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閑話 王弟アルベルト
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ストークス卿はそのままリーゼの病室にノックし、入室しようとしたため、孤児院長が見兼ねて声を掛ける。
「ストークス卿。クリフォード公爵令嬢はまだ意識が戻りませんので、ご家族以外の入室は禁止されております。」
ストークス卿は院長の声掛けにハッとして、こっちに視線を向けてくる。
「院長、クリフォード公爵令嬢とは?」
この男は、リーゼの身分が公爵令嬢ということをまだ知らないようだ。
「リーゼ嬢は、キトー王国の公爵令嬢です。
私も昨日知ったばかりで驚きました。
あ……、ご紹介致します。こちらはキトー国の王弟殿下です。」
リーゼが我が国の公爵令嬢と聞き、愕然とした表情になるストークス卿。
院長はその様子を見て気まずそうになりながらも、私をストークス卿に紹介してくれる。
「アルベルト・レンフィールドだ。キトー国王の弟で公爵位を賜っている。」
「……王弟殿下にご挨拶申し上げます。
ストークス侯爵家長男、エルヴィスでございます。」
「ああ。君のことは私の叔父のベネディクト神官から聞いている。リーゼが随分世話になったようだな。
私とリーゼの義兄が彼女の側についているから大丈夫だ。忙しい中駆けつけてくれたようだが、今日は帰ってくれるか?」
「……令嬢が倒れたとお聞きして急いで来たのですが、お会いさせて頂けませんか?」
「リーゼの意識が戻っていないからまだ会うことは出来ない!」
私の声は病室の中まで聞こえていたようで、クリフォード卿が出てきてくれた。
「……殿下、どうされました?」
「騒がしくしてすまない。
こちらがストークス卿だ。」
「……君がストークス侯爵令息か。
私はエリーゼの義兄のオスカー・クリフォードだ。
義妹とは友人だと聞いている。心配して見舞いに来てくれたようだが、まだエリーゼの意識が戻らないから面会は出来ない。
それより……、君とエリーゼの関係を勘違いした令嬢が暴行したと聞いている。
その令嬢と君は幼馴染だと聞いているが本当か?」
こんな時でも淡々と話をするクリフォード卿は流石だ。
「……はい。 アマンダ・ガネル伯爵令嬢は私の幼馴染です。
大変申し訳ありませんでした。」
「謝罪はいいから急いでその令嬢の所に行き、誤解を解いてきてくれるか?
君とエリーゼはただの友人で、嫉妬される覚えはないと。勘違いとはいえ、キトー国の公爵令嬢であるエリーゼに危害を加えたことは許さないと伝えてくれ。」
「……っ!……本当に申し訳ありませんでした。
アマンダには私から話をさせていただきます。」
「そうしてくれ。
これ以上、エリーゼに嫌な噂が立つのは困るから、君がここに来るのも遠慮してくれると助かる。
エリーゼは私の大切な義妹なんだ。」
「……今日は失礼させて頂きます。」
苦しげな表情をして、ストークス卿は帰って行った。
「殿下。あの男はまたここに来るでしょうね。
私は毎日エリーゼの側についているようにします。」
「……その方がいいだろう。
それよりリーゼはまだ目覚めないのか?」
「残念ながら……」
その日、面会時間の許す限り病室の外で待機させてもらったが、リーゼは目覚めなかった。
怒りの収まらなかった私達は、リーゼを暴行した伯爵令嬢の家に、グーム国の国王陛下を通して強く抗議することにした。
そして翌日、あの男はまたやって来る。
「王弟殿下、クリフォード公爵令嬢に会わせて下さい。一目でいいのです。どうか……」
「ストークス卿、リーゼはまだ意識が戻らないから会えない。
お前の幼馴染の令嬢は、よほど酷い暴行を加えたようで、彼女は頭を強く打っているようだ。
……帰ってくれるか?」
「……申し訳ありませんでした。
また来ます。」
大人しく帰って行ったが、ストークス卿はその次の日もやって来た。
我慢出来なかった私は,グーム国王を通してストークス侯爵家に見舞いは遠慮すると強く伝えてもらった。
国王陛下から注意を受けたからか、その日以降にストークス卿が病院に来ることはなかった。
そして……
「殿下、エリーゼが目覚めました!
記憶も……戻ってます。」
いつもは冷静なクリフォード卿が、目を潤ませている。
「……本当か?」
「はい。声を掛けてやって下さい。」
病室に入ると、恥ずかしそうな顔をしたリーゼがいた。
「リーゼ……、目覚めて良かった。記憶も戻ったと聞いて安心している。
心配したんだ。やっと見つけたのに、暴行を受けて倒れたと聞いて……」
「殿下、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
義兄と一緒にグーム国にまで私を迎えに来て下さったことも感謝しておりますわ。」
「……いいんだ。大切なリーゼを助けるためなら、私はどこにだって行く。
クリスティーナもリーゼを待っている。私達と一緒に帰ろう。」
「……はい。」
嬉しかった私は、無意識にリーゼの手を握り締めていた。
「殿下……、エリーゼには私がついておりますので、殿下は社交の方にお戻り下さい。
勿論、あの男やあの男の息のかかった者が近づかぬよう、私が目を光らせます。」
「……分かった。
ではリーゼ、また来るからな。」
私はリーゼが目覚めたことを知らせるために、叔父上とグーム国の陛下の所に急ぐことにした。
叔父上と私は、リーゼに暴行を加えた令嬢を訴えようとしたが、優しいリーゼはそれは望まなかった。
その代わりに慰謝料を請求して、それを孤児院に寄付したいと言う。
「殿下。今回のことは、許されることではありませんが、エリーゼの希望を叶えてもらえますか?
エリーゼは無事に回復しましたし、記憶も戻りました。
グーム国に恩を売るチャンスだと思います。」
「クリフォード卿がそれでいいなら、今回はそうするか。
リーゼの主治医は、令嬢に暴行を受けたショックで記憶が戻ったのかもしれないと話していた。
私としては令嬢を許せないし複雑な気持ちだが、今回はリーゼの気持ちを優先してやろう。」
「ありがとうございます。
エリーゼも喜ぶでしょう。」
リーゼが無事に退院した数日後、私達は帰国する日を迎える。
「ストークス卿。クリフォード公爵令嬢はまだ意識が戻りませんので、ご家族以外の入室は禁止されております。」
ストークス卿は院長の声掛けにハッとして、こっちに視線を向けてくる。
「院長、クリフォード公爵令嬢とは?」
この男は、リーゼの身分が公爵令嬢ということをまだ知らないようだ。
「リーゼ嬢は、キトー王国の公爵令嬢です。
私も昨日知ったばかりで驚きました。
あ……、ご紹介致します。こちらはキトー国の王弟殿下です。」
リーゼが我が国の公爵令嬢と聞き、愕然とした表情になるストークス卿。
院長はその様子を見て気まずそうになりながらも、私をストークス卿に紹介してくれる。
「アルベルト・レンフィールドだ。キトー国王の弟で公爵位を賜っている。」
「……王弟殿下にご挨拶申し上げます。
ストークス侯爵家長男、エルヴィスでございます。」
「ああ。君のことは私の叔父のベネディクト神官から聞いている。リーゼが随分世話になったようだな。
私とリーゼの義兄が彼女の側についているから大丈夫だ。忙しい中駆けつけてくれたようだが、今日は帰ってくれるか?」
「……令嬢が倒れたとお聞きして急いで来たのですが、お会いさせて頂けませんか?」
「リーゼの意識が戻っていないからまだ会うことは出来ない!」
私の声は病室の中まで聞こえていたようで、クリフォード卿が出てきてくれた。
「……殿下、どうされました?」
「騒がしくしてすまない。
こちらがストークス卿だ。」
「……君がストークス侯爵令息か。
私はエリーゼの義兄のオスカー・クリフォードだ。
義妹とは友人だと聞いている。心配して見舞いに来てくれたようだが、まだエリーゼの意識が戻らないから面会は出来ない。
それより……、君とエリーゼの関係を勘違いした令嬢が暴行したと聞いている。
その令嬢と君は幼馴染だと聞いているが本当か?」
こんな時でも淡々と話をするクリフォード卿は流石だ。
「……はい。 アマンダ・ガネル伯爵令嬢は私の幼馴染です。
大変申し訳ありませんでした。」
「謝罪はいいから急いでその令嬢の所に行き、誤解を解いてきてくれるか?
君とエリーゼはただの友人で、嫉妬される覚えはないと。勘違いとはいえ、キトー国の公爵令嬢であるエリーゼに危害を加えたことは許さないと伝えてくれ。」
「……っ!……本当に申し訳ありませんでした。
アマンダには私から話をさせていただきます。」
「そうしてくれ。
これ以上、エリーゼに嫌な噂が立つのは困るから、君がここに来るのも遠慮してくれると助かる。
エリーゼは私の大切な義妹なんだ。」
「……今日は失礼させて頂きます。」
苦しげな表情をして、ストークス卿は帰って行った。
「殿下。あの男はまたここに来るでしょうね。
私は毎日エリーゼの側についているようにします。」
「……その方がいいだろう。
それよりリーゼはまだ目覚めないのか?」
「残念ながら……」
その日、面会時間の許す限り病室の外で待機させてもらったが、リーゼは目覚めなかった。
怒りの収まらなかった私達は、リーゼを暴行した伯爵令嬢の家に、グーム国の国王陛下を通して強く抗議することにした。
そして翌日、あの男はまたやって来る。
「王弟殿下、クリフォード公爵令嬢に会わせて下さい。一目でいいのです。どうか……」
「ストークス卿、リーゼはまだ意識が戻らないから会えない。
お前の幼馴染の令嬢は、よほど酷い暴行を加えたようで、彼女は頭を強く打っているようだ。
……帰ってくれるか?」
「……申し訳ありませんでした。
また来ます。」
大人しく帰って行ったが、ストークス卿はその次の日もやって来た。
我慢出来なかった私は,グーム国王を通してストークス侯爵家に見舞いは遠慮すると強く伝えてもらった。
国王陛下から注意を受けたからか、その日以降にストークス卿が病院に来ることはなかった。
そして……
「殿下、エリーゼが目覚めました!
記憶も……戻ってます。」
いつもは冷静なクリフォード卿が、目を潤ませている。
「……本当か?」
「はい。声を掛けてやって下さい。」
病室に入ると、恥ずかしそうな顔をしたリーゼがいた。
「リーゼ……、目覚めて良かった。記憶も戻ったと聞いて安心している。
心配したんだ。やっと見つけたのに、暴行を受けて倒れたと聞いて……」
「殿下、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
義兄と一緒にグーム国にまで私を迎えに来て下さったことも感謝しておりますわ。」
「……いいんだ。大切なリーゼを助けるためなら、私はどこにだって行く。
クリスティーナもリーゼを待っている。私達と一緒に帰ろう。」
「……はい。」
嬉しかった私は、無意識にリーゼの手を握り締めていた。
「殿下……、エリーゼには私がついておりますので、殿下は社交の方にお戻り下さい。
勿論、あの男やあの男の息のかかった者が近づかぬよう、私が目を光らせます。」
「……分かった。
ではリーゼ、また来るからな。」
私はリーゼが目覚めたことを知らせるために、叔父上とグーム国の陛下の所に急ぐことにした。
叔父上と私は、リーゼに暴行を加えた令嬢を訴えようとしたが、優しいリーゼはそれは望まなかった。
その代わりに慰謝料を請求して、それを孤児院に寄付したいと言う。
「殿下。今回のことは、許されることではありませんが、エリーゼの希望を叶えてもらえますか?
エリーゼは無事に回復しましたし、記憶も戻りました。
グーム国に恩を売るチャンスだと思います。」
「クリフォード卿がそれでいいなら、今回はそうするか。
リーゼの主治医は、令嬢に暴行を受けたショックで記憶が戻ったのかもしれないと話していた。
私としては令嬢を許せないし複雑な気持ちだが、今回はリーゼの気持ちを優先してやろう。」
「ありがとうございます。
エリーゼも喜ぶでしょう。」
リーゼが無事に退院した数日後、私達は帰国する日を迎える。
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