BloodyHeart

真代 衣織

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絶望

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「何処だっ⁉︎ ここは?」
 遠藤は周りを見渡す。
 階段にいるのは分るが、何処の建物かが分からない。
「中央制御室のそばですっ!」
 用心しながら廊下を見た、隊員の一人が発する。視線を動かし、マシンピストルを下に構えている。
「そうかっ。やったな。運良く助けに来れた」
 そう言って、遠藤は晴れやかな笑顔を見せた。
 銃を持つ二人が左右に寄り、五人は廊下に出る。
 壁に示された位置通りに、五人は中央制御室を目指す。
 辿り着いた光景に、五人は絶望を知らされる。
「そっ、そんなぁ……」
 五人は情けなく声を漏らし、激しく後悔する。
「なんで……」
「やっちまった……」
 廊下で、作業員の大多数が惨殺されていた。
 必死に抵抗した事実を、壁に飛び散る血痕が生々しく物語る。
 誰か、生きていないのか……?
 生存者は……?
 僅かな希望を捨て切れず、遠藤は縋る想いで中央制御室の扉を開けた。
 突き付けられる惨劇に遠藤は膝を突く。
 他の隊員も激しく落胆している。
 扉の先では、所長と当直長の二人が惨殺されていた。
 室内に飛び散る血痕——。
 ここで、どんな恐怖に晒されたのだろう。
 生存者のいない室内に無念の想いが漂う。
「俺達の所為だ……」
「そんなんじゃ……ない」
 後悔する遠藤に、他の隊員は慰めの言葉すら思い付かない。
 それどころか……。
「自衛隊連中の言う通りだった。喜んで死に急がないと、誰も救えないんだ……」
 後悔の言葉しか出でこない。
「迷っちまったから、こんな事になったんだっ!」
 不甲斐無さに、激しく壁を殴った。
 瞬間に気付く。
 痛くない。
 それどころか感触すらない。
 隊員の一人が気付いた直後、遠藤の腕に返り血が掛かる。
 全員がハッとした。
「……さんっ! 新田さんっ! 気付いて下さいっ!」
 リリアの声に五人は気付く。
 今いる場所は、最初の場所——。入った直後から移動していない。
 地面に倒れていた五人の前には、左手にシールドを構え、右手に刀を持つリリアがいる。三人のドラキュラ軍人を相手にしている。
 今まで護ってくれていた事実に、リリアの体は傷だらけだった。
「リリア様っ!」
 思わず、新田は叫ぶ。
「大丈夫ですか?」
「もういいです。下がっていて下さい」
 心配するリリアに、声を掛ける新田は拳を硬く握り締めた。
 同行を断っておいて、この有り様——。
 リリアを盾にしていた自分達が不甲斐無い。最も怖れていた悪夢を見せたドラキュラ達に激しく憤る。
 分隊の全員は、怒りに闘志を真剣の様に研ぎ澄ました。
「馬鹿がっ! もう手遅れだっ」
 ドラキュラの一人が発したのを合図に五人は突進する。
 銃を手にする二人とリリアが援護し、三人が勢い余る斬撃をドラキュラ軍人に浴びせていく。
 ドラキュラ軍人は圧倒され、二人が斬撃に倒れる。
 真ん中のドラキュラ軍人も、新田と交えた斬撃に押し負け、勢いよく飛ばされた。
 着地するも、勢い余って後ろに下がっていく。
 苦悶の表情を浮かべたドラキュラ軍人は、苦し紛れに剣を地面に刺す。
 直後——。
 結界が発動した。
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