夏の大三角関係

田古みゆう

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 晴れて晴彦さんと付き合うことになった私は、早々に親元を離れ、生活の場をこの地に移した。もう、少しも彼と離れていたくなかったから。

 これからは、夏以外に秋も冬も、そして春も、いつでも3人で過ごせると思っていたけれど、なかなか皆の予定が揃うことはなく、いつも誰かが欠けていた。誰かと言っても、それは大抵白鳥さんだった。

 白鳥さんは、人当たりが良いからか、たくさんの予定が入るらしく、誘っても断られることが多かった。

 しかし不思議なことに、そのたくさんの予定の中に、特別な人の存在は見当たらなかった。それを晴彦さんに言うと、彼は何か言いずらそうに言葉を濁した。

 不器用な彼の態度に、何かあるのだなと窺い知れたが、それ以上は問い詰めてはいけないような気がして、聞けずにいた。それから、今に至るまで、そのことについては分からずじまいだった。

 白鳥さんの不在で、私たちは必然的に二人で過ごす時間が増えた。付き合っているのだから当たり前のことなのだが、付き合い始めの頃はなんだかそれが気恥ずかしくて、私は、ついつい白鳥さんの存在を求めてしまっていた。ようやく二人でいることが自然になったのは、大学を卒業する頃だった。

「またな」

 そろそろ一緒に暮らそうかと考えていた矢先、そういつも通りの短い言葉を残して、晴彦さんは、私の前から姿を消してしまった。桜吹雪が彼の姿を隠してしまうように強く吹いていた。

 突然、晴彦さんを失った私は、仕事どころか生活もままならず、ただ一人暗い部屋で呆然としていた。

 そんな私を暗闇から引っ張り出してくれたのは、白鳥さんだった。何もできず、ただ息をして生きながらえていた私を、引きずるようにして部屋から連れ出し、彼らの秘密基地へと連れてきた。

 もう随分と長い付き合いになっていたが、その時まで、私は、彼らの秘密基地に来たことがなかった。

「織ちゃん。見てごらん。晴彦が大切に育てていた向日葵だよ。今年は一段と大きく育ったんだ。これからは、きみも一緒に育てて行こう」

 太陽に向かって立派に伸びる向日葵たちの眩しい黄色が私の目を刺激した。私の瞳に色が戻り、次に、ザザン……ザザン……と波音が聞こえてきた。

 眩しい向日葵と静かな波音が次第に、私を覚醒させていく。私は、何も考えずにただそれらに身を任せその場に佇み続けた。

 どのくらいそうしていたのか、不意に淡い光を目の端に捉えた私の視線は、自然とそちらへと惹きつけられた。
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