なこともあるだろ? ドレスや指輪選び。一生モノだから適当には決めれないし」
「そうなのよね。レンタルでいいと思ったんだけど、父が『六野家の跡取り娘が借り物だなんていかん! デザイナーに作ってもらいなさい』の一言でドレス作ってもらうのも時間がかかるし」
「一人娘だから、その辺は仕方ないよ」
「でもねぇ、父が口を挟みすぎると、とんでもないことになるのよ。『ゴンドラに乗って披露宴会場に現れるのはどうだ?』って言ったときには、一体いつの時代の話をしてるのかと思ったわ」
ようやく動き出した草太と美冬の結婚話であったが、予想以上に決めなくてはいけないこと、やらなくてはいけないことが多い。貴重な休日が結婚についての打ち合わせで消えていくので、疲れも取れない。それでも何とか二人で頑張っていこうと思うのは、「共に幸せになりたい」と願うからでもある。
「夫婦となる二人が、初めての共同作業になるのが結婚式準備なのね。今まで知らなかったわ。花嫁というのは、もっと幸せに浸っていられるものだと思ってたし」
「意見が対立して険悪なムードになるカップルもいるみたいだね。僕たちは心配いらないと思うけど」
仕事を共にこなしてきた二人にとって、相談しながら物事を決めていくことは慣れていた。意見は合わせやすいが、慣れてない結婚準備はまた疲れるものだ。やがて電車は草太の実家の最寄り駅に到着した。
「美冬、到着したよ。兄貴が迎えに来てくれることになってるんだけど」
「何番目のお兄さん?」
「二番目の健太兄貴だよ。今日のためにわざわざ休みをとったんだって」
「じゃあ、きちんと御礼を伝えないとね」
「だから気にしなくていいってば」
二人で話しながら駅の改札を出ると、健太が仁王立ちで待っていた。腕を組み、いかつい顔で待つ健太は、異様な雰囲気があり、周囲の人々がそっと避けて通っている。とうの健太は全く気にしていない様子だ。
「健太兄ちゃん……また濃ゆいお迎えで」
「何を言う。大事な弟の嫁さんが初めて来るんだ。丁重にもてなさないと」
厳しい顔で草太を睨んだ健太は、横に立つ美冬に目をやった。健太の迫力に怯えていた美冬であったが、視線が合ったことでようやく正気に戻ったようだった。
「は、初めまして。今日は私達のために……」
美冬が慌てて挨拶を始めた途端、健太のいかつい顔が一気に崩れた。
「あなたが草太の嫁さん? いや~美人だねぇ~。こんな美人なら俺が嫁にもらいたいぐらいだよ。って何を言ってるんでしょうねぇ、俺は。美人に弱いもんで。ハッハッハッ!」
へにゃっとした顔で笑いながら美冬に語りかける健太に、先程までの威厳はまるでない。健太の変化に驚いた美冬は、驚きのあまり固まってしまっている。
「健太兄ちゃん、美冬が困ってるでしょ。美冬、これが僕の家族だよ。堅苦しい挨拶なんて必要ないの」
「そ、そうなのね。お優しいお兄様で安心しました」
「優しいだなんて、そんなぁ~! しがない消防士っすわ、ハッハッハッ!」
微妙に噛み合わない会話をしながら、健太の車に乗った三人は草太の実家へ向かった。初めに現れたのは、長兄の幹太だった。
「おっ、こちらが草太の嫁さんか。美人だねぇ」
「初めまして! 六野美冬と申します。草太さんにはいつもお世話になっています。本日は……」
「堅苦しい挨拶はその辺で。今日の食事を用意してる最中なのでね。どうぞ中に入ってくつろいで下さい。なんならお昼寝してもいいですよ」
挨拶をさらりとかわされてしまった美冬は、呆然とした顔をしている。ざっくばらんな家族に接したことがないのだろう。
「すみません、こんな家族で。本当はもっとちゃんとしてないといけませんよね」
挨拶をまともにさせてもらえないことに落ち込む美冬を、なだめる草太だった。
「『こんな家族』はないでしょ。アットホームって言いなよ」
「裕太兄ちゃん!」
「草太、久しぶり。こちらが美冬さんだね、初めまして。草太はそちらで失礼などしていませんか?」
「とんでもありません。草太さんのことはいつも頼りにしてます」
『草太が頼りに? うーん、信じられないな」
「裕太兄ちゃん、それは僕に失礼だろ?」
「だって事実じゃない」
楽しそうに語る裕太は、やはり三人の兄たちの中で一番女性への接し方がスマートだった。
「草太、お帰り。美冬さん、ようこそ、田村家へ」
最後に現れたのは、四人兄弟の母、勝子であった。
「初めまして、お義母様。六野美冬と申します。本日は……」
「挨拶はその辺でいいですよ。どうぞ中に入ってゆっくりしてくださいな」
にっこり笑った勝子は、料理の準備があるからと早々に台所へ行ってしまった。やはり四人兄弟の母であった。
「僕の家族はかたくるしいのが苦手で。でも兄貴や母にとって美冬さんはもう家族なんだよ」
「家族……ということは、歓迎してもらえてるの?」
「もちろん! でなければあんな笑顔は見せてないから」
初めて接する草太の家族に戸惑う美冬であったが、嫌そうな顔はしていなかった。
「ちょっと驚いてしまったけど、なんだかわかった気がしたわ。田村家の御家族がいてこその草太なのね。草太のおおらかさや優しさのルーツは、ここにあった」
「ルーツってほど大げさなものでもないけど、密かに自慢の家族ではあるね」
「良かった。草太の御家族に嫌われたらどうしようかと思ってたけど、心配いらなかったみたい」
「でしょ? 僕の家族はこんな感じだよ」
愉快そうに笑う草太の笑顔を、微笑ましく見つめる美冬だった。
「草太、美冬さん。さぁ、早く家の中へ。料理いっぱい用意しましたから、今日はゆっくりしていってください」
エプロンをつけた幹太が二人を家へと手招いた。
「美冬さん、あがりましょう」
「ええ。お邪魔させていただきます」
草太の妻となる美冬も加わって、田村家の賑やかな夜は、疲れた二人の心を癒やしてくれたのだった。
ようやくもぎ取った休日のある日、草太は美冬を連れ、実家に帰省しようとしていた。長く電車に揺られて、やや疲れた顔をしていた美冬だが、「まもなく到着」という声を聞いて、ぴりっと緊張が走った。
「もうじき草太の御実家に着くのね。失礼のないようにしなくちゃ……」
初めての会いに行くということもあってか、美冬は昨晩から緊張のあまり、よく眠れなかったようだ。
「美冬、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。前にも言ったけど、僕の家族は細かいこと気にしないから」
「でも、でもね。大事な息子さんを六野家のお婿さんとしていただくのよ。私は六野家の代表として、失礼のないようにしなくちゃいけない。どうしても心配になってしまうわ」
「『大事な息子さん』って言っても、僕はみそっかすの末っ子だし」
美冬は草太の言葉など頭に入らないといった様子で、今日の挨拶の段取りで頭がいっぱいのようだ。
来月、六野家の家族と田村家の家族とで初顔合わせする予定だが、今日はその前の挨拶を兼ねた実家訪問であった。心配性の美冬がつい気になってしまうのも無理はない。
「しかし、結婚の準備ってのも何かと忙しいもんだね」
「そうね。式場や披露宴の確保にプランの組み立て。招待客や、披露宴の料理、とか決めなきゃいけないことが山積みだものね」
「女性には大事なこともあるだろ? ドレスや指輪選び。一生モノだから適当には決めれないし」
「そうなのよね。レンタルでいいと思ったんだけど、父が『六野家の跡取り娘が借り物だなんていかん! デザイナーに作ってもらいなさい』の一言でドレス作ってもらうのも時間がかかるし」
「一人娘だから、その辺は仕方ないよ」
「でもねぇ、父が口を挟みすぎると、とんでもないことになるのよ。『ゴンドラに乗って披露宴会場に現れるのはどうだ?』って言ったときには、一体いつの時代の話をしてるのかと思ったわ」
ようやく動き出した草太と美冬の結婚話であったが、予想以上に決めなくてはいけないこと、やらなくてはいけないことが多い。貴重な休日が結婚についての打ち合わせで消えていくので、疲れも取れない。それでも何とか二人で頑張っていこうと思うのは、「共に幸せになりたい」と願うからでもある。
「夫婦となる二人が、初めての共同作業になるのが結婚式準備なのね。今まで知らなかったわ。花嫁というのは、もっと幸せに浸っていられるものだと思ってたし」
「意見が対立して険悪なムードになるカップルもいるみたいだね。僕たちは心配いらないと思うけど」
仕事を共にこなしてきた二人にとって、相談しながら物事を決めていくことは慣れていた。意見は合わせやすいが、慣れてない結婚準備はまた疲れるものだ。やがて電車は草太の実家の最寄り駅に到着した。
「美冬、到着したよ。兄貴が迎えに来てくれることになってるんだけど」
「何番目のお兄さん?」
「二番目の健太兄貴だよ。今日のためにわざわざ休みをとったんだって」
「じゃあ、きちんと御礼を伝えないとね」
「だから気にしなくていいってば」
二人で話しながら駅の改札を出ると、健太が仁王立ちで待っていた。腕を組み、いかつい顔で待つ健太は、異様な雰囲気があり、周囲の人々がそっと避けて通っている。とうの健太は全く気にしていない様子だ。
「健太兄ちゃん……また濃ゆいお迎えで」
「何を言う。大事な弟の嫁さんが初めて来るんだ。丁重にもてなさないと」
厳しい顔で草太を睨んだ健太は、横に立つ美冬に目をやった。健太の迫力に怯えていた美冬であったが、視線が合ったことでようやく正気に戻ったようだった。
「は、初めまして。今日は私達のために……」
美冬が慌てて挨拶を始めた途端、健太のいかつい顔が一気に崩れた。
「あなたが草太の嫁さん? いや~美人だねぇ~。こんな美人なら俺が嫁にもらいたいぐらいだよ。って何を言ってるんでしょうねぇ、俺は。美人に弱いもんで。ハッハッハッ!」
へにゃっとした顔で笑いながら美冬に語りかける健太に、先程までの威厳はまるでない。健太の変化に驚いた美冬は、驚きのあまり固まってしまっている。
「健太兄ちゃん、美冬が困ってるでしょ。美冬、これが僕の家族だよ。堅苦しい挨拶なんて必要ないの」
「そ、そうなのね。お優しいお兄様で安心しました」
「優しいだなんて、そんなぁ~! しがない消防士っすわ、ハッハッハッ!」
微妙に噛み合わない会話をしながら、健太の車に乗った三人は草太の実家へ向かった。初めに現れたのは、長兄の幹太だった。
「おっ、こちらが草太の嫁さんか。美人だねぇ」
「初めまして! 六野美冬と申します。草太さんにはいつもお世話になっています。本日は……」
「堅苦しい挨拶はその辺で。今日の食事を用意してる最中なのでね。どうぞ中に入ってくつろいで下さい。なんならお昼寝してもいいですよ」
挨拶をさらりとかわされてしまった美冬は、呆然とした顔をしている。ざっくばらんな家族に接したことがないのだろう。
「すみません、こんな家族で。本当はもっとちゃんとしてないといけませんよね」
挨拶をまともにさせてもらえないことに落ち込む美冬を、なだめる草太だった。
「『こんな家族』はないでしょ。アットホームって言いなよ」
「裕太兄ちゃん!」
「草太、久しぶり。こちらが美冬さんだね、初めまして。草太はそちらで失礼などしていませんか?」
「とんでもありません。草太さんのことはいつも頼りにしてます」
『草太が頼りに? うーん、信じられないな」
「裕太兄ちゃん、それは僕に失礼だろ?」
「だって事実じゃない」
楽しそうに語る裕太は、やはり三人の兄たちの中で一番女性への接し方がスマートだった。
「草太、お帰り。美冬さん、ようこそ、田村家へ」
最後に現れたのは、四人兄弟の母、勝子であった。
「初めまして、お義母様。六野美冬と申します。本日は……」
「挨拶はその辺でいいですよ。どうぞ中に入ってゆっくりしてくださいな」
にっこり笑った勝子は、料理の準備があるからと早々に台所へ行ってしまった。やはり四人兄弟の母であった。
「僕の家族はかたくるしいのが苦手で。でも兄貴や母にとって美冬さんはもう家族なんだよ」
「家族……ということは、歓迎してもらえてるの?」
「もちろん! でなければあんな笑顔は見せてないから」
初めて接する草太の家族に戸惑う美冬であったが、嫌そうな顔はしていなかった。
「ちょっと驚いてしまったけど、なんだかわかった気がしたわ。田村家の御家族がいてこその草太なのね。草太のおおらかさや優しさのルーツは、ここにあった」
「ルーツってほど大げさなものでもないけど、密かに自慢の家族ではあるね」
「良かった。草太の御家族に嫌われたらどうしようかと思ってたけど、心配いらなかったみたい」
「でしょ? 僕の家族はこんな感じだよ」
愉快そうに笑う草太の笑顔を、微笑ましく見つめる美冬だった。
「草太、美冬さん。さぁ、早く家の中へ。料理いっぱい用意しましたから、今日はゆっくりしていってください」
エプロンをつけた幹太が二人を家へと手招いた。
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