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シローネとクローネの町を目指して!

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「……行く前から疲れた」
「仕方ないわね……」
「ニャトルは眠れれば問題ないニャ。どこでも寝れるニャ……」
「あのう……私のせい……ですよね。ひぃーん、ごめんなさぁーい!」


 俺たちは二台の馬車で出発しました。
 そして現在……俺たちは一台の馬車でシローネとクローネの町を目指しているのです。
 今は出発して四時間程経った頃です。
 時はさかのぼる事出発一時間――――「この馬車全然揺れないわね。
相当な高級馬車よ。幾らするのかしら」
「目がお金マークになってますよサルサさん。それおりもっと大事なお話を
クラマさんにしないと。ご主人の修業といってもどんなことから始めるんですか?」
「うむ、そうじゃのう。まず必要なのは、召喚獣に新たな能力を使わせる
号令という特技を身に着ける事からじゃな」
「号令……番号! ワン、ワン、ワン! みたいなやつですか?」
「あんたって本当、犬よね……」
「それはちと違うのう、号令とは即ち命令。命を発すると言えばわかりやすいかのう」
「命令! そういえばご主人て俺たちに命令したことないですね」
「ルビーだしねぇ……自分から突撃して騒動を起こすタイプだし」
「うーん。シロンちゃんもニャトルちゃんも可愛いから、命令するのはちょっと嫌だなぁ……」
「実際に出すのは号令じゃ。じゃがお主の召喚獣は特殊。号令には特別な術を
行使していかねばならん。少々勉強も必要じゃな」
「私頑張る! シロンちゃんとニャトルちゃんのためにも!」
「おお、ご主人がやる気です。お飾りっぽかったのについにヒロインとしての自覚が!」
「あんた、何言ってるの。ルビーなら毎回こんな感じでずっこけるじゃない」
「確かに!」
「ふぉっふぉっふぉ。元気溢れる若者といると、わしまで若くなった気になるのう……
にしても速度が落ちたような……どうしたんじゃ?」


 御者の人がこちらを向いている。少し首を傾げているけど何かあったのかな。

「前の馬車が速度を落としました。休憩でしょうか?」

 突如として馬車の速度が落ちたので、不思議に思っていると、やがて馬車は一時停止した。
 どうしたんだろう? まだ出発して一時間位しか経ってないのに。

「ちょっと確認しに行こうかしら。シロン、あんたも来る?」
「はい。このまま座ってると尻がゴワゴワになりそうなのでいきます」

 お座りってずっとしてるとしんどいんですよね。
 ただでさえ俺の尻は肉がないというのに。

「何かあったの?」
「急いで馬車から離れてくださぁーい!」
「へ?」
「はい?」

 何か傾いているように見える……見事な馬車はガランゴロンと音を立ててぶっ壊れた。
 
 グシャ、ペキッ、ボキッ……カンカンカラーン……と音をたて、最後は馬の嘶きと共に
馬二頭は走り去っていった……。

「えーっと」
「馬車ってこんな風に壊れるんだっけ?」
「すみませんお客様、大丈夫でしたか!? まさか荷台が壊れるなんてこの仕事を
してから初めてで……」
「……あははは……ちょっと地雷フィーさんこっち来なさい」
「はぅ……」

 俺はとても嫌な予感がしたので地雷フィーさんを陰に呼びつけました。
 そうなんです。彼女は地雷。生まれながらの地雷体質。
 問題事が起こった時、まず疑うべきは彼女なのです。

「何か、やりましたね?」
「わ、私は飲み物を少しだけこぼしただけで、その……飲み物を拭こうとしたら
布が車輪の方へ落ちて行って……その、色々重なって……」
「布? 布が挟まった程度で馬車が粉砕、崩壊するとは思えません。
一体何を……」
「ひぃー、ごめんなさい。ただの布じゃないんですぅ! 瞬間で乾く魔術が付与された
布ですぅ!」
「瞬間で……乾くだと!?」

 つまり潤滑される油を全て抜き取り、ギシギシになった奴を無理やり発進させて
ボカンか。
 いや、それだけじゃああはならない。
 他にもまだ要因が……。

「後は馬車が傾いて倒れそうだったので、カエサルさんが切り離して脱出を……」
「カエサルさん馬車切ったの!? 凄い! ……じゃなーい! ばば、ばれたら
凄い金額を請求されます。どうしよう、でも明らかに落ち度がある以上謝らないと……」
「はい……一生かけて払いますぅ……」
「んん? 待てよ。そうか! 出でよ、馬車模型!」

 ポトリと馬車の模型が落ちる。
 ものすごい魔珠を吸い取られたけどしょうがありません。
 この分は地雷フィーさんから吸い取ってちゃらにしてやります。
 この馬車模型、侮るなかれ。なんと前世で二万もするんです。どうだ凄いだろ! 
 こっちの本物の馬車はきっとその百倍はするでしょうけどね! 

「ぜぇ……ぜぇ……これで手打ちにしてもらってください……最新鋭のモデルですと」
「す、すごい。こんな貴重なもの、いいんですかぁシロンさん!」
「どうみても非は俺たちにあります。ごまかすより誠心誠意謝りましょう」
「はぅ……私、シロンさんに一生ついていきますぅ!」
「いえ結構。地雷はちょっと」
「酷いぃ! 死んでも離れませんからぁ!」

 どうやら選択を誤り死神に取り憑かれたシロンですがくじけません。
 もっとやばそうなのに取り憑かれた主人公を俺は知っています。
 しかし俺の最後を看取るのは地雷かもしれません。

「……そうだったのか。しかしそこまで誠意に謝られては何も言えないな。
それに……こんな貴重な物を本当に頂いてもいいのですか? これがあれば
あの馬車を十台は買えてしまうかもしれないのに」
「いいんですいいんです。その、馬車一台になっちゃいましたけど、全員で向かえますかね?」
「走り去った馬二頭をちゃんと呼び戻せたから、誰かが馬での移動でよければ
問題ない」
「うむ。ではヨウナ。お前とルビーさんは馬で行きなさい。
それとわしも馬で行こうかのう。久しぶりにヨウナと競争がしたいしのう」
「おじい様、無理はなさらない方が……」
「大丈夫じゃ。それとわしの後ろはそっちのお嬢さ……」
「カエサル、出番よ」
「わかったサ。馬に乗るのも好きサ」
「サルサさんはやっぱ、馬に乗るの嫌なんですね……」
「しーっ。お爺さんと二人ってのが嫌なのよ!」
「ううむ仕方ないのう。では剣士殿、共に参ろうぞい」
 
 こうしてご主人たちは先にシローネとクローネの町へ向け旅立ちました。
 残ったのは俺とサルサさんとニャトルと地雷フィーさん。そしてなぜか御者さん一名。
 ちょうどいいところでご主人の修業の説明が終わっちゃってます。
 気になるなぁ……。
 

 ――――そして今。
 随分と先行したご主人たちは、もう宿にでも着いているんでしょうか? 
 外の景色を見ると、綺麗な橋と湖が目に映ります。
 湖には鳥たちが……鳥じゃないのもいっぱいいるぅ!? 
 モンスターでしょうか。ちょっと怖いです。
 あれ? 何だあれは!? でかい! でかすぎる! 

「ささ、サルサさん。外見てください外! 何かいます! でかいおっさん!」
「あら。この辺りはビッグノーズの住処なのね」
「ビッグノーズ? でかいのは鼻だけじゃなく全身です!」
「巨人族の総称よ。ビッグノーズってそういえば誰がつけたのかしら」
「確かに大きなお鼻ですねぇ……ちょっとだけお顔のバランスがおかしいような?」
「あれは何をしてるんですか?」
「畑を耕してるのかしらね。あのサイズなら一気に耕せそう」
「その分、食べる量も多そうですね……あれ、手を振ってる?」
「あら、本当だわ。温厚な種族とは聞いてたけど、本当ね」

 綺麗な橋と湖。畑を耕すビッグノーズさんたちを見ながら、俺たちは
シローネとクローネの町へ向け、突き進むのでした。



「それにしてもやっぱりやったわね」
「やりましたね」
「やったサ」
「もう慣れっこだよ! 気にしないでねラフィーちゃん!」
「うぅっ。ルビーさんは本当に優しいですぅ……ぐすん」

 続くよ! 
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