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Trash Land
death player V
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此処で人間の感性を持っているものならば笑顔の一つでも零すだろうが、リケットは無表情だった。今の彼は、〝サイバー・ドール〟の名に恥じないほど無表情で冷たい。
少しするとドアが開き、金色の髪の女性、ジェシカ・Vが顔を出した。
髪が濡れている。多分シャワーでも浴びていたのだろう。だがガウンなどは着ていなく、白いブラウスとアイボリーのタイトスカートを穿いている。
「……ゴメンね、五月蝿くて」
申し訳なさそうにそう言う彼女を一瞥し、もう一度「用件は?」と冷たく言う。だが彼女はそれを受け流し、入るように言った。
「部屋がね、とっても散らかっているの。来るまでにちょっと整理しようとしたんだけど、こんなに早く此処に着くとは思っていなかったから……然も余計散らかしちゃった」
キッチンに散乱している鍋を片付けつつ、まだ玄関で立ち尽くしているリケットを見る。混乱している訳でも、迷っている訳でもなさそうだ。只単に入る必要がないと思っているのだろうか。そんなことを考えるジェシカだった。
だがジェシカも、なにを話せばいいのか解らない。ずっと逢いたいとは思っていたのだが、実際に逢ってみると何から話していいのか判らない。
とりあえず質問すべきだろうか?
何を訊けばいいのだろう?
「今どんな仕事をしているのか?」が無難だろうか?
いやそれは余りに白々し過ぎる。自分は彼のことを調べていたのだ。彼だってそれは百も承知だろう。
今まで、なにをしていたのか? これが一番無難なのだろうか? でも突然そう言うと、なんだか彼を責めているみたいに取られるかも知れない。
私はただ、逢いたかっただけなのだ。
それを正直に言うべきだろうか?
でも……それもちょっと気恥ずかしい。
鍋を片付けながら、ジェシカは玄関を見た。彼はまだ其処にいる。まるでそうするのが当たり前のように。
私のこと、覚えていないの?
それとも知らん顔をしているだけ?
そんなことを考えつつ、鍋をテーブルに置いて玄関に立ち尽くしているリケットに近付いた。
「ねぇ」
思い切って、訊いてみる。それがどんな答えだろうと、構わない。
「私のこと、覚えているの?」
「知っている」
返答は直ちにあった。
だが、それは期待していたものではなかった。
彼は「知っている」と言った。
「覚えている」ではない。
それがなにを意味しているのか、解らないほどジェシカは子供ではない。
「ある程度、覚悟はしていたんだけどね……」
俯くと、涙が出て来た。
泣くまいと思っていた。
そうすると彼を困らせると思っていたから。
だけど、違った。
もしかすると覚えていてくれるかも知れないと思っていたのは、ただの自惚れだったのだろうか。
自分で勝手に思い込み、勝手にどんな返事が返って来るのかを想像して、そして早く逢いたいと思っていた。
そう思っていた自分が惨めで、情けなくて……滅多に思わないことだが、自分が可哀想だ。
「泣いているのか?」
俯いているジェシカに、リケットは言う。その声はあくまで冷たく、そして硬質だ。
「泣きたくもなるわよ!」
もう、どうなっても構わない。半ば自暴自棄になり、涙で汚れた顔でリケットを睨む。
「貴方は覚えていないでしょうけど、私はずっと覚えていた! ずっと貴方に逢いたいと思っていたのよ! 逢いたいと思ったから、リスクを犯してまで自分の情報を流した! それなのに、捜していた相手は覚えていない。こんなに滑稽で情けなくて虚しいことって他にある!?」
荒い息を整え、突然振り返るとジェシカはリビングに行き、鼻をかんだ。格好悪いとは思わなかった。自分は泣いているのだ、鼻水が出るのは当然のこと。
「莫迦みたい……貴方に逢えるのを楽しみにしていたのに……ずっと待っていたのに……気の利いたことも言ってくれないなんて……私、今まで一体なにをして来たの? 今までやっていたことも、全部無駄だったの? 貴方なんか、捜さなければ良かった……こんな刺青、早くなくせば良かった……」
「それが正しい判断だ」
声がした。全く容赦のない、変わらず冷たい言葉だ。
――その口調が、癪に障る。
「何が……正しい判断よ……! 貴方に私のなにが解るっていうのよ。私の行動が正しいか間違っているのかなんて、誰にも指図されたくないわ。私は私のやりたいことをしただけよ。貴方になんか、今の貴方になんか、そんなことを言って欲しくないわよ!」
詰め寄り、その胸倉を掴む。青い瞳が涙で濡れ、だが怒りの感情が浮かんでいた。
それを見て羨ましいと思うだけの感情すら、リケットは持ち合わせていない。
「……殴らせて……!」
呟くジェシカを、リケットは黙って見ているだけだった。
なにも言わない。
なにも言えない。
言う必要がないと思っているから。
沈黙しているリケットをどう思ったのか、ジェシカはその横顔を握りこぶしで殴った。
痛かった。
殴ったこぶしが。
それより更に痛かった。
心が。
少しするとドアが開き、金色の髪の女性、ジェシカ・Vが顔を出した。
髪が濡れている。多分シャワーでも浴びていたのだろう。だがガウンなどは着ていなく、白いブラウスとアイボリーのタイトスカートを穿いている。
「……ゴメンね、五月蝿くて」
申し訳なさそうにそう言う彼女を一瞥し、もう一度「用件は?」と冷たく言う。だが彼女はそれを受け流し、入るように言った。
「部屋がね、とっても散らかっているの。来るまでにちょっと整理しようとしたんだけど、こんなに早く此処に着くとは思っていなかったから……然も余計散らかしちゃった」
キッチンに散乱している鍋を片付けつつ、まだ玄関で立ち尽くしているリケットを見る。混乱している訳でも、迷っている訳でもなさそうだ。只単に入る必要がないと思っているのだろうか。そんなことを考えるジェシカだった。
だがジェシカも、なにを話せばいいのか解らない。ずっと逢いたいとは思っていたのだが、実際に逢ってみると何から話していいのか判らない。
とりあえず質問すべきだろうか?
何を訊けばいいのだろう?
「今どんな仕事をしているのか?」が無難だろうか?
いやそれは余りに白々し過ぎる。自分は彼のことを調べていたのだ。彼だってそれは百も承知だろう。
今まで、なにをしていたのか? これが一番無難なのだろうか? でも突然そう言うと、なんだか彼を責めているみたいに取られるかも知れない。
私はただ、逢いたかっただけなのだ。
それを正直に言うべきだろうか?
でも……それもちょっと気恥ずかしい。
鍋を片付けながら、ジェシカは玄関を見た。彼はまだ其処にいる。まるでそうするのが当たり前のように。
私のこと、覚えていないの?
それとも知らん顔をしているだけ?
そんなことを考えつつ、鍋をテーブルに置いて玄関に立ち尽くしているリケットに近付いた。
「ねぇ」
思い切って、訊いてみる。それがどんな答えだろうと、構わない。
「私のこと、覚えているの?」
「知っている」
返答は直ちにあった。
だが、それは期待していたものではなかった。
彼は「知っている」と言った。
「覚えている」ではない。
それがなにを意味しているのか、解らないほどジェシカは子供ではない。
「ある程度、覚悟はしていたんだけどね……」
俯くと、涙が出て来た。
泣くまいと思っていた。
そうすると彼を困らせると思っていたから。
だけど、違った。
もしかすると覚えていてくれるかも知れないと思っていたのは、ただの自惚れだったのだろうか。
自分で勝手に思い込み、勝手にどんな返事が返って来るのかを想像して、そして早く逢いたいと思っていた。
そう思っていた自分が惨めで、情けなくて……滅多に思わないことだが、自分が可哀想だ。
「泣いているのか?」
俯いているジェシカに、リケットは言う。その声はあくまで冷たく、そして硬質だ。
「泣きたくもなるわよ!」
もう、どうなっても構わない。半ば自暴自棄になり、涙で汚れた顔でリケットを睨む。
「貴方は覚えていないでしょうけど、私はずっと覚えていた! ずっと貴方に逢いたいと思っていたのよ! 逢いたいと思ったから、リスクを犯してまで自分の情報を流した! それなのに、捜していた相手は覚えていない。こんなに滑稽で情けなくて虚しいことって他にある!?」
荒い息を整え、突然振り返るとジェシカはリビングに行き、鼻をかんだ。格好悪いとは思わなかった。自分は泣いているのだ、鼻水が出るのは当然のこと。
「莫迦みたい……貴方に逢えるのを楽しみにしていたのに……ずっと待っていたのに……気の利いたことも言ってくれないなんて……私、今まで一体なにをして来たの? 今までやっていたことも、全部無駄だったの? 貴方なんか、捜さなければ良かった……こんな刺青、早くなくせば良かった……」
「それが正しい判断だ」
声がした。全く容赦のない、変わらず冷たい言葉だ。
――その口調が、癪に障る。
「何が……正しい判断よ……! 貴方に私のなにが解るっていうのよ。私の行動が正しいか間違っているのかなんて、誰にも指図されたくないわ。私は私のやりたいことをしただけよ。貴方になんか、今の貴方になんか、そんなことを言って欲しくないわよ!」
詰め寄り、その胸倉を掴む。青い瞳が涙で濡れ、だが怒りの感情が浮かんでいた。
それを見て羨ましいと思うだけの感情すら、リケットは持ち合わせていない。
「……殴らせて……!」
呟くジェシカを、リケットは黙って見ているだけだった。
なにも言わない。
なにも言えない。
言う必要がないと思っているから。
沈黙しているリケットをどう思ったのか、ジェシカはその横顔を握りこぶしで殴った。
痛かった。
殴ったこぶしが。
それより更に痛かった。
心が。
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