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第57話 工房へ 

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「さて得物の加工じゃが、儂がやってもええがもう10年以上しとらんし……
まだ現役のゲイブルに頼んでみるかのぉ。」

ゲイブルさん、最初に出会った時にアイル達と一緒にパーティを組んでいたおっさんリーダーだ。
そしてガガンさん連れられて、ゲイブルの鍛冶工房がある村の中心部へと移動する。


「ゲボォオぉお!ゲボォオぉお!!おるかぁ!!」


ゲボォオって何だ!?吐くの?


「おやっさん。そんな大声で呼ばなくても聞こえてますよ……。と言うか目の前にいるんだから居るのは分かってるでしょ……。」


工房に入ると、ガガンさんがカウンターに座っているゲイブルさんにチュー出来る距離まで顔を近づけて大声で呼びつける。
びっくりした。いきなりチューするのかと思った。

ちなみに『ゲボォオ』って言うのはゲイブルの坊主、略して『ゲボォオ(ゲイ坊)』って事らしい。
昔からガガンさんがゲイブルさんを呼ぶ際のあだ名?だとアイルが教えてくれた。


「鍛冶工房の臭いを嗅ぐとつい昔を思い出してしもぉてのぉ。カッカッカッ!」


この鍛冶工房は結構繁盛している様で、冒険者達の先客が数人目についた。
マゾン草原へ赴く前に装備品の手入れや調整等をここでして行くからだとアイルが教えてくれる。


「で、おやっさん、今日はどうしたんですか?アイル達を引き連れて。」
「うむ。こいつを加工して貰えないかと思ぉてのぉ。」


そう言いながらガガンさんはアイルの剣とソフィちゃんの杖と加工済の魔導石をカウンターの上に取り出す。


「魔導石!?おやっさん!久しぶりに属性付与するんですか!?」
「うむ。パンツ君がの属性付与する所を見たいと言うのでの。それにアイルとソフィがルク・スエルで働く事になるらしいから装備に魔法付与して餞別代わりにも丁度ええとおもぉてのぉ。頼めるか?」
「そりゃ『師匠』の頼みなら断れないですよ。じゃぁ直ぐに始めます。今日中には終わると思うので明日には出来てますよ。」
「おう。相変わらず仕事が早いのぉ。頼んだぞ。」


そう言うとゲイブルさんはカウンターから得物と魔導石に手を翳すと一瞬で手の中に消えた。
いや、消えた様に見えた。


「………!?ちょ……ゲイブルさん!?」
「な、何だよ。」


俺は驚いてゲイブルさんの肩に掴みかかる。


「今、何やったんですか!?」
「何やった?何かやったっけ?俺?」
「お前の収納魔法ストレージマジックの事じゃろ。」


ガガンさんが補足してくれた。


「あぁ。こいつの事か。これがどうかしたのか?」


そう言うと、ゲイブルさんは何もない場所に手を翳すとその先に時空の捻じれ?ともなんとも形容しがたい穴が現れ、そこに手を突っ込むと、そこから先程収納した得物と魔導石を取り出した。


「その、収納魔法ストレージマジックって『冥魔法』ですよね!?ゲイブルさん、冥魔法の使い手だったんですか!?
「いや、確かに希少とは言われてるが、俺の魔力量は少なくてな。
この収納魔法ストレージマジックしか使えないんだ。しかもそこまで容量もなくて収納袋ストレージバッグと同じ程度しか入れられないんだよ。」
「いやいや、凄いですよ!!コツとかありますか?」
「これは冥魔法の第1位階の魔法だし、そこまで難しいもんじゃない……が、最初はイメージし難いな。………って何で出来てんの!!」


俺はゲイブルさんの見よう見まねで収納魔法ストレージマジックを発動するとあっさり収納魔法ストレージマジックが発現する。


「変態じゃ!変態じゃぁぁあ!!」
「相変わらずパンツって…………はぁ、もういいよ。」
「お兄ちゃん!すごぉい!!これで私達の旅も楽になるね!!」


俺をまた変態呼ばわりするガガンさん。
工房の備え付けのテーブルに頬杖を付いて『やっぱりね』的な呆れ気味の表情のアイルさん。
キラキラ目を輝かせている魔法少女のソフィたん。カワイイ。
それぞれ三者三様のリアクションをする。


「この収納魔法ストレージマジックの容量って決まってるんですか?」
「これも他の魔法と同じで使い手の魔力に比例するんだ。魔力が少ない者は少量しか収納出来ないし、大きければその逆。伝説の魔法使いフランジェールは家や城まで収納出来たと言われてるけどな。」
「城……ですか……。それってもうほぼ無限に収納できるって事ですよね。」
「しかしフランジェールの話はもう御伽噺みたいなもんだ。
幾分、話を盛ってんじゃないか?家ぐらいならギリ分からんでもないが、城は流石にやりすぎだろ?」


こちらに来て城なんて見ていないが、ルク・スエルのギルドよりも大きい筈だ。
それよりもデカい城を収納できるとか正に規格外な魔力だな。
真偽は不明だが。

しかしこの収納魔法ストレージマジックは異空間に物を収納する魔法だよな。
この異空間に入口と出口をイメージして遠くにある物体を取ったり、そのまま収納とか出来ないのか?

俺は再び今のイメージをして魔法を発動させて入口となる穴へ腕を突っ込む。
試しに出口を机に突っ伏しているアイルの後ろにイメージをする。
すると思惑通り、アイルの後方に穴が出現し俺の手が出てきたではないか。
何か妙な気分だな。
腕は手元から消えているのに腕から先は目の前のアイルの後ろから出ている。
からかってやるか……。

俺はアイルの後方に出いている手でアイルの左肩をポンポンと叩き直ぐに引っ込める。
アイルは肩を叩かれた事に気付き『ん?』と左後方を振り向くがそこには誰もいない。
『?』アイルは怪訝な顔をしながらもまた突っ伏してしまう。
そして俺はまたポンポンと肩を叩き直ぐに引っ込める。
するとアイルは直ぐに振り返り周囲をキョロキョロと見回すがやはり誰もいない為、気味悪がって椅子から立ち上がる。


「ね、ねぇ。ソフィ?私の肩、叩いた?」
「?ん~ん~?叩いてないよぉ?どうして?」
「あれぇ?おかしいな。肩を叩かれた気がしたんだけど……。」


アイルはまだ辺りをキョロキョロと見回すが、当然誰もいない。
これ、多分、手じゃなくてもいけるな……。
アイルは怯えながら椅子に再び着席した。

ポンポン


「さっきから誰!?」
「ベロベロばぁ~」
「んぎゃぁぁぁっぁぁぁっぁぁっぁああああぁぁぁぁl!!!」


メリリっ!!

涙目になりながらもアイルは鉄拳を俺の顔面にめり込ませた。
俺は収納魔法ストレージマジックの入り口に顔を入れると、出口に顔を出す事でアイルを驚かす事に成功し尚且つ御褒美(反撃)を頂きました。
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