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シャキーン!

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 外は明るく村は静か。のどかな場所だなー。
 こんな村でパン屋を開いたらすごく喜ばれそうだ。

 パン屋を営んでいた頃は「美味しかったです!」と伝えてくれるお客さんや、何も
言わないけどしょっちゅう来るお客さん。
 どっちも凄く嬉しかった。
 またパンを焼きたいけど……この手じゃ作れないや。
 いや! 俺は諦めない。いつかパンを焼くんだ! 
 決意を胸にずりずりと歩いていると、目的地に着いたようだ。
 まず向かったのは道具屋さん。

「シロンちゃん、ここが道具屋さんだよ!」
「おい親父、薬草を頼むぜ!」
「へ? そのホワイトウルフ喋るの? 薬草って? うちは道具やだが……」
「そうなんです。シロンちゃん凄いでしょ! ウルフィっていうのよ」
「へー、どう見てもホワイトウルフだが、こいつは珍しい。よかったねシロンちゃん!」

 定番のネタが通じない! 薬草を売らずに道具屋が務まるのか!? 
 お店を見渡す限り色々な物が売ってる。残念ながら小麦を引くような道具などはない。
 酵母も釜もない。少しはパンを作る道具があるかと期待したんだけどな。

 お店の中を見ると、サイズ感が自分のパン屋に似ている。
 これくらいの規模で案外丁度いいんだよね。
 広いと見渡せなくなっちゃうし。
 
 道具屋の次は布屋さんに連れて行ってもらった。
 部屋にあったふわふわ暖か布はここで買ったようだ。
 目の前の布に引かれた。暖かそうな白いスカーフだ。

「シロンちゃん、これが欲しいの? スライムを倒した記念! 買ってあげるね!」
「いいんですかご主人。 ギルドへ向かうのにお金がかかるんじゃ?」
「大丈夫! 村で働いてそこそこ稼いだから。おじさんこれくーださい!」
「おう! ルビーちゃんじゃないか。初めての契約に成功したんだってな! 
安くしといてやるよ! レギオン銅貨二枚だ」
「おじさんありがと! はいこれ」

 おお、硬貨だ。この世界のお金は初めて見る。なかなかに成功なデザインだ。覚えたぞ。

「マルマルーを付けてあげるからじっとしててねー……糸の愛よ。
かの者に取り付きその身を合わせ
肌身を守らん」

 なんと! 硬貨の出現で驚いていたら更に驚かされた。
 スカーフらしきものはマルマルーというらしい。
 文字通りご主人の詠唱で俺の首にしゅるしゅると丸まって巻き付いた。
 こいつは便利だな。サイズ調整を上手く行ってくれる。
 身に着けていても全く気にならない。動いても外れないぞ! とう! 
 ピョンピョンと跳ねる俺。礼を言わせて貰おう。

「ご主人、有難う! 気に入ったよ」
「キャー、シロンちゃんかわゆい! このまま抱っこして次いこー!」
「自分で歩けますって! むぐぐ」

 やはり話を聞かない子のようだ。俺はご主人にムギューされながら
 引き続き村中を見て回る。

「よう、ルビー。そいつが皆で噂してる奴か?」
「エルエー! 見てみて、私のかわゆいシロンちゃん!」
「本当にホワイトウルフじゃないのか? 鑑定見せてみろよ」
「いいよー。鑑定! ほら!」

 俺の状態を勝手に見せるのはやめてほしい。恥ずかしいんだけど。

「んー? 変な能力はあるが、凄まじく弱いな。このままじゃ戦えないだろ?」
「ちゃんとスライムは倒せたもーん!」
「スライムだけじゃ村の外に出歩くのも危険だろう。ここはひとつ
俺が揉んでやるか」
「いいの? エルエも仕事あるんでしょ?」
「大丈夫だ。俺の分は終わってる。ウルクとスースの手伝いを頼まれたが、たまには
自分たちでやったほうがいいだろう」
「お兄ちゃんだねー。うんうん。そういう事ならシロンちゃんを最強にしてあげて!」
「あのなぁ……最強って。いきなりそんなに強くなるわけないだろう……まずは空地まで行くぞ」

 仲良さそうな二人だなーと思いながらずりずりとついていく。
 話している内容は俺の事ばかりだけど。
 少し背が高くて頼りがいのあるお兄ちゃんだ。優しそうだし。
 生前の俺よりは若いかな? 腰には物騒にも剣を持っているなー。
 やっぱ怖い世界何だろう。
 

 歩いていると、先ほどの道具屋さんよりもっと北寄りの場所へ着いた。
 そんなに広くない空きスペースがある。

「さて、シロンだっけか。喋れるんだったよな? どんな事が出来るんだ?」
「えーとですね。魔珠の量が足りないのですが、この世界に無いものを召喚できる……みたいです」
「なんだって? どういう意味だ?」
「もしかしたらこの世界のものも召喚出来る……のかも」
「……よくわからないが、攻撃に使えそうなものを呼べるのか?」
「魔珠が三しかないので、今はまだ極めて小さいものしか……その……想像できないものは
創造できません……なんちゃって」
「それならこの剣は召喚できるか?」

 目の前に剣を置くエルエさん。やってはみるけど……剣、剣よ来い! 
 ……やっぱりダメかぁ。

「呼べないようです。やっぱり魔珠の量が三じゃ少ないかなぁ」
「それに呼べても魔珠が切れると消えちゃうもんね。
武器として使ってても消えちゃったら困るかなぁ」
「そうでもないさ。与えた傷が消えるわけじゃないだろうしな。
とりあえず呼べたものを呼んでみてくれ」
「わかりました! おたまじゃくし、召喚!」

 ぽとりと主人の頭の上におたまじゃくしが落ちて、その身が跳ねる。
 ビチビチビチって音が聞こえそう。

「キャー! シロンちゃん、なんで私の上に出すの!? キャー!とってー!」
「おお、なんだこいつは!? こんなの見たことねぇ! 面白いな!」
「あー、力が抜けるよー。俺、もうダメです。後よろしく」
「またその流れ!?」

 だってたったの魔珠三だよー? すぐ疲れるって。うん? 

 『シャキーン!』

 ……何の音だろう? あれ、二人にも聞こえてる? 

「今レベルアップしたよな」
「レベルアップしたー! シロンちゃん何も倒してないのにレベルアップしたー!」

 さっきまで気を失いそうだったけどもう平気だー。
 レベルアップって言われても何がか変わったんだろう? 
 技とか使ってるとレベルが上がるの? 

「驚いたな。さっき見たステータスの欄に行動経験てのがあったから、それの影響か?」
「シロンちゃんは凄いのよ! どんどん使ってレベルアップしましょ!」
「無理だよー。倒れるよー!」
「倒れても問題なし!」

 この子、スパルタだ! さっきのおたまじゃくしで疲れて気絶したフリをしておこう。うん。

「あー、シロンちゃん? シロンちゃーん! だ、大丈夫?」
「もう無理ー、おなかすいたよーー」
「やれやれ、結局変なの出しておしまいか。また明日見てやるとしよう。
ステータス、確認しとけよルビー。それじゃな!」
「うん、またねー! バイバーイ! それじゃシロンちゃんのステータスを
確認して……と。シロンちゃんも見る?」
「うん、見るー」
「では……鑑定!」


シロン
 種族 ウルフィ 種族形態 リトルウルフィ
 性別 雄
 年齢 一歳
 レベル 2
 耐久 11/11
 魔珠  4/4
 体力  4
 力   3
 器用  3
 速   5
 
 習得技 異界召喚、行動経験、革新進化、????、
????、????、????、????。

「シロンちゃん! あまり、変わってない!」
「……で、でも魔珠が一増えたよ、やったね! パンに一歩近づいた気がするよ!」
「前にも言ってたけどパンってなに!? 戦いに使えるの!?」
「使えません食べ物です」
「がーん! 頑張ってギルドを目指さないといけないのにっ」

 初めてのレベルアップ。この世界でやっていけるようになるには
 まだまだ遠そうです。
 
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