BloodyHeart

真代 衣織

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裏と表

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「し、志保さんから、内藤誠也はヤクザの組長だと、お、お聞きしました。な、何故、那智さんは、既に手遅れ……。つ、つまり亡くなっていると、存じていたんですか?」
 臆しながらも、リリアは抱いていた疑問を打ち明けた。
 道場に行く前に、漏電火災のニュースを見た。戦う相手は、MDを売買しているヤクザとマフィア、ヒューマロイドと聞いていた。
 那智の発言に、漏電火災の場所とタイミング——。
 渦巻いた疑惑を、リリアは一緒にいた志保に漏らしていた。
「ほう——。志保さんからですか……」
「はい……」
「私達が情報を得たのは、内藤一家と敵対する暴力団だからです。特定は出来ませんが、漏電火災は、その暴力団による犯行でしょう」
「そうですか——」
 羽月さんの犯行じゃなかったんだ。
 リリアは安堵に、左手を当てていた胸を撫で下ろした。
「志保さんから——」
 リリアは、志保が言っていた事を那智に話し出す。
 ——暴力団から情報を得るには、それなりの取引が必要になるから。人と同じく、社会は裏と表があるの。羽月君達は対イーブル軍として、裏側から支配されるの防ぐのが仕事。表からヤクザをどうにかするのは、警察の仕事だと思うよ。
「——そう、言われましたが、防げなかったんですか?」
 さすがやな……。気の利く子や。
 那智は意味深に笑みを漏らす。
「警察は、私達の予想だけでは捜査出来ません。事件が起きなければ何も出来ないんです」
「そうですか。那智さんは、羽月さんは軍人として正しい行動を取っていると思いますか?」
 まだ、疑心を払拭するには至らない。リリアは新たに浮かぶ疑問を口にした。
「その前に——。レガイロの裏の顔を暴けなかった、社会経験のない未熟なあなたに、政治に参加していない未成年の王族に、一体何が理解出来ますか?」
 容赦なく突き刺さる言葉に耐え切れず、リリアは俯いてしまう。
「未熟な判断力で、水面下の善悪は測れません」
 容赦なく那智は主張する。
「だから、知ろうとして、私はここに来ました」
 顔を上げ、リリアは弱々しくも言い切る。
「羽月君を理解出来るのは、私だけです」
 きっぱりと断言した那智は、横に置いた刀に触れる。
「互いの思考と行動に絶対の信頼を置き、共用している。私と羽月君は一蓮托生、運命共同体なんです」
「っえ⁉︎」
 目を疑う事態がリリアに降り掛かる。
 見ていた筈だが見えなかった。
 那智の瞳は、真剣より鋭利に研ぎ澄まされている。立ち上がった那智の剣先は、リリアの首、頚動脈の位置を正確に捉えていた。
 いつ抜刀したのか全く分からない剣先に脅され、僅かにも動かせない頚動脈が激しく脈打つ——。
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