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餃子
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気づいたらいた霧ががった草原の道にいた。あちこち走り回って見たが何もなくてトボトボ歩いて行くと、やっと何か見えた。川が近いのか水の流れる音がする。
「すみません!ここ何処ですか?!」
見つけた店のドアを勢い良く開けると、中の人はビクッとする。何で驚くのかと思ったら、【ダイニングキッチン『最後に晩餐』】と書かれたドアには「本日貸し切り」と張り紙があった。
「あ……すみません。」
「いやいいですよ。それより……。」
「それより聞いてくださいよ!」
お店の人と私の「それより」が被った。おかしくて笑ってしまう。
「……何してるんですか?」
店長さんらしきその人は、お店のテーブルをくっつけて何かやっている。来い来いと手招きされたので近づく。
「……あ!餃子じゃん!ルミ、餃子包むの上手いよ?!」
「本当ですか?!」
店長さんは大量の餃子をせっせと包んでいた。その光景にテンションが上がった私。店長さんは泣きそうな顔で懇願してくる。
「お願いします!手伝ってください!」
「え~?!まぁ、いいけどさぁ~。」
久しぶりに見た餃子を包む作業。懐かしくて思わずOKする。
「本当に上手いですね?!」
「ふふん。おばあちゃんに鍛えられたからね!」
「助かります。餃子パーティーなのですが、一緒に包む方が腰を痛めて急遽一人で包む事になって……。」
「何それ?ルミ、救世主じゃん?!」
「神様仏様、女神様です。」
「それほどでも~。」
店長さんに上手い事言われ、私はどんどん餃子を包んでいく。
懐かしい……。
包みながら泣きそうになる。おばあちゃんとよく餃子を包んだ。そして夜は餃子パーティー。帰ってきた家族とわいわい食べた。
「ルミさん?」
「あ、ごめんごめん!おばあちゃんとよく餃子包んでたの思い出して。美味しかったなぁ~。おばあちゃんの餃子~。」
「へぇ~。」
「でもおばあちゃんの餃子の味、再現できないの。何が入ってたんだろう?」
やっと大量の餃子を包み終えた。座ってゆっくりしてくださいと言われてカウンターに座ると、香ばしい匂いがしてくる。
コト……。
目の前に餃子が置かれる。驚いて顔を上げると店長さんがにっこり笑った。
「お味見にどうぞ。」
焼きたての餃子。裏面はきつね色にパリッと焼け上側はもっちりした皮。熱々の証拠に焦げ目がまだパチパチ小さな音を立てていた。
「……………………。」
「お嫌いでしたか?」
店長さんの言葉に首を振る。嫌いじゃない。餃子は大好きだった。特におばあちゃんの餃子は……。でも私は目の前の餃子を見て硬直していた。
食べたい……。
すごく美味しそうな匂いがする。
でも……。
「怖い……。」
口から出た言葉に驚いた。でもそれで自覚した。怖い。私は食べ物が怖かった。お腹が空いていない訳じゃない。美味しそうだと思えない訳じゃない。
でも……怖かったのだ……。
頭がぐるぐるする。食べたい体の反応と食べたくないと拒絶する頭。
餃子を包んでいた手を見つめる。楽しかった思い出。おばあちゃんの餃子。それが私を包んでくれた。
「………………。」
私は恐々、箸を取ってそれを齧った。香ばしい皮の部分がパリッと弾け、中から旨味たっぷりの熱い肉汁が出てくる。
「熱っ!!」
熱かった肉汁が口いっぱいに広がり、旨味が脳に突き抜けた。パリパリとモチモチの皮。広がる美味しさに唾液が分泌され、体中の細胞がもっともっとと叫んでいる。
私はガツガツと餃子を口に運んだ。ボロボロと涙が溢れ、口に入って塩っぱかった。
「……これ……どうやって作ったの……?」
食べ終えた私は店長さんにそう聞いた。
涙が止まらなかった。
だって……。
だってこれは……。
「……ルミさんの、小さい時のアルバムを見て下さい。そこに答えがありますよ。」
店長さんにそう言われた瞬間、私は全てを思い出した。私はガタッと勢い良く立ち上がった。ボロボロ泣きながら、店長さんにニッと笑う。店長さんも静かに笑って頷いてくれた。私は店を飛び出し、もと来た方へ無我夢中で走って行った。
あれが夢だったのか何なのか。
退院した私の腕はまだ枝のように細い。その手で押入れのアルバムを引っ張り出してページを捲る。おばあちゃんの持っていた私のアルバムにはメモが一緒につけられていた。
「…………あっ!!」
そして見つけた。小さな私とおばあちゃんが餃子を包んでいる写真。その横のメモに餃子の作り方が書いてあった。こんなところに作り方が隠されていたなんて灯台下暗しだ。
「……ルミ?買い物に行くけど、何か食べたいものある?」
お母さんがそう聞いた。私は笑って手招きしてアルバムを指差した。
「久しぶりに餃子パーティーしよう。おばあちゃんの餃子で。」
「あら!懐かしい!!」
「……たくさん包むよ。おばあちゃんに鍛えられて、ルミ、包むの上手いんだからね!」
そう言って私は笑った。
「すみません!ここ何処ですか?!」
見つけた店のドアを勢い良く開けると、中の人はビクッとする。何で驚くのかと思ったら、【ダイニングキッチン『最後に晩餐』】と書かれたドアには「本日貸し切り」と張り紙があった。
「あ……すみません。」
「いやいいですよ。それより……。」
「それより聞いてくださいよ!」
お店の人と私の「それより」が被った。おかしくて笑ってしまう。
「……何してるんですか?」
店長さんらしきその人は、お店のテーブルをくっつけて何かやっている。来い来いと手招きされたので近づく。
「……あ!餃子じゃん!ルミ、餃子包むの上手いよ?!」
「本当ですか?!」
店長さんは大量の餃子をせっせと包んでいた。その光景にテンションが上がった私。店長さんは泣きそうな顔で懇願してくる。
「お願いします!手伝ってください!」
「え~?!まぁ、いいけどさぁ~。」
久しぶりに見た餃子を包む作業。懐かしくて思わずOKする。
「本当に上手いですね?!」
「ふふん。おばあちゃんに鍛えられたからね!」
「助かります。餃子パーティーなのですが、一緒に包む方が腰を痛めて急遽一人で包む事になって……。」
「何それ?ルミ、救世主じゃん?!」
「神様仏様、女神様です。」
「それほどでも~。」
店長さんに上手い事言われ、私はどんどん餃子を包んでいく。
懐かしい……。
包みながら泣きそうになる。おばあちゃんとよく餃子を包んだ。そして夜は餃子パーティー。帰ってきた家族とわいわい食べた。
「ルミさん?」
「あ、ごめんごめん!おばあちゃんとよく餃子包んでたの思い出して。美味しかったなぁ~。おばあちゃんの餃子~。」
「へぇ~。」
「でもおばあちゃんの餃子の味、再現できないの。何が入ってたんだろう?」
やっと大量の餃子を包み終えた。座ってゆっくりしてくださいと言われてカウンターに座ると、香ばしい匂いがしてくる。
コト……。
目の前に餃子が置かれる。驚いて顔を上げると店長さんがにっこり笑った。
「お味見にどうぞ。」
焼きたての餃子。裏面はきつね色にパリッと焼け上側はもっちりした皮。熱々の証拠に焦げ目がまだパチパチ小さな音を立てていた。
「……………………。」
「お嫌いでしたか?」
店長さんの言葉に首を振る。嫌いじゃない。餃子は大好きだった。特におばあちゃんの餃子は……。でも私は目の前の餃子を見て硬直していた。
食べたい……。
すごく美味しそうな匂いがする。
でも……。
「怖い……。」
口から出た言葉に驚いた。でもそれで自覚した。怖い。私は食べ物が怖かった。お腹が空いていない訳じゃない。美味しそうだと思えない訳じゃない。
でも……怖かったのだ……。
頭がぐるぐるする。食べたい体の反応と食べたくないと拒絶する頭。
餃子を包んでいた手を見つめる。楽しかった思い出。おばあちゃんの餃子。それが私を包んでくれた。
「………………。」
私は恐々、箸を取ってそれを齧った。香ばしい皮の部分がパリッと弾け、中から旨味たっぷりの熱い肉汁が出てくる。
「熱っ!!」
熱かった肉汁が口いっぱいに広がり、旨味が脳に突き抜けた。パリパリとモチモチの皮。広がる美味しさに唾液が分泌され、体中の細胞がもっともっとと叫んでいる。
私はガツガツと餃子を口に運んだ。ボロボロと涙が溢れ、口に入って塩っぱかった。
「……これ……どうやって作ったの……?」
食べ終えた私は店長さんにそう聞いた。
涙が止まらなかった。
だって……。
だってこれは……。
「……ルミさんの、小さい時のアルバムを見て下さい。そこに答えがありますよ。」
店長さんにそう言われた瞬間、私は全てを思い出した。私はガタッと勢い良く立ち上がった。ボロボロ泣きながら、店長さんにニッと笑う。店長さんも静かに笑って頷いてくれた。私は店を飛び出し、もと来た方へ無我夢中で走って行った。
あれが夢だったのか何なのか。
退院した私の腕はまだ枝のように細い。その手で押入れのアルバムを引っ張り出してページを捲る。おばあちゃんの持っていた私のアルバムにはメモが一緒につけられていた。
「…………あっ!!」
そして見つけた。小さな私とおばあちゃんが餃子を包んでいる写真。その横のメモに餃子の作り方が書いてあった。こんなところに作り方が隠されていたなんて灯台下暗しだ。
「……ルミ?買い物に行くけど、何か食べたいものある?」
お母さんがそう聞いた。私は笑って手招きしてアルバムを指差した。
「久しぶりに餃子パーティーしよう。おばあちゃんの餃子で。」
「あら!懐かしい!!」
「……たくさん包むよ。おばあちゃんに鍛えられて、ルミ、包むの上手いんだからね!」
そう言って私は笑った。
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