30 / 106
連載
閑話 王弟アルベルト
しおりを挟む
捜索に進展のないまま翌朝を迎えると、魔法具の水晶からクリスティーナと刺客らしき人物との会話が聞こえてきた。
目覚めたらしいクリスティーナは、どうやらお菓子をもらっているらしい。
「クリスティーナが目覚めたようね。」
「ああ。クリフォード侯爵令嬢は、大丈夫だろうか。」
その後、リーゼも目覚めたらしく、魔法具の映像には、目覚めた二人が船の部屋にいる様子や、リーゼが隠れんぼとオニごっこをして逃げようと、クリスティーナに話している会話などが聞こえてくる。
隠れんぼとオニごっこは、遠い異国の子供の遊びだとリーゼが教えてくれたものだ。
その遊びでは、オニは怖いやつだから、オニに見つからないように隠れたり、逃げたりして楽しむ遊びで、クリスティーナが大好きな遊びらしい。
リーゼは、クリスティーナが必要以上に怖がらないように、隠れんぼやオニごっこで逃げようと話しているのだろう。
リーゼは自分の魔法で窓を破って、鍵のかかった部屋から出ると、出航する直前の船からクリスティーナを脱出させるために、海水を魔法で凍らせて、橋にしていたのだ。
それは、信じられないくらいの高度な魔法だった。
「エリーゼは、なんて凄い女性なの!
海水を凍らせて橋にするなんて。こんな魔法は初めて見るわ。」
「ああ。男だったら、魔術師団に入れたいくらい凄い魔法だな。
それに、こんな時でも冷静で勇敢で凄い令嬢だ。」
リーゼの活躍を見て、驚く陛下達。
更にリーゼは、よーいドンで逃げろと指示をして、クリスティーナを氷の橋を使って船から脱出させたのだった。
その後、リーゼが苦しそうに咳き込んでいる音が聞こえ、クリスティーナが一人で逃げる様子が映し出されている。
リーゼも早く逃げてくれと願ったその時……
『ティーナ……、どうか無事で……。
大好きよ……。
お義父様、お義母様……、ごめんなさ……』
それは弱々しくて、悲しそうなリーゼの声だった。
そして、ドサッと人が倒れるような音がした後に、魔法具の映像は途切れてしまう。
胸が抉られるというのは、こういうことなのだろうか……?
平常心を保つことはこんなにも辛いのか?
「リーゼ……。逃げてくれ……。」
「この魔法具は……、魔力が切れたり、ネックレスと本体が離れ過ぎると記録は出来ないそうです。
恐らくエリーゼは……、魔力切れを起こして船で倒れたのでしょう……。」
「な……、なんて事なの?
それではエリーゼは……。」
悲痛な顔をするクリフォード侯爵を見て、目を潤ませ絶句する王妃殿下と、頭を下げる国王陛下がいた。
「クリフォード侯爵……。申し訳ない。」
「陛下。エリーゼは、命を掛けて王女殿下を守ろうとしました。
今は王女殿下の捜索活動を優先して下さい。
エリーゼは宿屋の女将の所に行くようにと王女殿下に話しておりました。
港町の宿屋周辺の捜索をお願いします!
エリーゼの犠牲を無駄にしないで頂きたい。」
「分かった!」
「陛下、私に行かせて下さい。」
「アル。頼んだ!」
「はっ!」
騎士達を連れて早馬で港町に向かうと、顔見知りのマダム達が私にすぐに気付き、クリスティーナが保護されている宿屋に案内してくれ、私はクリスティーナに会うことが出来た。
「クリスティーナ、良かった。
……っ!無事で良かった。」
「叔父さま。そんなに強く抱きしめたら痛いわ。
それより、お姉様をずっと待っているのにまだ来ないの。」
事情を知らないクリスティーナは、リーゼが来るのをずっと待っているようだった。
「リーゼは、騎士達が探しているから大丈夫だぞ。」
リーゼがいなくて不安そうにするクリスティーナには、それ以上のことは何も言えなかった……。
その後、クリスティーナを保護してくれた宿屋の女将達から聞かされたのは、クリスティーナが宿屋に向かって走っている所を、朝市の店主達がすぐに気付いて話し掛けてくれたということだった。
港町に住んでいたクリスティーナは、よくリーゼと買い物に出掛けていたから、みんな顔見知りだったらしく、〝宿屋の女将さんの所に逃げるから助けて〟と訴えて、すぐに保護してもらえたようだ。
女将や町の者達は、クリスティーナが攫われて来たと言っていたので、先に私が港町に送り込んでおいた騎士達は、もしかしたら味方のフリをした敵の可能性もあると考えたらしい。
クリスティーナを攫った、どこかの悪い貴族の仲間かもしれないからと、すぐに引き渡さずに様子を見ていたということだった。
ウォーカー商会長に頼んで、リーゼの侯爵家に連絡してもらおうか、それとも港町の領主に事情を話して保護してもらおうかと、町の者達で相談していたようである。
確かに平民から見たら、捜索に来た騎士がどこの騎士なのか分からないだろうし、王都から離れたこの場所では、他所の騎士団はあまり馴染みがないだろうから、警戒するのは仕方がない。
この町の者達は、そこまでクリスティーナを大切に思ってくれているということなのだと思う。
クリスティーナが見つかったことを報告するために、王宮に早馬を飛ばした後、私はクリスティーナを女将や騎士達に預けて港まで向かった。
その後、分かったことは、クリスティーナが乗せられていたのはニューギ国行きの商船だということ。
ラリーア国と断交した我が国は、ラリーア国行きの直行便はないので、刺客はニューギ国を経由してラリーア国に向おうとしていたのだと思われる。
ただあの船は、ニューギ国の前に、食糧と燃料を補充するために、何カ国かの港を経由する船らしい。
リーゼ……。必ず助けに行く。
それまでどうか無事でいてくれ。
私は、拳を強く握りしめた。
目覚めたらしいクリスティーナは、どうやらお菓子をもらっているらしい。
「クリスティーナが目覚めたようね。」
「ああ。クリフォード侯爵令嬢は、大丈夫だろうか。」
その後、リーゼも目覚めたらしく、魔法具の映像には、目覚めた二人が船の部屋にいる様子や、リーゼが隠れんぼとオニごっこをして逃げようと、クリスティーナに話している会話などが聞こえてくる。
隠れんぼとオニごっこは、遠い異国の子供の遊びだとリーゼが教えてくれたものだ。
その遊びでは、オニは怖いやつだから、オニに見つからないように隠れたり、逃げたりして楽しむ遊びで、クリスティーナが大好きな遊びらしい。
リーゼは、クリスティーナが必要以上に怖がらないように、隠れんぼやオニごっこで逃げようと話しているのだろう。
リーゼは自分の魔法で窓を破って、鍵のかかった部屋から出ると、出航する直前の船からクリスティーナを脱出させるために、海水を魔法で凍らせて、橋にしていたのだ。
それは、信じられないくらいの高度な魔法だった。
「エリーゼは、なんて凄い女性なの!
海水を凍らせて橋にするなんて。こんな魔法は初めて見るわ。」
「ああ。男だったら、魔術師団に入れたいくらい凄い魔法だな。
それに、こんな時でも冷静で勇敢で凄い令嬢だ。」
リーゼの活躍を見て、驚く陛下達。
更にリーゼは、よーいドンで逃げろと指示をして、クリスティーナを氷の橋を使って船から脱出させたのだった。
その後、リーゼが苦しそうに咳き込んでいる音が聞こえ、クリスティーナが一人で逃げる様子が映し出されている。
リーゼも早く逃げてくれと願ったその時……
『ティーナ……、どうか無事で……。
大好きよ……。
お義父様、お義母様……、ごめんなさ……』
それは弱々しくて、悲しそうなリーゼの声だった。
そして、ドサッと人が倒れるような音がした後に、魔法具の映像は途切れてしまう。
胸が抉られるというのは、こういうことなのだろうか……?
平常心を保つことはこんなにも辛いのか?
「リーゼ……。逃げてくれ……。」
「この魔法具は……、魔力が切れたり、ネックレスと本体が離れ過ぎると記録は出来ないそうです。
恐らくエリーゼは……、魔力切れを起こして船で倒れたのでしょう……。」
「な……、なんて事なの?
それではエリーゼは……。」
悲痛な顔をするクリフォード侯爵を見て、目を潤ませ絶句する王妃殿下と、頭を下げる国王陛下がいた。
「クリフォード侯爵……。申し訳ない。」
「陛下。エリーゼは、命を掛けて王女殿下を守ろうとしました。
今は王女殿下の捜索活動を優先して下さい。
エリーゼは宿屋の女将の所に行くようにと王女殿下に話しておりました。
港町の宿屋周辺の捜索をお願いします!
エリーゼの犠牲を無駄にしないで頂きたい。」
「分かった!」
「陛下、私に行かせて下さい。」
「アル。頼んだ!」
「はっ!」
騎士達を連れて早馬で港町に向かうと、顔見知りのマダム達が私にすぐに気付き、クリスティーナが保護されている宿屋に案内してくれ、私はクリスティーナに会うことが出来た。
「クリスティーナ、良かった。
……っ!無事で良かった。」
「叔父さま。そんなに強く抱きしめたら痛いわ。
それより、お姉様をずっと待っているのにまだ来ないの。」
事情を知らないクリスティーナは、リーゼが来るのをずっと待っているようだった。
「リーゼは、騎士達が探しているから大丈夫だぞ。」
リーゼがいなくて不安そうにするクリスティーナには、それ以上のことは何も言えなかった……。
その後、クリスティーナを保護してくれた宿屋の女将達から聞かされたのは、クリスティーナが宿屋に向かって走っている所を、朝市の店主達がすぐに気付いて話し掛けてくれたということだった。
港町に住んでいたクリスティーナは、よくリーゼと買い物に出掛けていたから、みんな顔見知りだったらしく、〝宿屋の女将さんの所に逃げるから助けて〟と訴えて、すぐに保護してもらえたようだ。
女将や町の者達は、クリスティーナが攫われて来たと言っていたので、先に私が港町に送り込んでおいた騎士達は、もしかしたら味方のフリをした敵の可能性もあると考えたらしい。
クリスティーナを攫った、どこかの悪い貴族の仲間かもしれないからと、すぐに引き渡さずに様子を見ていたということだった。
ウォーカー商会長に頼んで、リーゼの侯爵家に連絡してもらおうか、それとも港町の領主に事情を話して保護してもらおうかと、町の者達で相談していたようである。
確かに平民から見たら、捜索に来た騎士がどこの騎士なのか分からないだろうし、王都から離れたこの場所では、他所の騎士団はあまり馴染みがないだろうから、警戒するのは仕方がない。
この町の者達は、そこまでクリスティーナを大切に思ってくれているということなのだと思う。
クリスティーナが見つかったことを報告するために、王宮に早馬を飛ばした後、私はクリスティーナを女将や騎士達に預けて港まで向かった。
その後、分かったことは、クリスティーナが乗せられていたのはニューギ国行きの商船だということ。
ラリーア国と断交した我が国は、ラリーア国行きの直行便はないので、刺客はニューギ国を経由してラリーア国に向おうとしていたのだと思われる。
ただあの船は、ニューギ国の前に、食糧と燃料を補充するために、何カ国かの港を経由する船らしい。
リーゼ……。必ず助けに行く。
それまでどうか無事でいてくれ。
私は、拳を強く握りしめた。
73
お気に入りに追加
9,800
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される
雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。
スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。
※誤字報告、感想などありがとうございます!
書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました!
電子書籍も出ました。
文庫版が2024年7月5日に発売されました!
幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。