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連続ドラマ小説「走馬灯」
しおりを挟む「まったくもってだらしない」
勢いよく躓き、地面に口付けをした優馬に対し、やれやれと首を左右に振るソラ。
(何それ可愛い!!!)
思わず愛猫の仕草に地面で悶える優馬。呆れられていると言うのに幸せな飼い主である。
とはいえ流石に悶えてばかりでもいられないようだ。
周囲に目をやれば、いつの間にか安いゾンビ映画のワンシーン状態。操られた者達が迫ってきているのだから。
優馬からしてみれば、部活後に霧の中でひたすら逃げ回った挙句の現状であり、足ももう限界。正直泣きそうな状況ではあるのだが、流石にこの状況では乾いた笑いしか出ない。
だが何か吹っ切れたのか、思考がクリアになっていた。
人影達はゆっくりと、だが確実に迫ってきてはいる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
ここまで遅いと、走馬灯も連続テレビドラマ小説位の長編になるのではないかと思う程ゆっくりとだ。
優馬は不思議猫と化したソラに視線を向ける。
「ぬっ?
なぜ遠い目を我に向けているのだ?」
連続テレビドラマ小説『走馬灯』を見る前に、ソラと周りの状況を見て優馬はしばらく考える。
(操られている人達を見た感じ、羽交締めにしてきた女性や、子供よりも明らかに動きが遅いよな……?)
「聞いておるのか!?」
(そう言えば子供が襲ってきたとき、周囲の人達は動いていなかった。
一度に大勢の人を動かすとなると、動きが鈍くなる……とか?)
「むむ、おーい!!」
(ここまで囲まれていちゃ、いくら動きが遅くても物量で確実に逃れられない。
今は確実に仕留めに来たってことか。
でも猫のソラなら? 恐らくソラならノロノロと迫る奴らの間をすり抜けることは出来るはず)
「人の……、いや、猫の話を聞けええええええぇぇぇい!!」
(それなら)
「ソラだけなら、逃げられるよね?」
「何をいっておるのだ?」
「さすがに足がもう限界みたいでさ。
だからソラだけでも逃げて」
「ついにネジが飛んだのか?」
「あはは。確かにネジが飛んでいるのかもね」
霧のよくわからない状況に、助けに来た喋る猫。
誰かに話しても、頭がおかしくなったと思われるに違いない。
優馬は今日の朝もした様に、腕を伸ばしてソラの首元を軽く撫でてみる。
「な、なにを!?
うむ、だが悪くない」
すると朝と同じく撫でやすいように頭を上げるソラ。
その姿になんだか少し気が楽になる。
(急に変なしゃべり方や態度になっても、ソラはソラだね)
自身の気持ちの準備が整ったのか、よしっ! と気合を一発。ブルブルと震える足を鼓舞して何とか立ちあがる優馬。
「助けに来てくれてありがとう! 早く逃げて!!」
迫るB級ゾンビ……もとい、操られた人達へとひと睨み。
邪魔な鞄を置き捨て、崩れそうになる体に鞭を打ち走り出した。
ソラと距離を取り、少しでも狙いが優馬に向けば、ソラが逃げられる確率が上がるのではないかと考えたのだ。
最後の力を振り絞り、走って、走って、走った。
優馬はそのまま人の波へと呑まれるが、気にしない。 視界が途切れる中、前へと進もうとし、
「――グッ!?」
くぐもった声が盛れる。
いくつもの手の中。埋もれ掛けていた優馬の声だ。
体を抑え込まれる中で、腹部に何か強い衝撃が走ったのだ。
勿論操られた人達から腹パンされているわけではない。集団でそんなことしてはいけないのだ。
ではなぜか?
「まったく、世話の掛る飼い主だ」
優馬が駆け出してすぐ。優馬のまさかの行動に、ソラはクククと喉を鳴らすと、ソラもまたスッと駆け出していた。
そしてそのまま音もなく腹部へと降り立ったことで、優馬に強い衝撃が走ったのだ。
優馬は一瞬息が止まり、勢いで目を見開く。
刹那。
(えっ――!?)
視界に入るのは、宙を舞う幾人の人の姿。
「……これはいったい?」
何が起きたのか理解出来ずに辺りを見渡す。
操られた人達が宙を舞い、まるで空飛ぶ島の住人のように、ゆっくりと地面に着地していく。
(ああ、そうか……。俺は)
戸惑うのは一瞬。両の掌を確認。開いては閉じを繰り返し、理解する。
(まったく……。ソラを逃がそうとかなり頑張ったのだけれどな)
どうやら無駄に疲れただけだったようだと苦笑する。
(ん――!?)
もぞもぞと動く者が視界に入り、再び辺りへと視線を向ける。
どうやら操られた人達が再び動き出そうとしているようだ。
思わずため息。仕方なしにとばかりに腕を天へと突き上げ――。
「力の根源たる我の言葉に応じ、彼の者らに纏いし闇を打ち消す光となれ。
――ディスペル――」
再び襲い掛かろうと動き出す操られた人達に向け言葉をつむいだ。
紡がれた言葉が言霊に呼応するかのように形を成し光となる。
やがて光は術者を中心に溢れると波を打ち、その波が再び動き出そうとしている人達を飲み込んだ。
(流石にまだ詠唱が必要なようだけれど、魔法自体は問題なさそうだ)
操られた人達を見れば、動きを止めて立ち尽くしている。よく見れば黒いモヤモヤが取り払われているようだ。
子供のモヤモヤを払った時と同じように、光に包まれた人達のモヤを払ったのだ。
ふと、自分のポケットからスマホを取り出して、カメラ機能で自分の顔を確認。
「なるほど……」
優馬の髪は黒髪で、瞳の色は茶色。中学3年で顔はまだあどけなさを残していたのだが……。
スマホに映る姿は白銀の髪に、金の瞳。完成された顔つきには幼さは消え、朝倉優馬の姿はなかった。
スマホをしまい、改めて自身について整理する。
(俺の名前は朝倉優馬。
ただの男子中学生だ。)
(我の名前は朝倉ソラ。
ただのとてもキュートな白猫だ。)
(そして元の名は――)
「クラネス・カーバイン。
ただの異世界の元魔王だ」
血液が流れる中に、魔素が混じりあい循環していく。
ソラの記憶が優馬の中に流れる。
先ほどまでの脚の気だるさが嘘の様に消え、体中から力が沸き上がるのが感じられた。
「して、お主は我に何用か!?」
不意にクラネスが霧の先へと言葉を投げる。
先ほどから2つの視線が向けられていたのだ。
霧の先。こちらの様子を覗き見る、ソラの偽物だ。
実はソラが優馬の元に駆けつけた時から気が付いてはいたが、ずっとクラネスの様子を覗き見ていたのだ。
とは言え、今更ソラの偽物が動いた所で今のクラネスにとっては気にするほどのことではない。
(今は機嫌が良い。先ほどまでのお遊びは即死で許してやるか)
などと本気で思うほどには余裕があった。
ソラの偽物は何が面白いのか、ニンマリと頬を上げる。
まるでケタケタと笑っているかのように小刻みに顔を揺らし、霧に溶け込み散っていく。
どうやら霧に散りクラネスを喰らう算段のようで、明らかに何かを仕掛けようとしているのが分かる。
「くだらぬな」
クラネスは霧に消えたソラの偽物を一瞥し、やれやれとばかりに肩を竦める。
霧に消えたからと言って見えない訳では無いからだ。
霧の中に溶け込んではいるものの、魔力を目に集中させることにより姿を捉えることが出来る。
現に霧とは異なる二つの物がクラネスへと向かってくる姿を捕らえていた。
見えるのだから何ら難しいことなどない。
ただ向かってくる一つに手を伸ばせばいいだけだ。
現に、
「ッ――!?」
クラネスは難なく1つを掴んで見せると、霧から引きはがし投げつけた。
ソラの偽物が地面へと転がる。
ダメージを受けた様子はない。だが自身の技が破られるとは思いもしなかったようだ。
驚いたように目を見開き、わなわなと憤慨した様子が見て取れる。
霧に巣食い、絶対の強者として今まで捕らえた獲物を喰らってきたのだろう。
自分のテリトリー内なのだからわからなくもないが、先ほどまでわざと獲物を捕らえずに遊んでいたはずが、その獲物に噛みつかられて怒っているのだ。
とは言えクラネスには関係のないこと。霧の中へと手を伸ばすと再び空を掴む。
掴んだ物に目を向けると、優馬を羽交締めにして来た女が、顔を掴まれてもがいていた。
「ほう……」
クラネスは女をソラの偽物のもとへと投げる。
女にディスペルを掛けてやろうかと思ったのだが、その必要はなかったからだ。
女がソラの偽物の前に転がって来たことで、ソラの偽物がケタケタと首を揺らし、幸いとばかりに霧とり女の中へと溶け込んでいく。
周りにいるほかの者と比べ、所々黒ずみボロボロの女。
女はソラの偽物の器でしかなかったのだ。
力の流れが女の中で集まり膨らんでいく。
辺りの霧がそれに呼応するかのようにビリビリと空気を揺らす。
女の器に入った所で何かが変わるとも思えないが、女はソラの偽物と同じようにケタケタと笑い、刹那――
殺意に酔う恍惚な表情を向け女が迫り、ぱっくりと口を開いた。
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