サラリーマンと異世界 ～秩序が崩壊した世界を気ままに生き抜く～

第92話 混沌の上塗り

　モンスターがヒュージセンチピードの上に落下してくる。
　何割かは既に死体だったり、生きていても転がり落ちて消えたが、一部は上手く着地に成功した。

　青緑色の鱗に覆われた人型のモンスターはリザードマンだ。
　数は三十体か四十体くらいで、大半が片手に石の斧か槍を所持している。
　彼らは外殻にしがみ付いて落下を免れていた。

　困惑した様子で周囲を見回しており、突然の攻撃で状況が分かっていないらしい。
　ただし、目が合った個体はいずれも敵愾心を剥き出しにした。
　友好的にやり取りできる気はしなかった。

　リザードマンの他にも水棲モンスターはいる。
　外殻に吸着して触手を蠢かせるのは、軽自動車サイズのイソギンチャクだ。
　初めて見た個体なのでマイナーなモンスターなのかもしれない。

　巨大イソギンチャクはヒュージセンチピードの胴体に点々とくっ付いていた。
　触手に絡み付くのはリザードマンの死体だ。
　溶けた死体が骨が露出させて、腹からは内臓を垂らしている。
　あの触手に掴まってはいけないのは一目で分かった。
　無差別に獲物を襲っているようなので、リザードマンを盾にするのが最善だろう。

　ヒュージセンチピードの胴体周りを飛行するのは、額から刃の生えたトビウオだ。
　少なく見積もっても数百匹が群れを成して追跡している。
　おそらく縄張りを荒らされたと認識して、ヒュージセンチピードに攻撃を仕掛けようとしているのだ。
　ネットで見かけたことのあるモンスターで、SNSや掲示板では『ソードフィッシュ』や『刺殺トビウオ』などと呼ばれていた。
　数に任せた飛行と突撃により、獲物を八つ裂きにするのが得意とされている。

　他にも様々な種類の水棲モンスターが集結していた。
　かなりの密度になっており、そのような状況から穏やかな展開になるはずがない。
　次の瞬間、彼らの殺し合いが勃発した。
　互いに縄張りと生存権を巡って暴力を行使する。

　最悪な戦場だが、残念ながら嘆くだけの猶予も与えられない。
　斧を持って襲いかかってきたリザードマンを炎の噴射で焼き殺すと、前を剥いて這い進む。

　こうなっては仕方ない。
　取るべき行動は一貫している。
　モンスター達の乱入は厄介だが、悪いことばかりではない。
　彼らの殺し合いがヒュージセンチピードを傷付けてくれることを祈ろうと思う。
　その間に頭部に到達するのだ。