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シロンと暖・房・流! 

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 のっぺらなシロネ族を遠目にみて恐怖してから数時間は歩いたでしょうか。

「サルサさーん」
「何よー」
「草臥れました……」
「それ、私もなんだけど。何で歩きなの? おかしくない?」
「うきゃきゃ。お前らだらしないなー」
「あんたは影に入って移動してるだけでしょ! 炭焼きにしてやろうかしら」
「サルサさん。影は炭焼きになりません。焼けるのは俺の足ですから止めてください!」

 クローネの町を出て、どれほど歩いたのでしょう。
 考えてみたら俺たちは馬頭の鹿胴体でした。
 確かに以前この町へ来る途中、ビッグノーズとやらを見かけましたよ? 
 しかしそれは馬車での話。
 シロンたちの足ではどれ程時間が掛かるのか想像もつきません。

「うきゃきゃ。もうちょっとで着くって」
「それ、一時間前に同じこと聞いたわ。少し下り路だったのね、ここ」
「歩き疲れましたよぉ。少し休みましょうよー。ね? シロンさぁん」
「可愛く言っても地雷が言うと可愛く聞こえません。しかしこれはまずいですね」
「何か便利道具さっさと出すニャ、シロン」
「ふむ。悪くない提案だ。ということは奴から吸ってもいいんだな?」
「構わないニャ」
「吸血! 行け! 地雷から魔珠を吸い取るのだ!」
「ひぃ!? またこれですかぁ! 私歩けなくなっちゃいますよぉ」
「何あれ、いーーーやーーー! 変なのだした!?」

 そういえばローグAホノミィは知らないんでしたね。
 俺の優れたこの能力を! 
 ふんふふーん。いい感じに魔珠を吸い上げるこの能力! 便利かもしれません。
 しかし増えたといってもまだ【シャキーン】なわけで……ってあれ? 

「あら、シロンのレベルが上がった? その吸血って多少は経験値がもらえるのかしら?」
「どうなんでしょう? とにかく一レベルアップです! やったーい!」
「ずるっこしたニャ……このままじゃまずいニャ!」
「そういえばクロマさん。影でずりずりと傷頭たちを引っ張ってましたけど、影さえあれば
大きめのものでも引っ張れるんですか?」
「おう。人間を運ぶときは乱暴になるけどな」
「つまり……影の出来る大きめのもの……いや、そんな大きなの俺には出せないから……
それなら、出でよ段ボールを四つ!」
 
 ボトリと落ちる茶色い物体D。
 クックック。これぞ防寒梱包最終兵器究極リサイクルジェットストロングオーバーワールド
マグナム、その名も……暖・房・流! 
 あらゆる風を防ぎ、あらゆる場面で運ばれ、あらゆる場面で生活感をかもし出す。
 これぞまさしく人類が産み出した至高! 

「何これ。紙の板?」
「うわぁ……なんか果物の印がありますよ? お腹空きましたぁ」
「何を出すかと思えばちっとも乗り物じゃ無いニャ!」
「わっ。よく燃えそう。燃やしていい?」
「おいばかやめろ。何でせっかく出したのに燃やすんだよ! これは燃やす紙じゃありません! 
資源ごみです! じゃなかった。河原で子供がうぇっふぇーい! するための道具! これに
座って斜めの斜面を滑るんです!」
「こんなので滑れると思えないんだけど」
「四枚あるし、休んでいきましょうよぉ。私もう疲れれちゃって……あら、思ったより座り心地
いいです、これ」
「当然である! そいつは暖・房・流。そんじゃそこらのゴラァンタとはわけが違うのです」

 俺、サルサさん、ニャトル、地雷フィーさんはそれぞれ一つの暖・房・流に座ります。
 これで……「お願いします、クロマさん!」
「んじゃ、影から影に移動するぞー」

 先頭を行く俺の影から三本の影が伸びて、三人の暖・房・流へと伸びました。
 そして! 「動かないんですけど」
「シロンが影なんだからお前が動かないと引っ張れないぞ」
「……つまり俺だけ歩くってことぉー!?」
「うきゃきゃ。当たり前だ。頑張れ」
「いいわよー、シロンー。早く暖・房・流! って奴を体験させてよねー」
「わくわくしますぅ! シロンさん頑張って!」
「言い出しっぺなんだから途中で止めたりしないニャ。止めたらとんだお笑い草ニャ」
「くっ……魔珠を使ってしまったというに、口惜しや……ってこれじゃ歩いてるのと変わ
らない!」
「うきゃきゃ。仕方ねーな。裏技使うか……」

 クロマさんはもう一本影を伸ばし、道端の石を補足。
 すると、ビューンと俺たちの暖・房・流! が引きずられるじゃありませんか! 

「あら。つかんでないといけないけど楽ちんね。いいわよー、その調子」
「わぁ。凄く楽しいです! ね、シロンさん!」
「うまく間に挟まったニャ。このままひと眠りさせてもらうニャ……」

 こいつらてんでわかってないぜ、暖・房・流の兄貴。
 風をなびかせ浪漫を感じるための乗り物だっていうのに……でもこれなら直ぐに着くか
も! 
 ――しばらく順風満帆な暖・房・流! の旅は続いていたんです。
 しかし……俺たちの旅は毎回にして波乱! なわけですよ。

「あっ」
「あっ?」
「えっ?」
「ニャ?」
「へっ?」
『あーーーーーー!』

 俺たちは決定的瞬間を見ました。
 石などをしばらくつかんでいたクロマさん。そこへ馬が走っていたんです。
 フィラデルフィア方面へ向けて。
 クロマさんは石の影ではなく馬の影をつかんだわけです。

 一気にグイっと急加速する暖・房・流! 
 しっかりつかまっていても、小石やらなにやらで徐々に暖・房・流兄貴にしがみつくの
が難しくなっていきました。
 
「わわわわわーガタガタガタガタちーーん」
「シロンが壊れたニャガガガガガ揺れれれれニャニャニャニャ」
「どどど、どうすんのこれクロマちょっと止めなさささささーーいいいい!」
「だだ、駄目ですよ今止まったら放り投げられますってててて、私、弾むぅーー!」
「あーーーいーーやーーーだからついて来るの嫌だったのよよよよよよよよー!」

 俺たちと暖・房・流! 兄貴との旅は続く。 


「この暖・房・流って本来どうやって使うの?」
「我夢手得布っていうので蓋をして使うんですよ。そうすると……中にみかんが入るんです!」
「みかんってあの絵のこと?」
「その通り! この世界にもきっとある! 箱詰め五キロみかんが! それだけじゃな
い! 団・房・流は穴を二つ開けて中に入り、シャカシャカ動く隠れ場所として使える
んです!」
「どう考えてもバレバレよね。普通にかがんだ方がまだ見つからないでしょ」
「そこはあれです。見た人は見ないフリをする暗黙のルールがですね……」
「そんじゃ今度試してみなさいよ。ルビーで」
「やってやります!」


 また来週! 
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