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閑話 ギルバート
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なぜか怒りを滲ませたような表情でやってきた王子殿下。
「ベイン子爵令息。私がエレノアとギルバートの代わりに話を聞いてやると言っている。
早くさっきの話の続きをしてくれるか?愛人の子だから何だって…?」
王族は読唇術が出来るのか?それとも聴覚が鋭いのだろうか?近くにはいなかったはずなのに、何で会話の内容を知っているのだろう?
「お、王子殿下が気にかけるような話ではございません!」
王子殿下の登場で慌てる次兄とその友人達。子爵家から見たら王族は雲の上の存在だから、当然と言えば当然の反応か…。
「私達王族だって、過去に遡れば愛人の血だって入っているぞ。王妃に子ができず、愛妾の子が国王になったことだってある。お前は私達王族も否定するのだな。」
「め…、滅相もございません!」
「それにギルバートは、宰相子息と首席争いをするくらい優秀だそ。ベイン子爵令息は学年で何位だ?
私とエレノアのAクラスにはいなかったから、上位ではなかったよな?」
次兄の顔色がみるみる悪くなり、顔面蒼白になってしまった。
「そんな馬鹿げた話をするために、エレノアとギルバートに絡むな。
分かったら、さっさと退け!」
「…ひっ!も、申し訳ありませんでした。」
次兄とその友人達は、二度と私達に絡んで来ることはなかった…。
「王子殿下…。大変見苦しい所をお見せしてしまい、お恥ずかしい限りでございます。
私の兄が申し訳ありませんでした。」
「気にするな!エレノアの義弟も私の仲間みたいなものだからな。
ギルバート、お前は何も恥じることはしていないのだから堂々とするんだ。
エレノアはこんな感じだが、義弟のギルバートがしっかりしているから、ベネット伯爵もさぞや喜んでいるだろうな。」
義姉は殿下を悪魔と呼んでいたが、こんな心温まる言葉を掛けてくれるお方だったのか…。
それに殿下は私を〝ギルバート〟って呼び捨てで呼んでくれていて驚いたけど、全然嫌な気はしなかった。
だが、義姉はそうは感じていなかったようだった。
「王子殿下。レディに向かって〝こんな感じ〟とは何なのでしょうね?私はギルの良き義姉のつもりでいましたのでとても心外です。
でも…、うちの可愛い義弟を助けて下さったことには感謝しておりますわ。ベネット家を継ぐ義弟を、今後もよろしくお願い致します。
…ギル、そろそろ行くわよ。」
「王子殿下。本当にありがとうございました。
失礼致します。」
「ああ。またな。」
その後、王子殿下と義姉のやり取りを見る機会が沢山あり気付いたのだが、王子殿下は義姉に片想いをしているようだった。
いつも明るくて気さくな殿下が、義姉絡みになるとキレるし容赦しないのだ。
義姉に近付く令息を片っ端から追い払い、義姉に悪意を持って絡む令嬢には、陰で警告をしている姿を何度か見たことがある。殿下は義姉の最強のボディーガードのようであった。
しかし残念なことに、殿下の気持ちは義姉には全く伝わっていなかった。
殿下は根はとてもお優しい方なのに、義姉に対しては上手く愛情を伝えられない不器用な方のようだ。
殿下や義姉の周りの友人達もそれを知っているようで、複雑そうな表情で殿下を見ている姿が印象的だった。
私がベネット家に来て2年を過ぎた頃には、義両親や義姉とも本音で話が出来るくらいに馴染んでいたと思う。
ある日、義両親に呼び出された私は、驚く話を聞かされることになった。
「ギルに伝えたいことがある。
ノアなのだが、好きな人が出来たからその人と婚約したいと言って来た。」
「えっ?その方は王子殿下ではないですよね?」
「…全く違う人物だ。」
義両親の表情を見て、義姉の好きな人があまり喜べない人物なのだと理解した。
「相手は誰なのです?」
「ロジャース伯爵だ。」
「ロジャース伯爵?
……借金で没落しそうだというロジャース伯爵ですか?」
「そうだ。少し前の夜会で、ボルチャコフ侯爵子息に付き纏われて、困っている時に助けてくれたらしい。
運命的な出会いだったと言っていた…。」
「う…、運命ですか?」
17歳にもなって、ロマンス小説に影響されすぎだ!
「ロジャース伯爵様はね、すごい美形の伯爵様なのよ。一夜の恋のお相手にしたいって話す夫人もいるのよね…。
大人な雰囲気で、優しくてカッコいいロジャース伯爵様は、私の王子様だとノアが言っていたわよ。」
ハァー。本物の王子様が身近な所にいるのに…。
「一夜の恋のお相手にと夫人方が望まれるくらいの方なら、すでに決まった相手がいるのではないのですか?」
「ロジャース伯爵の身辺調査をしてみたら、親しくしている女性はいないようだし、質素倹約な生活をしているようだった。
両親に恵まれず、今ある借金も亡くなった両親のものらしいから、苦労はしているようだ。」
両親に恵まれなかった伯爵か…。
「ノアは言い出したら聞かないから困ったわ。」
その後、義姉は難色を示す両親を説得し、あっという間にロジャース伯爵の婚約者の座を射止めていた。
婚約が決まって嬉しそうにする義姉を、沈んだような表情で見ている殿下があまりにも不憫に見えた。
「ベイン子爵令息。私がエレノアとギルバートの代わりに話を聞いてやると言っている。
早くさっきの話の続きをしてくれるか?愛人の子だから何だって…?」
王族は読唇術が出来るのか?それとも聴覚が鋭いのだろうか?近くにはいなかったはずなのに、何で会話の内容を知っているのだろう?
「お、王子殿下が気にかけるような話ではございません!」
王子殿下の登場で慌てる次兄とその友人達。子爵家から見たら王族は雲の上の存在だから、当然と言えば当然の反応か…。
「私達王族だって、過去に遡れば愛人の血だって入っているぞ。王妃に子ができず、愛妾の子が国王になったことだってある。お前は私達王族も否定するのだな。」
「め…、滅相もございません!」
「それにギルバートは、宰相子息と首席争いをするくらい優秀だそ。ベイン子爵令息は学年で何位だ?
私とエレノアのAクラスにはいなかったから、上位ではなかったよな?」
次兄の顔色がみるみる悪くなり、顔面蒼白になってしまった。
「そんな馬鹿げた話をするために、エレノアとギルバートに絡むな。
分かったら、さっさと退け!」
「…ひっ!も、申し訳ありませんでした。」
次兄とその友人達は、二度と私達に絡んで来ることはなかった…。
「王子殿下…。大変見苦しい所をお見せしてしまい、お恥ずかしい限りでございます。
私の兄が申し訳ありませんでした。」
「気にするな!エレノアの義弟も私の仲間みたいなものだからな。
ギルバート、お前は何も恥じることはしていないのだから堂々とするんだ。
エレノアはこんな感じだが、義弟のギルバートがしっかりしているから、ベネット伯爵もさぞや喜んでいるだろうな。」
義姉は殿下を悪魔と呼んでいたが、こんな心温まる言葉を掛けてくれるお方だったのか…。
それに殿下は私を〝ギルバート〟って呼び捨てで呼んでくれていて驚いたけど、全然嫌な気はしなかった。
だが、義姉はそうは感じていなかったようだった。
「王子殿下。レディに向かって〝こんな感じ〟とは何なのでしょうね?私はギルの良き義姉のつもりでいましたのでとても心外です。
でも…、うちの可愛い義弟を助けて下さったことには感謝しておりますわ。ベネット家を継ぐ義弟を、今後もよろしくお願い致します。
…ギル、そろそろ行くわよ。」
「王子殿下。本当にありがとうございました。
失礼致します。」
「ああ。またな。」
その後、王子殿下と義姉のやり取りを見る機会が沢山あり気付いたのだが、王子殿下は義姉に片想いをしているようだった。
いつも明るくて気さくな殿下が、義姉絡みになるとキレるし容赦しないのだ。
義姉に近付く令息を片っ端から追い払い、義姉に悪意を持って絡む令嬢には、陰で警告をしている姿を何度か見たことがある。殿下は義姉の最強のボディーガードのようであった。
しかし残念なことに、殿下の気持ちは義姉には全く伝わっていなかった。
殿下は根はとてもお優しい方なのに、義姉に対しては上手く愛情を伝えられない不器用な方のようだ。
殿下や義姉の周りの友人達もそれを知っているようで、複雑そうな表情で殿下を見ている姿が印象的だった。
私がベネット家に来て2年を過ぎた頃には、義両親や義姉とも本音で話が出来るくらいに馴染んでいたと思う。
ある日、義両親に呼び出された私は、驚く話を聞かされることになった。
「ギルに伝えたいことがある。
ノアなのだが、好きな人が出来たからその人と婚約したいと言って来た。」
「えっ?その方は王子殿下ではないですよね?」
「…全く違う人物だ。」
義両親の表情を見て、義姉の好きな人があまり喜べない人物なのだと理解した。
「相手は誰なのです?」
「ロジャース伯爵だ。」
「ロジャース伯爵?
……借金で没落しそうだというロジャース伯爵ですか?」
「そうだ。少し前の夜会で、ボルチャコフ侯爵子息に付き纏われて、困っている時に助けてくれたらしい。
運命的な出会いだったと言っていた…。」
「う…、運命ですか?」
17歳にもなって、ロマンス小説に影響されすぎだ!
「ロジャース伯爵様はね、すごい美形の伯爵様なのよ。一夜の恋のお相手にしたいって話す夫人もいるのよね…。
大人な雰囲気で、優しくてカッコいいロジャース伯爵様は、私の王子様だとノアが言っていたわよ。」
ハァー。本物の王子様が身近な所にいるのに…。
「一夜の恋のお相手にと夫人方が望まれるくらいの方なら、すでに決まった相手がいるのではないのですか?」
「ロジャース伯爵の身辺調査をしてみたら、親しくしている女性はいないようだし、質素倹約な生活をしているようだった。
両親に恵まれず、今ある借金も亡くなった両親のものらしいから、苦労はしているようだ。」
両親に恵まれなかった伯爵か…。
「ノアは言い出したら聞かないから困ったわ。」
その後、義姉は難色を示す両親を説得し、あっという間にロジャース伯爵の婚約者の座を射止めていた。
婚約が決まって嬉しそうにする義姉を、沈んだような表情で見ている殿下があまりにも不憫に見えた。
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