君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

文字の大きさ
上 下
121 / 125

閑話 ギルバート

しおりを挟む
 夕食後、義両親と私で話をする事になった。

「ノアは、あまり経営者には向いていないと思うんだ。少し夢見がちで世間知らずだし。
 私達が一人娘だからと、好きにやらせてしまっていたら、自由奔放に育ってしまったしな。」

「そうなのよね。根は優しい子ではあると思うのだけどね。
 最近はロマンス小説にハマっているみたいで、いつか素敵な王子様が迎えに来てくれるはずだから、この家は継げないって言っていたわ。」

「……え?」

 子供じゃあるまいし、王子様だって…?次兄は才女だって話していたはずだけど…。

「だからギルバートに跡継ぎとして、後継者教育を受けてもらいたいんだが頼めるか?
 家庭教師達が、君は冷静沈着で優秀で努力家だと褒めていた。私達に力を貸して欲しい。」

「精進致します。よろしくお願いします。」

 次の日から家庭教師を沢山つけられて勉強する日々が始まる。後継者教育と来年度は貴族学園に入学するので、それに向けての勉強だった。勉強自体は好きだったし、義両親は優しい人達だったから何の不満もなかった。
 義姉だけは、生徒会の仕事が忙しく、疲れて帰ってくるようで、食事の時以外はあまり顔を合わせる機会はなかったように思う。


 そして15歳になった私は貴族学園に入学する。


「ギル、帰りは私は遅いから別になるけど、朝は一緒に学園に行きましょうね!」

「はい。義姉さん、よろしくお願いします。」

 一緒に行こうと誘ってくれたことは嬉しかった。多分、私は嫌われてはいないのだと思う。
 しかし、義姉が一緒に行こうと私を誘ってきた理由を、学園に着いてから知ることになる。

 義姉と一緒の馬車に乗り学園に向かう。
 馬車を降りた先にいたのは、この学園で知らない人はいないであろう人物だった。
 どうしてこんな高貴な方がここにいるんだ?

「エレノア、偶然だな。せっかくここで会ったのだから、教室までエスコートしてやってもいいぞ。」

「王子殿下、ご機嫌よう。
 せっかくの王子殿下のお誘いですが、可愛い義弟が入学してきまして、一緒に登校する約束をしておりましたの。ですからエスコートは、今日からは仲良しの義弟にお願いすることにしますわ。
 王子殿下はぜひ、殿下をお慕いしている御令嬢方をエスコートして差し上げて下さいませ。
 オホホ…。では殿下、また後ほど教室で。」

 義姉は私の腕を引き歩き出す。
 王子殿下の誘いを断っていいのか?

「義姉さん!いいのですか?王子殿下の誘いを断ってしまって?」

「大丈夫よ。私、初対面の貴方に絶対に仲良くしようって言ったでしょ?私達は仲良し姉弟なのだから、朝のエスコートはギルがするのよ。」

「……もしかして義姉さん、殿下の誘いを断る為に、私を利用したのでしょうか?」

「……うっ。バレちゃった?ごめん。」

「それくらいはいいですけど、不敬にならないようにして下さいね。」

 分かりやすい人だと思った。

 義姉は、放課後の生徒会の仕事に行きたくないからと、私の誕生日まで利用する。

「ギル、明日のギルの誕生日は放課後に私と出掛けましょう。美味しいスイーツのお店に行ってお祝いして、ギルの欲しいものを買いに行くのよ。」

「義姉さん…、生徒会をサボりたいからと、私の誕生日を理由にしていませんか?」

「…だって、どうしても行きたいお店があったの。
 お願い!義弟の誕生日だって言えば生徒会の仕事は休めそうなのよ。あの悪魔は家族仲良しらしいから、家族の誕生日の日に生徒会を休むことだけは、認めてくれるのよ。」

「悪魔って言ってはダメですよ!
 ハァー。分かりました。明日は義姉さんに付き合いますよ。」

「ギル、ありがとう!」

 義姉とは、次の日に人気のカフェに行き、ケーキを食べた後、買い物に行った。

「ギル、誕生日おめでとう!」

 カフェでお茶をしていた時に、義姉からプレゼントを渡される。
 姉の鞄に入っていたということは、事前に用意してくれていたのだろう。

「あ、ありがとうございます。」

 こんな風に自分の誕生日を祝ってもらえたのは、初めてのことだった。
 義姉はそれから毎年、こうやって私の誕生日を祝ってくれるようになる。
 
 義姉に振り回される毎日を送っていたら、私達は学園でも仲良し姉弟として認識されていた。

 そんな私を見て面白くなさそうにする者達がいた。
 一つ上の学年に在籍していた子爵家の次兄と、次兄の友人達だ。義姉の同級生になるのだが、クラスは違うようで、義姉との接点は全くない者達。
 大したことない子爵家の妾腹だった私が、今では富豪のベネット家の跡継ぎとして、義姉と仲良くし、豪華な馬車に乗り、最高級品の物を身につけて学園に来ている姿が気に食わないのだろう。


 ある日、いつものように義姉と登校した時だった。


「ギルバート、久しぶりだな。元気そうで何よりだよ。」

 次兄が友人2人を伴って、私に話しかけて来たのだ。
 いつもは私を見かけても遠くから睨みつけるだけの次兄が、こうやって近づいて来るなんて、嫌な予感しかしない。

「……おはようございます。」

「実の兄と久しぶりに話したのに、それだけか?
 相変わらず無愛想な弟だ。
 ベネット伯爵令嬢。初めまして。私はギルバートの兄のジェイク・ベインと申します。」

 …義姉に近づきたいってことか。

「エレノア・ベネットですわ。どうぞよろしくお願い致します。」

「ベネット伯爵令嬢、ギルバートは見ての通り、無愛想で何を考えているのか分からない奴ですし、卑しい愛人の子です。
 ギルバートのことで何か問題がありましたら、私に話して下さい。何でも相談に乗りますので。」

 こんな場で義姉にそんな話をするなんて…
 しかし義姉は予想外の反応をする。

「あら…、私の前では無愛想ではないですし、見ての通り、とっても可愛い義弟ですから何の問題もないですわよ。
 両親もこんな私より、ギルを可愛がるくらい信頼していますし。
 しかし…、子爵家の貴方から心配されるほど、ベネット家はそんなに脆弱に見えるのかしら?」

 私を庇ってくれるのは有難いが、こんな人前で可愛い義弟とか言わないで欲しい。
 
「…ギルバート。さすが愛人の子なだけあって、異性を誑かすことは得意なようだな。
 ベネット伯爵令嬢、コイツの見た目に騙されてはいけませんよ……」

 次兄がまた義姉に何かを言おうとした時だった。
 背後から低い声が聞こえてくるのである。


「おい!私がエレノアの代わりに話を聞いてやろう。」


 振り向いた先にいたのは、義姉が悪魔と呼んでいる、この学園で最も身分の高いあのお方がいた。
 
 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

茉丗 薫
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。 どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。 わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。 美辞麗句を並べ立てて。 もしや、卵の黄身のことでして? そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。 わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。 それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。 そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...