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良き友人

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 私の隣で涙を流す、まだ夫でもあるロジャース伯爵様に、私はハンカチを渡していた。


「伯爵様、涙を拭いて下さいませ。」

「…すまないな。」


 伯爵様が涙を拭き、少し落ち着いてきたかなって時に、また話を再開し始める鬼嫁。


「伯爵様、約束しますわ。私は伯爵様の良き友人でいるということを。
 もし伯爵様に何かあれば、私は友人としてすぐに手を差し伸べるようにしたいと思っております。」

「もう夫婦でいるということは無理だということなのだな?やり直すことも出来ないと…。
 今更だが私達は、結婚はしたけれど夫婦と言えるような関係ではなかったな。やり直す以前の問題だったか…。」

「ええ。私達は夫婦にはなれませんでしたわね。」

「私はエレノアと仲の良い夫婦になりたかった。この気持ちに嘘はない。
 どうして私は、あんなことを言ってしまったのだろうな?あの言葉で全てを失うとは思ってもいなかった。
 エレノア…、もしあの日に私があんなことを言わなければ、私達の今は変わっていただろうか?」

「どうでしょうね…?
 あのことがなくて私達2人が仲良くしていても、伯爵様の親族とは仲良く出来なかったと思います。それに、アブス子爵令嬢にあんなことをされて、一夜を共にした伯爵様を、冷静に許すことが出来るのかは分かりませんわね。
 それなりに波乱はあったと思いますわ。」


 あの日、頭の中がお花畑だったエレノアのまま、幸せな気持ちで結婚初夜を済ませて、普通の夫婦になったとしても…、金持ちエレノアにたかりにくる親族はいるだろうし、伯爵様の叔父の元バード男爵も自分の娘を第二夫人にと勧めてきただろう。
 アブスだって大嫌いな私を陥れようとするだろうし、毒や媚薬で私を狙ったりするかもしれない。
 
 アラフォーおばちゃんの記憶が戻って、自称鬼嫁となった私だからヤツらに太刀打ち出来たけど、記憶が戻らないで、頭の中がお花畑の小娘エレノアでは、ヤツらにやられていたかもしれないわ。

 この伯爵様に恋をして、誕生日を祝って欲しいことすら言えなかったあのエレノアなら、バード元男爵や親族、アブスに酷いことをされても、伯爵様のためだと考えてひたすら黙って我慢していたかもしれない。

 伯爵様は非常に鈍感な男だから、エレノアが辛い思いをして我慢していることに気づいてくれなそうだ。
 夫婦って些細なことが積もり積もってダメになることもあるだろうからね。無事に初夜を済ませたとしても、それなりに茨の道だったな…。


 やはりこの結婚は間違いだったわ!


「私はエレノアが好きだし、本当に愛しているんだ。
 辛いし、悲しいし、離れたくないし、後悔ばかりだが…。
 愛するエレノアがそれを強く望んでいるならば……、エレノアの幸せのために……、私は白い結婚を認めようと思う。」


 苦悶の表情をしながらも、伯爵様は白い結婚を認めてくれた。


「……許してくださるのですか?」

「ああ…。そのかわり約束は守ってくれ。
 エレノアは私の良き友人でいてくれるのだろう?
 事業のパートナーとしても良き関係でいてくれるのだよな?私に何かあれば、エレノアは手を差し伸べてくれるのだろう?」


 おーい。今から私に頼る気満々じゃないの!
 でもなぁ、白い結婚の後に私達がギクシャクしているのを見られたら、周りにどんな噂話をされるか分からないか…。
 別れた後も普通に仲良くしていれば、面白おかしくは言われないで済むかな…?
 

「勿論ですわ…。
 これからは友人として、事業のパートナーとして、どうぞよろしくお願い致します。」

「……よろしく。」


 私達は握手を交わした後、2人で白い結婚の手続きをしに向かうのであった。

 


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