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最終章
一年後の愚痴
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「僕ら、いつになったら結婚できるんだろうね……」
草太は大きな溜め息を漏らした。美冬を支え続けた一年に後悔はないが、結婚の話は一向に進まない。というより、その余裕がないのだ。そして草太は今も「お預け状態」である。
「『おとなのあやかし文房具シリーズ』はSNSでも好評のようよ。今後も新キャラクターを登場させれば、安定した人気を見込めるのではないかしら?」
美冬は相変わらず仕事中心であった。
「それは嬉しいですけと、美冬、僕との結婚は?」
「販促キャンペーンを地方にも拡げてみたいわね。どれだけ売れるか楽しみだわ」
「美冬さーん! わかってて焦らしてるでしょ?」
拗ねる草太に、美冬は我慢できないといった様子でころころと笑い始めた。
「美冬ぅ。笑い事じゃないって」
「ごめんね、草太。もちろん結婚のことを忘れたわけじゃないわ。私も早くあなたと一緒になりたいもの。でもこの一年は仕事に集中するしかなかったと思わない?」
「そりゃ、そうだけど……」
ふてくされる草太の頭を撫でる美冬を、草太はその胸に引き入れると、しっかりと抱きしめた。
「またそうやって弟扱いするんだから。弟はこんなことしないでしょ?」
「草太を弟だなんて思ってないわ。私にとってこんなに頼りになる男性はいないもの。でも、でもね。草太はやっぱり可愛いの」
無邪気に笑い続ける美冬をどうにか黙らせようと、草太はその唇を強引に奪った。目を開けると、美冬の顔が真っ赤に染まっている。
「可愛いのは、どっちだろうね?」
「もう! 草太は意地悪ね」
「意地悪はどっちかな? わかるまでキスしちゃおうかな」
「あぁん、もう。ごめんなさい、私が悪かったわ」
しばし戯れるように笑った二人であったが、ようやく落ち着いて話をすることができた。
「そろそろね、結婚を公表してもいいと思うの。私とあなたが仕事上のパートナーになってるのは社内でも公認になってきてるし、反発も少ないと思う」
「そうだね。反対されても結婚するつもりだけど、できれば祝福されたいもんね」
「ええ、祝福されたいわね。それにあなたの御家族にも、そろそろ御挨拶に伺わないと。もっと早く行きたかったのだけれど」
「僕の親や兄貴たちは大丈夫ですよ。堅苦しいことは気にしないので」
「そうは聞いてるけど、私としてはやっぱり心配だわ」
「大丈夫ですって。美冬が美人すぎて驚くとは思うけど。でもようやく紹介できるんだね、美冬を僕の嫁さんですって」
「『僕の嫁さん』……」
草太の言葉を聞いた途端、みるみる顔を赤くしていく美冬を、草太は笑いながら抱きしめた。二人の結婚の話は、ようやく動きだそうとしていた。
草太は大きな溜め息を漏らした。美冬を支え続けた一年に後悔はないが、結婚の話は一向に進まない。というより、その余裕がないのだ。そして草太は今も「お預け状態」である。
「『おとなのあやかし文房具シリーズ』はSNSでも好評のようよ。今後も新キャラクターを登場させれば、安定した人気を見込めるのではないかしら?」
美冬は相変わらず仕事中心であった。
「それは嬉しいですけと、美冬、僕との結婚は?」
「販促キャンペーンを地方にも拡げてみたいわね。どれだけ売れるか楽しみだわ」
「美冬さーん! わかってて焦らしてるでしょ?」
拗ねる草太に、美冬は我慢できないといった様子でころころと笑い始めた。
「美冬ぅ。笑い事じゃないって」
「ごめんね、草太。もちろん結婚のことを忘れたわけじゃないわ。私も早くあなたと一緒になりたいもの。でもこの一年は仕事に集中するしかなかったと思わない?」
「そりゃ、そうだけど……」
ふてくされる草太の頭を撫でる美冬を、草太はその胸に引き入れると、しっかりと抱きしめた。
「またそうやって弟扱いするんだから。弟はこんなことしないでしょ?」
「草太を弟だなんて思ってないわ。私にとってこんなに頼りになる男性はいないもの。でも、でもね。草太はやっぱり可愛いの」
無邪気に笑い続ける美冬をどうにか黙らせようと、草太はその唇を強引に奪った。目を開けると、美冬の顔が真っ赤に染まっている。
「可愛いのは、どっちだろうね?」
「もう! 草太は意地悪ね」
「意地悪はどっちかな? わかるまでキスしちゃおうかな」
「あぁん、もう。ごめんなさい、私が悪かったわ」
しばし戯れるように笑った二人であったが、ようやく落ち着いて話をすることができた。
「そろそろね、結婚を公表してもいいと思うの。私とあなたが仕事上のパートナーになってるのは社内でも公認になってきてるし、反発も少ないと思う」
「そうだね。反対されても結婚するつもりだけど、できれば祝福されたいもんね」
「ええ、祝福されたいわね。それにあなたの御家族にも、そろそろ御挨拶に伺わないと。もっと早く行きたかったのだけれど」
「僕の親や兄貴たちは大丈夫ですよ。堅苦しいことは気にしないので」
「そうは聞いてるけど、私としてはやっぱり心配だわ」
「大丈夫ですって。美冬が美人すぎて驚くとは思うけど。でもようやく紹介できるんだね、美冬を僕の嫁さんですって」
「『僕の嫁さん』……」
草太の言葉を聞いた途端、みるみる顔を赤くしていく美冬を、草太は笑いながら抱きしめた。二人の結婚の話は、ようやく動きだそうとしていた。
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