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閑話 王弟アルベルト

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 捜索に進展のないまま翌朝を迎えると、魔法具の水晶からクリスティーナと刺客らしき人物との会話が聞こえてきた。
 目覚めたらしいクリスティーナは、どうやらお菓子をもらっているらしい。


「クリスティーナが目覚めたようね。」

「ああ。クリフォード侯爵令嬢は、大丈夫だろうか。」


 その後、リーゼも目覚めたらしく、魔法具の映像には、目覚めた二人が船の部屋にいる様子や、リーゼが隠れんぼとオニごっこをして逃げようと、クリスティーナに話している会話などが聞こえてくる。

 隠れんぼとオニごっこは、遠い異国の子供の遊びだとリーゼが教えてくれたものだ。
 その遊びでは、オニは怖いやつだから、オニに見つからないように隠れたり、逃げたりして楽しむ遊びで、クリスティーナが大好きな遊びらしい。
 リーゼは、クリスティーナが必要以上に怖がらないように、隠れんぼやオニごっこで逃げようと話しているのだろう。

 リーゼは自分の魔法で窓を破って、鍵のかかった部屋から出ると、出航する直前の船からクリスティーナを脱出させるために、海水を魔法で凍らせて、橋にしていたのだ。
 それは、信じられないくらいの高度な魔法だった。


「エリーゼは、なんて凄い女性なの!
 海水を凍らせて橋にするなんて。こんな魔法は初めて見るわ。」

「ああ。男だったら、魔術師団に入れたいくらい凄い魔法だな。
 それに、こんな時でも冷静で勇敢で凄い令嬢だ。」


 リーゼの活躍を見て、驚く陛下達。


 更にリーゼは、よーいドンで逃げろと指示をして、クリスティーナを氷の橋を使って船から脱出させたのだった。

 その後、リーゼが苦しそうに咳き込んでいる音が聞こえ、クリスティーナが一人で逃げる様子が映し出されている。
 リーゼも早く逃げてくれと願ったその時……


『ティーナ……、どうか無事で……。
 大好きよ……。
 お義父様、お義母様……、ごめんなさ……』


 それは弱々しくて、悲しそうなリーゼの声だった。


 そして、ドサッと人が倒れるような音がした後に、魔法具の映像は途切れてしまう。


 胸が抉られるというのは、こういうことなのだろうか……?
 平常心を保つことはこんなにも辛いのか?


「リーゼ……。逃げてくれ……。」

「この魔法具は……、魔力が切れたり、ネックレスと本体が離れ過ぎると記録は出来ないそうです。
 恐らくエリーゼは……、魔力切れを起こして船で倒れたのでしょう……。」

「な……、なんて事なの?
 それではエリーゼは……。」


 悲痛な顔をするクリフォード侯爵を見て、目を潤ませ絶句する王妃殿下と、頭を下げる国王陛下がいた。


「クリフォード侯爵……。申し訳ない。」

「陛下。エリーゼは、命を掛けて王女殿下を守ろうとしました。
 今は王女殿下の捜索活動を優先して下さい。
 エリーゼは宿屋の女将の所に行くようにと王女殿下に話しておりました。
 港町の宿屋周辺の捜索をお願いします!
 エリーゼの犠牲を無駄にしないで頂きたい。」

「分かった!」

「陛下、私に行かせて下さい。」

「アル。頼んだ!」

「はっ!」


 騎士達を連れて早馬で港町に向かうと、顔見知りのマダム達が私にすぐに気付き、クリスティーナが保護されている宿屋に案内してくれ、私はクリスティーナに会うことが出来た。


「クリスティーナ、良かった。
 ……っ!無事で良かった。」

「叔父さま。そんなに強く抱きしめたら痛いわ。
 それより、お姉様をずっと待っているのにまだ来ないの。」


 事情を知らないクリスティーナは、リーゼが来るのをずっと待っているようだった。


「リーゼは、騎士達が探しているから大丈夫だぞ。」


 リーゼがいなくて不安そうにするクリスティーナには、それ以上のことは何も言えなかった……。


 その後、クリスティーナを保護してくれた宿屋の女将達から聞かされたのは、クリスティーナが宿屋に向かって走っている所を、朝市の店主達がすぐに気付いて話し掛けてくれたということだった。
 港町に住んでいたクリスティーナは、よくリーゼと買い物に出掛けていたから、みんな顔見知りだったらしく、〝宿屋の女将さんの所に逃げるから助けて〟と訴えて、すぐに保護してもらえたようだ。
 
 女将や町の者達は、クリスティーナが攫われて来たと言っていたので、先に私が港町に送り込んでおいた騎士達は、もしかしたら味方のフリをした敵の可能性もあると考えたらしい。
 クリスティーナを攫った、どこかの悪い貴族の仲間かもしれないからと、すぐに引き渡さずに様子を見ていたということだった。
 ウォーカー商会長に頼んで、リーゼの侯爵家に連絡してもらおうか、それとも港町の領主に事情を話して保護してもらおうかと、町の者達で相談していたようである。

 確かに平民から見たら、捜索に来た騎士がどこの騎士なのか分からないだろうし、王都から離れたこの場所では、他所の騎士団はあまり馴染みがないだろうから、警戒するのは仕方がない。
 この町の者達は、そこまでクリスティーナを大切に思ってくれているということなのだと思う。


 クリスティーナが見つかったことを報告するために、王宮に早馬を飛ばした後、私はクリスティーナを女将や騎士達に預けて港まで向かった。

 その後、分かったことは、クリスティーナが乗せられていたのはニューギ国行きの商船だということ。

 ラリーア国と断交した我が国は、ラリーア国行きの直行便はないので、刺客はニューギ国を経由してラリーア国に向おうとしていたのだと思われる。
 ただあの船は、ニューギ国の前に、食糧と燃料を補充するために、何カ国かの港を経由する船らしい。



 リーゼ……。必ず助けに行く。
 それまでどうか無事でいてくれ。


 私は、拳を強く握りしめた。

 

 
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