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鬼嫁卒業
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白い結婚の書類は教会で問題なく受理され、私達の婚姻関係は無効と認められた。
そして私は今、伯爵様と2人でロジャース伯爵家に戻って来ている。
ロジャース伯爵家の使用人達に別れの挨拶をするために…。
「メイド長、貴女に最後の仕事をお願いしたいの。
広間に使用人達を集めて貰えるかしら?」
その事を伝えると、いつもはポーカーフェイスのメイド長の目が潤んでいた。
「……畏まりました。」
メイド長は今まで通りに、すぐに広間に使用人達を集めてくれた。
ただ、今回はいつもと違ったメンバーも呼んでくれていた。それは伯爵様の側近と家令。彼らが来たのは初めてのことだ。
今までは忙しそうだからと、伯爵様の側近達は呼ばなくていいと伝えていたのだけど、今日は最後だから呼んでくれたのだろうね。
「皆さん、お忙しい中、急に呼び出してしまってごめんなさい。
今日は私から皆さんに、お別れの挨拶をしたいと思いまして集まって頂きました。」
その瞬間、『えっ?』と声を上げる者、絶句する者、反応は人それぞれだったのだが…。
「奥様!出て行ってしまうのですか?」
こんな時に真っ直ぐに聞いてくるのは、元御者の爺さんの孫で、鬼嫁が可愛がっていたチャーリーだった。
最近は護衛騎士になりたいと言って、私の騎士達に剣術やマナーなどを必死になって習っていたんだよね。
初めに会った時と比べて落ち着いてきたし、言葉遣いも綺麗になって、お兄ちゃんらしくなってきたんだよ。
チャーリー本人が希望するなら、私が見習い騎士として正式に雇って、新しい邸に連れて行くつもりでいたのだけど…、白い結婚を計画していることは、私が実家から連れて来た使用人達以外には内緒にしていたことだし、チャーリーや妹のエリーは知らなかったことだから相当驚いているみたいね。
チャーリーとエリーを私が連れて行くことについては、保護者である爺さんともきちんと話し合いをしなければならないから、この後に爺さんとチャーリー達と話をしてみよう。
「チャーリー、私はこの邸を出て行くことになったのよ。
……そんな顔をしないでちょうだい。
チャーリーとエリーは、今後どうしたいのかを、後で私に聞かせて。泣かないのよ。」
広間は静かになっていた。
「2年という短い期間でしたが、皆さんには大変お世話になりました。
私は今日、この邸を出て行くことになりました。
人手不足の中、この伯爵家のために一生懸命に働いて下さった皆さんに感謝しております。本当にありがとうございました。
皆さんには、私から感謝の気持ちを込めてプレゼントを渡したいと思います。」
お母様から使用人を丸め込むために使いなさいと言われて貰ってきた金貨は、あまりにも沢山あり過ぎて、まだほとんどが残っている状態なのだ。
今日で最後だから、安月給で働いている使用人達にボーナスとしてあげることにした。
「マリ、今まで洗濯ありがとう!これで良いハンドクリームでも買いなさいね。元気でやるのよ!」
「ありがとうございます。奥様のことは忘れません…。どうかお元気で。」
「レイチェル、いつも邸を綺麗にしてくれたから、毎日気分良く過ごせたわよ。ありがとう。」
「お、奥様…。本当にありがとうございました。」
「モリス卿、激務なのは分かりますが、もう少し体を大切にして下さいね。貴方は伯爵様の大切な側近なのですから。
どうかお元気で。」
「奥様……。ありがとうございました。」
クッキーを入れるようなリボンのついた可愛い小袋に、金貨を20枚ずつ入れて使用人達にプレゼントする鬼嫁。
最後の大サービスよ!!
メイド長と家令には金貨を30枚ずつ渡すことにした。
これからも伯爵様を支えてやって欲しいと伝えて。
チャーリーとエリーにも今回は金貨を2枚ずつあげた。
「奥様…、俺は奥様の護衛騎士になりたくて…、頑張ってきたのです。俺は…、奥様と一緒に行きたいです。」
「わ、私も、奥様のメイドになりたいので、奥様と一緒に行きたい…です。」
可愛いチャーリーとエリーからこんな事を言われたら…
「2人とも、お爺さんが許可してくれるなら一緒に連れて行くわよ。」
「奥様、孫達をよろしく頼みます!」
爺さん、返事が早いな!
「分かりました。チャーリーとエリーは私の邸で雇います。頑張って働きなさいよ!」
「「はい!」」
で、そのあと爺さんと色々話をして、孫達と一緒がいいだろうということになり、爺さんも一緒に来ることになった。
爺さんは働き者だから、使用人の寮で管理人の補助とかやってもらおうかな。
その後、自分の使っていた部屋をチェックし終わった私は、この伯爵家からの旅立ちの時を迎える。
玄関ホールに向かうと、家令とメイド長、使用人達と伯爵様が待っていてくれた。
えー、伯爵様の目が赤いのだけど。まだ泣いていたのかい?
「エレノア…、また近いうちに会おう。ビジネスパートナーとしても友人としても、色々と話すことはあるからな。」
はあ?もう会う話なの?
「勿論ですわ。
しかし、アポ無しで急に訪ねて来ることはやめて下さいね。」
「それは分かっているさ。
……気をつけて帰るようにな。…っ!」
「伯爵様、みんな見ておりますわ。泣かないで下さいまし。」
「すまない…。」
「トーマスとメイド長、この泣き虫をよろしく頼みましたわよ。」
「「畏まりました。」」
「それでは皆様…、今までありがとうございました。
お元気で…。」
馬車は私を乗せて、静かに走り出す。
ふふっ!これで鬼嫁は卒業よ…
「殿下、失礼致します。」
「どうした…?」
「ロジャース伯爵と夫人の白い結婚が認められたようで、夫人は新しい邸に引っ越しをしたようです。」
「………そうか。」
※この後、独身に戻ったエレノアの話が続きます。
もう少しお付き合いして下さったら嬉しいです。
そして私は今、伯爵様と2人でロジャース伯爵家に戻って来ている。
ロジャース伯爵家の使用人達に別れの挨拶をするために…。
「メイド長、貴女に最後の仕事をお願いしたいの。
広間に使用人達を集めて貰えるかしら?」
その事を伝えると、いつもはポーカーフェイスのメイド長の目が潤んでいた。
「……畏まりました。」
メイド長は今まで通りに、すぐに広間に使用人達を集めてくれた。
ただ、今回はいつもと違ったメンバーも呼んでくれていた。それは伯爵様の側近と家令。彼らが来たのは初めてのことだ。
今までは忙しそうだからと、伯爵様の側近達は呼ばなくていいと伝えていたのだけど、今日は最後だから呼んでくれたのだろうね。
「皆さん、お忙しい中、急に呼び出してしまってごめんなさい。
今日は私から皆さんに、お別れの挨拶をしたいと思いまして集まって頂きました。」
その瞬間、『えっ?』と声を上げる者、絶句する者、反応は人それぞれだったのだが…。
「奥様!出て行ってしまうのですか?」
こんな時に真っ直ぐに聞いてくるのは、元御者の爺さんの孫で、鬼嫁が可愛がっていたチャーリーだった。
最近は護衛騎士になりたいと言って、私の騎士達に剣術やマナーなどを必死になって習っていたんだよね。
初めに会った時と比べて落ち着いてきたし、言葉遣いも綺麗になって、お兄ちゃんらしくなってきたんだよ。
チャーリー本人が希望するなら、私が見習い騎士として正式に雇って、新しい邸に連れて行くつもりでいたのだけど…、白い結婚を計画していることは、私が実家から連れて来た使用人達以外には内緒にしていたことだし、チャーリーや妹のエリーは知らなかったことだから相当驚いているみたいね。
チャーリーとエリーを私が連れて行くことについては、保護者である爺さんともきちんと話し合いをしなければならないから、この後に爺さんとチャーリー達と話をしてみよう。
「チャーリー、私はこの邸を出て行くことになったのよ。
……そんな顔をしないでちょうだい。
チャーリーとエリーは、今後どうしたいのかを、後で私に聞かせて。泣かないのよ。」
広間は静かになっていた。
「2年という短い期間でしたが、皆さんには大変お世話になりました。
私は今日、この邸を出て行くことになりました。
人手不足の中、この伯爵家のために一生懸命に働いて下さった皆さんに感謝しております。本当にありがとうございました。
皆さんには、私から感謝の気持ちを込めてプレゼントを渡したいと思います。」
お母様から使用人を丸め込むために使いなさいと言われて貰ってきた金貨は、あまりにも沢山あり過ぎて、まだほとんどが残っている状態なのだ。
今日で最後だから、安月給で働いている使用人達にボーナスとしてあげることにした。
「マリ、今まで洗濯ありがとう!これで良いハンドクリームでも買いなさいね。元気でやるのよ!」
「ありがとうございます。奥様のことは忘れません…。どうかお元気で。」
「レイチェル、いつも邸を綺麗にしてくれたから、毎日気分良く過ごせたわよ。ありがとう。」
「お、奥様…。本当にありがとうございました。」
「モリス卿、激務なのは分かりますが、もう少し体を大切にして下さいね。貴方は伯爵様の大切な側近なのですから。
どうかお元気で。」
「奥様……。ありがとうございました。」
クッキーを入れるようなリボンのついた可愛い小袋に、金貨を20枚ずつ入れて使用人達にプレゼントする鬼嫁。
最後の大サービスよ!!
メイド長と家令には金貨を30枚ずつ渡すことにした。
これからも伯爵様を支えてやって欲しいと伝えて。
チャーリーとエリーにも今回は金貨を2枚ずつあげた。
「奥様…、俺は奥様の護衛騎士になりたくて…、頑張ってきたのです。俺は…、奥様と一緒に行きたいです。」
「わ、私も、奥様のメイドになりたいので、奥様と一緒に行きたい…です。」
可愛いチャーリーとエリーからこんな事を言われたら…
「2人とも、お爺さんが許可してくれるなら一緒に連れて行くわよ。」
「奥様、孫達をよろしく頼みます!」
爺さん、返事が早いな!
「分かりました。チャーリーとエリーは私の邸で雇います。頑張って働きなさいよ!」
「「はい!」」
で、そのあと爺さんと色々話をして、孫達と一緒がいいだろうということになり、爺さんも一緒に来ることになった。
爺さんは働き者だから、使用人の寮で管理人の補助とかやってもらおうかな。
その後、自分の使っていた部屋をチェックし終わった私は、この伯爵家からの旅立ちの時を迎える。
玄関ホールに向かうと、家令とメイド長、使用人達と伯爵様が待っていてくれた。
えー、伯爵様の目が赤いのだけど。まだ泣いていたのかい?
「エレノア…、また近いうちに会おう。ビジネスパートナーとしても友人としても、色々と話すことはあるからな。」
はあ?もう会う話なの?
「勿論ですわ。
しかし、アポ無しで急に訪ねて来ることはやめて下さいね。」
「それは分かっているさ。
……気をつけて帰るようにな。…っ!」
「伯爵様、みんな見ておりますわ。泣かないで下さいまし。」
「すまない…。」
「トーマスとメイド長、この泣き虫をよろしく頼みましたわよ。」
「「畏まりました。」」
「それでは皆様…、今までありがとうございました。
お元気で…。」
馬車は私を乗せて、静かに走り出す。
ふふっ!これで鬼嫁は卒業よ…
「殿下、失礼致します。」
「どうした…?」
「ロジャース伯爵と夫人の白い結婚が認められたようで、夫人は新しい邸に引っ越しをしたようです。」
「………そうか。」
※この後、独身に戻ったエレノアの話が続きます。
もう少しお付き合いして下さったら嬉しいです。
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