3 / 8
離れていても、ずっと君を愛し続ける。(3)
しおりを挟む
ぼくは何も言わずに立ち上がり、信じられないという表情を浮かべる彼女の元へ歩いていった。彼女は少し微笑んだようだったが、やがて目を伏せてうつむいた。そして言った。
「どうしてここに?」
「君に会いたかったから」
「今日、わたしがここに来なかったらどうしていたの?」
「そしたら、君に会えるまで毎日通ったさ。ぼくは、いつか必ず君に会えると信じていたからね」
彼女は首を振った。
「再び会えたところで、私たちの関係は二度と変わらないわ」
「なぜだい?」
「わかるでしょう」
彼女は顔を上げて笑おうとした。しかし、その笑顔は途中で崩れてしまった。ぼくは彼女の肩に手をかけた。彼女は抵抗しなかった。ぼくたちはしばらくの間抱き合っていた。
「ぼくは決めたんだよ」
「何を?」
「家を、名前を捨てる」
「…………」
彼女はぼくの顔を見つめたまま黙っていた。
「ぼくは生まれ変わるつもりだ。そのために家を出た。だから、もうぼくたちが離れる理由はなくなったのさ」
ぼくは彼女の手を握り締めた。そして、もう一度はっきりと自分の気持ちを伝えた。
「ぼくは君を愛している。これから先、何年たってもそれは変わらぬ想いだと思う。ぼくは、君のいない人生なんて考えられない。君はぼくにとってすべてなんだ。だから、ぼくと一緒になってくれないか」
彼女はぼくの手を振りほどくようにして体を離すと、背を向けたまま言った。
「……ごめんなさい。あなたの気持ちはとても嬉しいけれど、やっぱりわたしには無理よ。だって、わたしはあなたに相応しくないもの。わたしはわたしの名前を、家を捨てられないわ」
ぼくはその言葉を無視して続けた。
「もし、どうしても嫌だというなら仕方がない。でも、そうでないんだったら二人で幸せになろう。ぼくが一生かけても君を守るから。もう、泣かせたりしないから。絶対に約束するよ」
彼女は振り向いた。目には涙が溢れていた。
「本当に……本当に無理なのよ。わたしはあなたのように強くない。家を捨てるなんてできないのよ。それに、あの人もまだ諦めていないはずだし……」
彼女は泣きながら声を詰まらせた。
ぼくはポケットからハンカチを取り出し、彼女に渡した。それから、一緒に取り出した彼女の小さな指輪も差し出した。
「これは返すよ。ぼくの指には合わなかったんだ。君が持っていてくれ」
彼女はそれを受け取ると、両手で包み込むように胸に抱きしめた。そして、しばらくのあいだ静かに泣いていた。
「どうしてここに?」
「君に会いたかったから」
「今日、わたしがここに来なかったらどうしていたの?」
「そしたら、君に会えるまで毎日通ったさ。ぼくは、いつか必ず君に会えると信じていたからね」
彼女は首を振った。
「再び会えたところで、私たちの関係は二度と変わらないわ」
「なぜだい?」
「わかるでしょう」
彼女は顔を上げて笑おうとした。しかし、その笑顔は途中で崩れてしまった。ぼくは彼女の肩に手をかけた。彼女は抵抗しなかった。ぼくたちはしばらくの間抱き合っていた。
「ぼくは決めたんだよ」
「何を?」
「家を、名前を捨てる」
「…………」
彼女はぼくの顔を見つめたまま黙っていた。
「ぼくは生まれ変わるつもりだ。そのために家を出た。だから、もうぼくたちが離れる理由はなくなったのさ」
ぼくは彼女の手を握り締めた。そして、もう一度はっきりと自分の気持ちを伝えた。
「ぼくは君を愛している。これから先、何年たってもそれは変わらぬ想いだと思う。ぼくは、君のいない人生なんて考えられない。君はぼくにとってすべてなんだ。だから、ぼくと一緒になってくれないか」
彼女はぼくの手を振りほどくようにして体を離すと、背を向けたまま言った。
「……ごめんなさい。あなたの気持ちはとても嬉しいけれど、やっぱりわたしには無理よ。だって、わたしはあなたに相応しくないもの。わたしはわたしの名前を、家を捨てられないわ」
ぼくはその言葉を無視して続けた。
「もし、どうしても嫌だというなら仕方がない。でも、そうでないんだったら二人で幸せになろう。ぼくが一生かけても君を守るから。もう、泣かせたりしないから。絶対に約束するよ」
彼女は振り向いた。目には涙が溢れていた。
「本当に……本当に無理なのよ。わたしはあなたのように強くない。家を捨てるなんてできないのよ。それに、あの人もまだ諦めていないはずだし……」
彼女は泣きながら声を詰まらせた。
ぼくはポケットからハンカチを取り出し、彼女に渡した。それから、一緒に取り出した彼女の小さな指輪も差し出した。
「これは返すよ。ぼくの指には合わなかったんだ。君が持っていてくれ」
彼女はそれを受け取ると、両手で包み込むように胸に抱きしめた。そして、しばらくのあいだ静かに泣いていた。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。
しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。
ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。
セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる