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「やだ」
「やだじゃありません、お嬢様。もう、子どもみたいなこと言わないで下さい」
「だって……会いたくない」
「本当に会いたくないのですか?」
「だって……」
「だってじゃなくて、会いたいのですか? 会いたくないのですか?」
私の中の気持ち。打算とか、関係性とか、そんなものをすべて取り除いても残っているもの。
「……会いたい……。マルク様に……会いたいよぅ、ユノン」
そう言葉にしてしまうと、また涙が溢れてきた。
会いたかった。本当は今すぐにでも泣きつきたいぐらい。会って抱きしめて欲しかった。もう婚約は叶わないかもしれないけど……。
それでも会って抱きしめて欲しかったの。大丈夫だよって。辛かったねって。彼に認めて欲しかった。自分のことを。
たとえそれが都合のいいことだったとしても、どうしてもマルクじゃないと嫌だと思えてしまえるほど私は好きになってしまっていたから。
「そう言うと思って、僭越ながらお手紙を小公爵様に送っておきましたよ」
「え、ユノンが?」
「そうですよ。まったく、字を書くのは苦手なので、こんなことはこれで最後にして下さいね」
ユノンは私の侍女になってから、文字の読み書きを正式に覚えた努力家だ。
『お嬢様の相棒になるために』そんなことを言ってずっと頑張ってきてくれたんだっけ。私にはもったいないぐらいの子で、ユノンが傍にいてくれて本当に良かったと思う。
「ユノン、手紙……」
「ああ、内容ですか? お嬢様が凹んでどうしようもないので、なぐさめてやって下さいって書きましたよ」
「えーーーー」
「だって本当のコトじゃないですか」
「でも、でも、でも、でも」
「小公爵様は今日中にお迎えに来ると息巻いていたようなのですが、明日気分転換を兼ねて連れて行きますと書いてあったので、屋敷にて待っていますとお返事をいただきましたよ」
マルクに会える。それに迎えに来てくれるほど、心配してくれたなんてうれしい。
でも、なんて説明をしたらいいんだろう。家が没落予定なので、婚約は無理になりました。でも好きです?
そんなの迷惑以上の何物でもないじゃないの。
「会ったらなんて言おうかって考えてるんですか?」
「うん」
「素直に今日ココで起こったことを話して、その上でこの婚約を継続するためにどうしたらいいかって聞けばいいんじゃないですか?」
「でもそれだと迷惑が……」
「迷惑かどうかは、小公爵様がお決めになることでしょう? それにお嬢様は小公爵様のことが好きなのでしょう?」
「……うん」
「だったらまず先にそれを伝えて、この先どうしたらいいかを二人で考えればいいじゃないですか。だいたい、相手はこの国最恐の宰相様なのですよ。どーにでもしてくれると思いますけどね~」
「ユノン、なんかちょっと違う気がしたのは私だけ?」
「気のせいです」
ユノンの発音っていうか、込められた意味が少し違って聞こえたんだけど。でもまぁ、聞かなかったことにしよう。
でもユノンの言う通りね。私一人では解決できないのなら、マルクに頼って二人で解決策を探せばいいだけ。いつでも一人で背負い込んでしまうから、こんなことになったんだもの。
ちゃんと二人のことなんだから、二人で乗り越えて行かないと。
「ユノン、ありがとう。いろいろいつもごめんね」
「いいですよ。世話のかかるお嬢様ですが、あたしにとっては大切な大切な相棒ですので」
「ユーノーンー、大好き」
私はユノンの胸の飛び込んだ。
「ちょ、お嬢様、鼻水つきますってー」
「だってぇ」
「もう。本当に仕方のない人ですねぇ」
ユノンは抱き着く私の顔をグイっと押しのけつつ、持っていたハンカチで顔を拭き上げる。
ううう。もう少し優しく拭いて欲しいのにー。ユノンはそんな私の気持ちを気にすることなく、ゴシゴシ拭いた。
「まったく、誰にでも大好きとか言っちゃダメですからね。小公爵様が勘違いなさったら大変です」
「さすがにそれは勘違いなされないんじゃないのー?」
「いえ、あの方なら……。まぁ、見ている分にはそれはそれで楽しいからいいんですけどね。あたしを巻き込むのは禁止ですよ」
なんかユノンの中でのマルクって、どうなっているのかしらね。本当に怖そうに聞こえるんだけど。でもほんの少しだけ、私のことで嫉妬してくれたらいいななんて思ってしまうあたり、もう重症なのかもしれないとふと思った。
「やだじゃありません、お嬢様。もう、子どもみたいなこと言わないで下さい」
「だって……会いたくない」
「本当に会いたくないのですか?」
「だって……」
「だってじゃなくて、会いたいのですか? 会いたくないのですか?」
私の中の気持ち。打算とか、関係性とか、そんなものをすべて取り除いても残っているもの。
「……会いたい……。マルク様に……会いたいよぅ、ユノン」
そう言葉にしてしまうと、また涙が溢れてきた。
会いたかった。本当は今すぐにでも泣きつきたいぐらい。会って抱きしめて欲しかった。もう婚約は叶わないかもしれないけど……。
それでも会って抱きしめて欲しかったの。大丈夫だよって。辛かったねって。彼に認めて欲しかった。自分のことを。
たとえそれが都合のいいことだったとしても、どうしてもマルクじゃないと嫌だと思えてしまえるほど私は好きになってしまっていたから。
「そう言うと思って、僭越ながらお手紙を小公爵様に送っておきましたよ」
「え、ユノンが?」
「そうですよ。まったく、字を書くのは苦手なので、こんなことはこれで最後にして下さいね」
ユノンは私の侍女になってから、文字の読み書きを正式に覚えた努力家だ。
『お嬢様の相棒になるために』そんなことを言ってずっと頑張ってきてくれたんだっけ。私にはもったいないぐらいの子で、ユノンが傍にいてくれて本当に良かったと思う。
「ユノン、手紙……」
「ああ、内容ですか? お嬢様が凹んでどうしようもないので、なぐさめてやって下さいって書きましたよ」
「えーーーー」
「だって本当のコトじゃないですか」
「でも、でも、でも、でも」
「小公爵様は今日中にお迎えに来ると息巻いていたようなのですが、明日気分転換を兼ねて連れて行きますと書いてあったので、屋敷にて待っていますとお返事をいただきましたよ」
マルクに会える。それに迎えに来てくれるほど、心配してくれたなんてうれしい。
でも、なんて説明をしたらいいんだろう。家が没落予定なので、婚約は無理になりました。でも好きです?
そんなの迷惑以上の何物でもないじゃないの。
「会ったらなんて言おうかって考えてるんですか?」
「うん」
「素直に今日ココで起こったことを話して、その上でこの婚約を継続するためにどうしたらいいかって聞けばいいんじゃないですか?」
「でもそれだと迷惑が……」
「迷惑かどうかは、小公爵様がお決めになることでしょう? それにお嬢様は小公爵様のことが好きなのでしょう?」
「……うん」
「だったらまず先にそれを伝えて、この先どうしたらいいかを二人で考えればいいじゃないですか。だいたい、相手はこの国最恐の宰相様なのですよ。どーにでもしてくれると思いますけどね~」
「ユノン、なんかちょっと違う気がしたのは私だけ?」
「気のせいです」
ユノンの発音っていうか、込められた意味が少し違って聞こえたんだけど。でもまぁ、聞かなかったことにしよう。
でもユノンの言う通りね。私一人では解決できないのなら、マルクに頼って二人で解決策を探せばいいだけ。いつでも一人で背負い込んでしまうから、こんなことになったんだもの。
ちゃんと二人のことなんだから、二人で乗り越えて行かないと。
「ユノン、ありがとう。いろいろいつもごめんね」
「いいですよ。世話のかかるお嬢様ですが、あたしにとっては大切な大切な相棒ですので」
「ユーノーンー、大好き」
私はユノンの胸の飛び込んだ。
「ちょ、お嬢様、鼻水つきますってー」
「だってぇ」
「もう。本当に仕方のない人ですねぇ」
ユノンは抱き着く私の顔をグイっと押しのけつつ、持っていたハンカチで顔を拭き上げる。
ううう。もう少し優しく拭いて欲しいのにー。ユノンはそんな私の気持ちを気にすることなく、ゴシゴシ拭いた。
「まったく、誰にでも大好きとか言っちゃダメですからね。小公爵様が勘違いなさったら大変です」
「さすがにそれは勘違いなされないんじゃないのー?」
「いえ、あの方なら……。まぁ、見ている分にはそれはそれで楽しいからいいんですけどね。あたしを巻き込むのは禁止ですよ」
なんかユノンの中でのマルクって、どうなっているのかしらね。本当に怖そうに聞こえるんだけど。でもほんの少しだけ、私のことで嫉妬してくれたらいいななんて思ってしまうあたり、もう重症なのかもしれないとふと思った。
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