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第58話 お散歩

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「ベロベロばぁ~」
「んぎゃぁぁぁっぁぁぁっぁぁっぁああああぁぁぁぁ!!!」

メリリっ!!


俺は収納魔法ストレージマジックの入り口に顔を入れ、出口に顔を出す事でアイルを驚かす事に成功したが、反撃(御褒美)を頂いてしまった。


「パンツ!な、何してんの!!」
「いや、出来るかなぁと思ったら出来ちゃったのでつい……。」
「……パ、パンツ君。それは冥魔法第5位階魔法の『空間移動ワープ』だぞ……。まさか使う者をこの目で見るとは……思ってなかったな……。」
「え?冥魔法が使えるゲイブルさんも出来るんじゃないんですか?」


俺はまだ異空間から顔を出しながらゲイブルさんに尋ねる。


「いや、出来る訳ないだろう。他の魔法もそうだが、魔法は使い手の魔力に比例する。
第3位階まで使えれば一流だ。第5位階の魔法が使えると知れれば、あちこちの国からお声が掛かるかもな。
俺は魔力量が少なくて収納魔法ストレージマジックしか使えないし容量も少ない。当然、水革袋や収納袋みたいなマジックアイテムを制作するなんて事も出来ないしな。」


ゲイブルさんは自嘲気味に笑いながら冥魔法について教えてくれた。
しかし……今の話を簡潔にまとめると……

『めんどくさい事になるから人前では使うな』

って事だな。
俺はそう解釈した。
よし。人前で使うのは控えた方がいいな。
めんどくさい事には巻き込まれたくない。うん。
しかしこの魔法が使えるって事は……
当然、ラノベでお馴染みのあれが使えそうな気がする訳で……。

今いる場所から別の場所に移動できる魔法だ。
しかし試すのは一人になってからにした方が良さそうだ。
夜になってからお試ししよう。


「じゃ、おやっさん、得物と魔導石は預かります。明日また来てください。」
「おう。ゲボォオ。頼んだぞ。」
「ゲボォオ!私の剣、格好よく仕上げてよね!」
「私の杖もぉ~!」
「分かった分かった。可愛くじゃなくてかっこよくすればいいんだな?任しとけ!!」


アイルとソフィちゃんがリクエストするとゲイブルさんは自信ありげに自分の胸をドンと叩く。
そう言うとゲイブルさんは裏の工房へ入って行った。
しかしゲボォオ……ゲイブルさん、さっきガガンさんの事を『師匠』って呼んでたな。


「ガガンさん、ゲイブルさんの師匠なんですか?」
「そうじゃ。鍛冶士としてのじゃがの。ここの工房も元々は儂がやっとったんじゃ。じゃが村長に据えられてからこっちに来る事が出来んようになってしもうてのぉ。そこで弟子のゲイブルに引き継いだんじゃ。利益の2割を儂に譲るちゅう事でな。」
「成る程……そうだったんですね。」
「ゲボォオの鍛冶士としての腕は儂が保障する。冒険者としての腕はからっきしじゃがのぉ。カッカッカ!!さて、完成するのは明日じゃし、帰るとするかのぉ。」


そして帰る道すがら、見知った一団を見つける。
『太陽の風』の4人組だ。
俺は後ろ姿に声を掛ける。


「シェール!」
「おぉ!パンツ兄ちゃんにお嬢ちゃん達!昨日ぶりだな!!今日は村の散策かい?」
「まぁ、そんな所です。シェール達はもう村を出る所?」
「おう!今からマゾン草原まで行ってモンスターを狩り捲ってたんまり経験値と金を稼いでくるぜぇ!!」


横からジンが割り込んでそう答える。


「今度会うときは、私達も白金級プラチナに昇格してる筈だよ。それにいつまでもこの残念白金級プラチナだけには任せてられないしね!」


そう言うとエチルさんはシェールを肘で突っつく。


「ま~だ残念白金級プラチナとか言ってんのかよ!俺はまだまだレベルアップするぜ!!ラシュリー様に追いつける様にな!!」
「その前にその剣のローンの支払いを終わらせて下さいね。」
「………はい。」


シェールが将来の目標を宣言するも、現実を突きつけるカバールさん。
まぁ、頑張って欲しい。
そして少し世間話をした後、村の入り口までシェール達一向をお見送りし、ガガンさんの家に帰って来た。
そうしてガガンさんに光魔法について聞いたりしながらその日はのんびりとした時間が過ぎて行き、晩御飯を終えて寛いだ後、就寝時間となり各々部屋へと入って行く。

そして俺は一人部屋に戻り、『空間移動ワープ』が出来ないか試す事にする。
俺は昼間の時と同じ様に、出口をイメージする。
出口の先、それは『ルク・スエル』にある『ゆっくりしていっ亭』だ。
既に深夜の時間帯なので、宿の周辺には人通りもないだろう。

俺は目の前に手の平を翳し魔力を込めると、目の前にイメージ通りの人が一人通れる程度の等身大の異空間の穴が現れた。
恐る恐るその穴に首だけ突っ込んでみる。
すると目の前に『ゆっくりしていっ亭』の看板が目に入って来た。

俺はそのまま異空間へ歩を進めて『ルク・スエル』に降り立った。
周囲に人通りは無く物音ひとつ聞こえずにシンと静まり返っている。
昼間は活気がある街だけに逆に少し不気味だが、その場を離れて夜の散歩に繰り出す事にした。
夜の散歩って昼間と違ってワクワクするんだよね。


「しかしホントに誰もいないな。」


大通りをのんびりギルドの前まで歩いて来たのだが、人影が全くない。
この街は早朝から店を開けないといけないので、就寝時間は早いのかもしれない。

俺は何気なくマップを開く。
………。
ホントに人っ子一人マップに反応がない。
眠っているか意識のない場合には反応しないっぽいな。
俺はそのままふらふらと街の入り口付近までくるとやっとマップに反応がある。

衛兵達が夜中もお仕事している様だ。
街を囲んでいる壁の見張り台から見回りをしていると思われる青のマーカーが動いていた。
俺は大通りの壁に適当に寄り掛かり、マップ画面を引いて5km圏内を表示する。
すると街の周辺に、赤いマーカーがポツポツと表示され始める。
魔獣かな?その表示された赤いマーカーを指先で触れると『ブラッド・ボア』と表示される。
この辺りはブラッド・ボアの生息地なのか?
先日もユニーク種が襲いかかって来たしな。

この『マップ』と『空間移動ワープ』を組み合わせられないだろうか?
試しにマップの行先に指でタッチするとそこが菱形の形で表示される。
そして俺は『空間移動ワープ』を展開し中に入るとそこは森の中だった。
再びマップを開き自分の位置を確認すると、先ほど行先を指定した場所に移動出来た様だ。

こ、これは……反則級に便利だ。
よくあるラノベ界隈では、一度行った場所でないと使えないとか余計な制限設定があったが……これは……この世界中、いつでもどこでも気軽に移動出来てしまうではないか。
これも人前で使うと確実にヤバそうなので使う時は注意しよう……。


「ブブブブブルルルゥルルルウル……。」


ん?何だ?後ろから声がする。
俺はそーっと後ろを振り返る。


「ブモモモモモオオモォォオオ!!!」
「ヒェェェェェエエエッ!!」


先ほどブラッドボアが表示されているマップのままで何も考えずに行先を指定した為にブラッドボアの目の前に移動してしまった様だ。
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