異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ

文字の大きさ
上 下
71 / 106
連載

閑話 王弟アルベルト

しおりを挟む
 リーゼの恋人の話なんて聞きたくない。
 記憶喪失になり、異国で一人ぼっちで苦労していたリーゼに、上手く取り入っただけの運のいい男だろう? 私はそんな男は認めたくない。
 だが……、今のリーゼのことを知るためには辛くても聞くしかない。
 
 私のこの思いが、この場の雰囲気を重くしているのは分かっていたが……
 叔父上の様子が何だかおかしい気がする。
 叔父上はリーゼに幸せになって欲しいと言っていたが、その恋人を認めていないのか?

「……孤児院にいる者たちや聖騎士の間では、色々な噂話があるようだ。」

「叔父上。リーゼに恋人がいるという話は、ただの噂話なのですか?」

「リーゼが噂になっている男は、神殿に沢山の寄付をしてくれる信仰心の厚い筆頭侯爵家の嫡男で、聖騎士団の次期騎士団長だと言われているストークス卿という人物だ。
 リーゼの親代わりをしている私に、リーゼと親しくさせてもらっていると挨拶をしてきたことがあった。」

 侯爵令息? 平民ではなかったのか。
 しかし、なんて図々しい男だ!

「ただの友人の一人でしかないのに、叔父上に挨拶をしてきたのですか?」

「それが……、孤児院から帰るリーゼをエスコートして、邸まで送って来るらしい。
 リーゼもストークス卿の身分が高いことを知ってなのか、強く断ることが出来ないと困っていた。
 ストークス侯爵家は神殿とは良好な関係だし、ストークス卿本人も騎士として優秀で、真面目で誠実な男だから、私も複雑な思いだった。」

「叔父上! 親代わりなら五月蝿く飛び回る虫から、リーゼを守ってくれないと困ります!」

 イライラしていた私は、無意識に声を荒げていた。

「殿下、落ち着いて下さい。
 ベネディクト神官様。では、そのストークス卿という男は、エリーゼの恋人や婚約者ではないのですね?」

「今のところは……。
 リーゼはあまり恋愛や結婚に興味はなさそうだ。それより子供たちと過ごすことが好きらしく、孤児院の職員たちからの評判がいい。」

「叔父上。『今のところは』とは、どういう意味でしょう?」

 リーゼのことになると熱くなってしまう私に、叔父上はとんでもないことを話す。

「アルベルト……、君はリーゼが好きなんだな。
 王弟として私情を出さぬよう教育されているはずなのに、そこまで取り乱すほどリーゼが好きで、ここまで迎えに来たということか。
 このタイミングで、アルベルトとクリフォード公爵令息が迎えに来てくれたのは良かったのかもしれない……」

「叔父上。それは、どういうことですか?」

「リーゼには内緒だが、ストークス侯爵家から縁談の話がきている。
 私はリーゼが結婚を望んでいないことを知っていたから、身分の違いを理由に断っているのだが、私の養女にすれば問題ないとか、それが無理なら知り合いの貴族の養女にしてもらうとか言い出して、何度も婚約の申込みをしてきている。
 更に他の神官たちを味方につけて、神殿に多額の寄付をしてくれるストークス侯爵家との縁は結ぶべきだと言われて困っていた。」

「ベネディクト神官様。筆頭侯爵家がエリーゼをそこまで強く望むのはなぜでしょう?」

「侯爵は、リーゼは子息が初めて望んだ人だと話していた。
 孤児院で働くリーゼを侯爵と夫人がお忍びで見に行き、気に入ったとも言っていた。
 ストークス侯爵と夫人は慈善事業に熱心だから、孤児院で働くリーゼに好感を持っただろう。
 それに二人は、恋愛結婚で結ばれた仲の良い夫婦だから、息子の恋を応援したいのかもしれないな……」

 ますます気に入らない……

「殿下、あまりイライラしないで下さい。
 エリーゼの身分が我が国の公爵令嬢だと明かせば、いくらグーム国の筆頭侯爵家であっても今後は強く出ては来れないでしょう。
 それにエリーゼとの結婚は、我が国の国王陛下の許可が必要になりますから難しいでしょうね。
 何より、エリーゼ自身が望んでいないのですから心配ありません。」

「そうだな……。ただ、記憶のないリーゼは、この国での生活を楽しんでいるように見えた。
 帰国したくないと言い出したら、私はどうすれば……」

「……」

 その後、時間が迫っていたこともあり、私達はグーム国の王宮に向かった。

 グーム国王は、私達を貴賓としてもてなしてくれる。
 探していた人物が見つかったことを報告すると、夜会や茶会を開くので、ぜひグーム国の貴族と交流をして欲しいと言われてしまう。
 大国から来た、私とクリフォード卿と繋がりを持ちたいと考えている貴族が多いらしい。
 ここに来て社交なんてしたくなかったが、リーゼの捜索活動をするために、国王が各地の騎士団に協力を要請し、捜索がスムーズにいくように準備をしてくれていたことを聞いたら、無下には出来なかった。
 
 しかしその翌日、叔父上から緊急の文が届く。
 その手紙には、リーゼが伯爵令嬢から暴行を受けて意識を失い、病院に運ばれたことが書いてあった。

 怒りに震える私と、静かに殺気を放っているクリフォード卿。そんな私達を見て顔色を悪くするグーム国の関係者。
 国王陛下から謝罪を受けた後、私達は急ぎでリーゼの病院に向かう。

 リーゼを心配して来た私だったが、病室に入れるのは家族のクリフォード卿と後見人の叔父上だけだと言われてしまった。
 意識のない患者の部屋には、家族以外の者は入れない決まりがあるらしい。
 私はリーゼを愛しているのに、顔すら見ることも出来ないのか……
 緊急時に、他人という立場はこんなに苦しいものなのだな……

 病室の外にいた私は、偶然、孤児院の院長と再会した。
 院長は、リーゼが伯爵令嬢に暴行を受けた時に直ぐに駆けつけ、伯爵令嬢をその場に引き留めて、騎士団に引き渡してくれた人物だ。

「殿下。その伯爵令嬢は、ストークス卿と仲良くしていたクリフォード公爵令嬢に嫉妬したようです。
 孤児院で働いている令嬢を平民と勘違いして、暴行したようでした。
 近くにいながら令嬢をお守りすることが出来ず、大変申し訳ございませんでした。」

 この国にもジョアンナ・オルダーのような悪女が存在するようだ。
 勝手に勘違いして嫉妬に狂い、リーゼに危害を加えた悪女をどうしてくれようか……

「院長がその場で令嬢を引き留めて、騎士団に引き渡してくれたから助かった。
 逃げられて、上手く誤魔化されたら罪に問えなくなるからな。
 それよりリーゼが暴行を受けたと知ったら、孤児院の子供たちはショックを受けるだろう。上手く見守ってやってくれ。」

「ご厚情痛み入ります。」

 院長と話し込んでいると、白い騎士服を着た男が慌てた様子でこっちに走って来る姿が見えた。

「殿下……、あの方がストークス卿です。」

 やはり来たか……


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。