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ここはどこ?
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目覚めた私は、知らない場所に寝かされていた。
ズキンと頭が痛み、体は怠く、力が入らない。
ここがどこなのか分からないから、このまま寝ていていいものなのか判断に迷う。
「あっ……!
親方、あの姉ちゃんが目覚めたみたいだよ。」
まだ幼い男の子らしき声が聞こえてくる。
「おい!大きい声をだすな。」
「あっ、ごめん!」
元気な男の子は、つい大きな声をあげてしまったようで、注意されているようだ。
何だろう?こういうやり取りをしている声を聞くと、何だかホッとする。
「おい、姉ちゃん!大丈夫か?」
親方と呼ばれている人だろうか?
アラフォーくらいの男の人が、目覚めた私の側に来て話しかけてきた。
「……はい。ここは?……ゲホっ、ゲホっ。」
喉がカラカラで声が出しにくく、咳き込んでしまう。
「ジョセフ。姉ちゃんに水を持って来てやれ!」
「分かった!」
ジョセフと呼ばれていた男の子は、すぐに水を持って来てくれる。
「姉ちゃん。体起こせるか?」
「……はい。」
何とか体を起こし、コップの水を受け取る。
寝起きで手がおぼつかない私を心配してくれたのか、親方と呼ばれている男の人は、私がコップを落とさないようにと、コップの底に手を添えていてくれているようだ。
何となくだけど、この人は気遣いの出来る、いい人のような気がした。
「ありがとうございました。
あの……、ここはどこでしょうか?」
「ここは、ニューギ国に向かう船の中だ。
姉ちゃんが倒れていたのを、このジョセフが見つけたんだ。
倒れた時に頭を打ったみたいで、少し出血していたようだが、もう血は止まっているようだな。
姉ちゃんは3日も目覚めなかったから、心配していたんだよ。」
船の中?そう言われると、船らしく揺れていることに気付く。
私、何で船に乗っているんだろう?
「船の中でしたか……」
「姉ちゃん、この船は貿易船だ。
輸出入の物資を運んだり、それに関係する商人が乗船する船だ。客船とは違うから、一般客は余程のことがない限りは乗らない。
船長に頼んで、乗船名簿を見せてもらったが、姉ちゃんらしき者の名前はなかった。」
「えっ……?」
「姉ちゃん……、もしかして他国に売られそうになったんじゃないのか?
俺はずっと船の調理場で働いているんだが、時々見るんだよ。姉ちゃんみたいな訳ありみたいなのを。
見た感じ、没落貴族ってとこか?
没落して売られそうになり、逃げ出そうとして、具合が悪くなって倒れたんじゃないのか?」
「……は?」
その時に私は気づいてしまった。
自分に何があったのかを忘れてしまっていることに……。
私、何でここにいるんだろう?
宿屋で女将さんと旦那さんと働いていたのは覚えているのに、何でここにいるのかを全く思い出せない。
頭を打ってしまったのが良くなかったのかな?
そして、こんな時でもはっきり覚えているのは、自分の毒親のこと。
もしかして、港町の宿屋で働いていることがあの毒親にバレて、私は連れ戻された?
あの毒親のことだから、私を少しでも高く売るために綺麗なドレスを着せて、売られた私はこの船に乗せられたとか?
あの毒親達ならありえるわ……。
サーっと血の気が引いていく。
「姉ちゃん…、大丈夫か?
そんな怯えた顔して、やはり売られそうになったんだな。
可哀想に……。でも、俺らは姉ちゃんの味方だ。
ここは、船で働く従業員用の部屋だ。いつもは、このジョセフ達が使っているんだが、姉ちゃんが使っていいからな。まずは体が元気になるまではここで休め。
今後どうするかは、元気になったら考えよう。どうせしばらくは、船の中にいるしかないからな。
姉ちゃんを連れて来たヤツが探していると思うから、船内はフラフラしないで、ここに隠れているといい。」
「あ……、ありがとうございます。」
初対面の人をどこまで信用していいものか悩むが、この親方とジョセフを信じたいと思った。
その後、人懐っこいジョセフは、私の様子を見にちょくちょく部屋に来てくれる。
食事やお茶を運んでくれたり、〝大丈夫か?〟なんて言って、私の体調を気遣ってくれているようだった。
まだ体調が戻らない私は、心細くなってしまいそうになるが、元気で優しいジョセフの存在は私の癒しになっていた。
仲良くなったジョセフが私に話してくれたのは、ジョセフは10歳の孤児で、悪い大人に騙されて他国に売られそうになったところを、親方に助けてもらい、それが縁でこの船の下働きをさせてもらっているということだった。
「親方は強いんだ!俺を連れて行こうとした悪い奴らを倒してくれたんだ。
人を売るのは犯罪だから、悪い奴はぶっ飛ばしていいんだって言ってたよ。」
確かに親方さんは、料理人というよりも傭兵とかやってそうなタイプに見える。
大柄の筋肉ムキムキで、とても強そうだもの。K-1とかの格闘技も似合いそうだ。
「親方さん、強そうだもんね。
いい人に助けてもらって良かったね。
私も、親方さんとジョセフに助けてもらえて嬉しかったよ。ありがとう!」
「いいんだよ!あの時、荷物運びをしていて、偶然見つけたから、すぐに親方を呼びに言ったんだ。
姉ちゃん、どっか痛いところはないか?」
ジョセフが優しい……。
そう言えば前世のママ友達が、娘よりも息子の方がママに優しいんだって話していたな。
こんな感じなのかもしれない。
「ジョセフのお陰で、元気になってきたよ。
本当にありがとう。優しいジョセフが助けてくれたから、私は幸せだよ。」
「……そ、そうか!
じゃあ俺、仕事に戻る。また後で!」
ジョセフは恥ずかしそうに部屋を出て行った。
ふふっ…。可愛いな。
ズキンと頭が痛み、体は怠く、力が入らない。
ここがどこなのか分からないから、このまま寝ていていいものなのか判断に迷う。
「あっ……!
親方、あの姉ちゃんが目覚めたみたいだよ。」
まだ幼い男の子らしき声が聞こえてくる。
「おい!大きい声をだすな。」
「あっ、ごめん!」
元気な男の子は、つい大きな声をあげてしまったようで、注意されているようだ。
何だろう?こういうやり取りをしている声を聞くと、何だかホッとする。
「おい、姉ちゃん!大丈夫か?」
親方と呼ばれている人だろうか?
アラフォーくらいの男の人が、目覚めた私の側に来て話しかけてきた。
「……はい。ここは?……ゲホっ、ゲホっ。」
喉がカラカラで声が出しにくく、咳き込んでしまう。
「ジョセフ。姉ちゃんに水を持って来てやれ!」
「分かった!」
ジョセフと呼ばれていた男の子は、すぐに水を持って来てくれる。
「姉ちゃん。体起こせるか?」
「……はい。」
何とか体を起こし、コップの水を受け取る。
寝起きで手がおぼつかない私を心配してくれたのか、親方と呼ばれている男の人は、私がコップを落とさないようにと、コップの底に手を添えていてくれているようだ。
何となくだけど、この人は気遣いの出来る、いい人のような気がした。
「ありがとうございました。
あの……、ここはどこでしょうか?」
「ここは、ニューギ国に向かう船の中だ。
姉ちゃんが倒れていたのを、このジョセフが見つけたんだ。
倒れた時に頭を打ったみたいで、少し出血していたようだが、もう血は止まっているようだな。
姉ちゃんは3日も目覚めなかったから、心配していたんだよ。」
船の中?そう言われると、船らしく揺れていることに気付く。
私、何で船に乗っているんだろう?
「船の中でしたか……」
「姉ちゃん、この船は貿易船だ。
輸出入の物資を運んだり、それに関係する商人が乗船する船だ。客船とは違うから、一般客は余程のことがない限りは乗らない。
船長に頼んで、乗船名簿を見せてもらったが、姉ちゃんらしき者の名前はなかった。」
「えっ……?」
「姉ちゃん……、もしかして他国に売られそうになったんじゃないのか?
俺はずっと船の調理場で働いているんだが、時々見るんだよ。姉ちゃんみたいな訳ありみたいなのを。
見た感じ、没落貴族ってとこか?
没落して売られそうになり、逃げ出そうとして、具合が悪くなって倒れたんじゃないのか?」
「……は?」
その時に私は気づいてしまった。
自分に何があったのかを忘れてしまっていることに……。
私、何でここにいるんだろう?
宿屋で女将さんと旦那さんと働いていたのは覚えているのに、何でここにいるのかを全く思い出せない。
頭を打ってしまったのが良くなかったのかな?
そして、こんな時でもはっきり覚えているのは、自分の毒親のこと。
もしかして、港町の宿屋で働いていることがあの毒親にバレて、私は連れ戻された?
あの毒親のことだから、私を少しでも高く売るために綺麗なドレスを着せて、売られた私はこの船に乗せられたとか?
あの毒親達ならありえるわ……。
サーっと血の気が引いていく。
「姉ちゃん…、大丈夫か?
そんな怯えた顔して、やはり売られそうになったんだな。
可哀想に……。でも、俺らは姉ちゃんの味方だ。
ここは、船で働く従業員用の部屋だ。いつもは、このジョセフ達が使っているんだが、姉ちゃんが使っていいからな。まずは体が元気になるまではここで休め。
今後どうするかは、元気になったら考えよう。どうせしばらくは、船の中にいるしかないからな。
姉ちゃんを連れて来たヤツが探していると思うから、船内はフラフラしないで、ここに隠れているといい。」
「あ……、ありがとうございます。」
初対面の人をどこまで信用していいものか悩むが、この親方とジョセフを信じたいと思った。
その後、人懐っこいジョセフは、私の様子を見にちょくちょく部屋に来てくれる。
食事やお茶を運んでくれたり、〝大丈夫か?〟なんて言って、私の体調を気遣ってくれているようだった。
まだ体調が戻らない私は、心細くなってしまいそうになるが、元気で優しいジョセフの存在は私の癒しになっていた。
仲良くなったジョセフが私に話してくれたのは、ジョセフは10歳の孤児で、悪い大人に騙されて他国に売られそうになったところを、親方に助けてもらい、それが縁でこの船の下働きをさせてもらっているということだった。
「親方は強いんだ!俺を連れて行こうとした悪い奴らを倒してくれたんだ。
人を売るのは犯罪だから、悪い奴はぶっ飛ばしていいんだって言ってたよ。」
確かに親方さんは、料理人というよりも傭兵とかやってそうなタイプに見える。
大柄の筋肉ムキムキで、とても強そうだもの。K-1とかの格闘技も似合いそうだ。
「親方さん、強そうだもんね。
いい人に助けてもらって良かったね。
私も、親方さんとジョセフに助けてもらえて嬉しかったよ。ありがとう!」
「いいんだよ!あの時、荷物運びをしていて、偶然見つけたから、すぐに親方を呼びに言ったんだ。
姉ちゃん、どっか痛いところはないか?」
ジョセフが優しい……。
そう言えば前世のママ友達が、娘よりも息子の方がママに優しいんだって話していたな。
こんな感じなのかもしれない。
「ジョセフのお陰で、元気になってきたよ。
本当にありがとう。優しいジョセフが助けてくれたから、私は幸せだよ。」
「……そ、そうか!
じゃあ俺、仕事に戻る。また後で!」
ジョセフは恥ずかしそうに部屋を出て行った。
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