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裏の覇者
しおりを挟む「那智といい、穂積といい、同性愛者は器用なのか?」
美味しそうに二杯目を飲み干し、羽月は問い掛けた。
「人によるんじゃない?」
そう言い、穂積は空のグラスを下げる。
「そうか? 自称ジェンダーレスと違って、男の良いとこも、女の良いとこもLGBTには有る気がするけどな」
穂積はガラスの器に入ったナッツと、一杯目と同じ飲み物を差し出した。
「偏見だよ」
否定する穂積に、不快感は見受けられない。
「別に偏見持ってねぇよ。邪魔なだけだからな」
「——あぁ。持たない方がいいな。平気で遅刻して来そうな奴が早く来て、自分が遅刻してたら青褪める」
約束の五分前になり、芹沢が入って来た。後ろに、料亭に連れていた大柄な舎弟がいる。
「土佐犬だけですか? よく吠えるポメラニアンは留守番か?」
椅子を反転させ芹沢の方を向き、ふざけながら羽月は揶揄した。
「自分の名前は土田丈《つちだじょう》。あいつは梅原真《うめはらしん》です」
思わず「似合いすぎっ」と笑う穂積を丈は睨む。
「お前が馬鹿にするから、きゃんきゃんうるせぇ。今日は置いて来た」
何故か楽しそうに芹沢は答える。
羽月の隣に芹沢は座り、芹沢の隣、端の椅子に丈が座った。
「俺は可愛がってるだけですよ」
椅子を反転させ穂積の方を向き、否定する羽月は明らかに馬鹿にしていた。
「玩具としてだろ」
正面を向いたまま、ぼそりと丈が呟く。
注文を聞かずに穂積は、芹沢と丈に飲み物とおしぼりを差し出す。聞かずとも分かっているらしい。
「やってくれたな。利用しやがって……」
怒りを見せずに、羽月は口を開いた。
「ギブアンドテイクだろ。裏から支配が回れば厄介事どころじゃ済まない」
飲み物を口にし、芹沢は平静に反論する。
「だから、警察は何をやっても野放しにしてくれる。芹沢組は悠々自適に覇者でいられる」
体ごと芹沢に見合わせ、挑発的に羽月は投げ掛ける。
「警察よりは、自国民の為に役立っているからな」
羽月の顔を見ながら、楽しそうに芹沢は言う。
芹沢は羽月と同じ、マルボロブラックメンソールを上着のポケットから取り出した。
タイミングを合わせ、丈と穂積が火を取る。丈に手を見せ、断った芹沢は穂積から火を貰った。
「だからと言って、俺を利用していいと思わないで下さい。ナメた真似をするなら咬み殺す、俺は狂犬ですから」
常人なら恐怖を覚える目付きで羽月は脅したが、芹沢に臆する様子はない。
「利用じゃない、お前の為になるスカウトだ」
「またそれか……。聞き飽きた」
芹沢の言葉に、羽月はうんざりして溜息を吐く。
「俺は、お前が嫌う上官とは違って充分な器がある。前科が有っても戸籍が無くとも、どんな社会不適合者でも活かせる、無法のカシラだ。——能力を最大限に活かしてやる。こっちに来ないか?」
芹沢は羽月の顔を見て、口説き文句を並べた。
「はぁ、馬鹿かっ⁉︎ 俺にはマエもない、国際社会に籍を置く軍人だ。裏に堕ちる必要なんてねぇよっ」
「ってめぇ——‼︎」
羽月の言葉に、舎弟の丈は怒り、テーブルを叩き立ち上がった。
「まぁ、待て——」
羽月の方を向いたまま、芹沢は片手を上げ制止させた。
「怒るな。何時も言っているだろ? 仁義に尽くし人から感謝されようが、筋を通し忌み嫌われようが、俺達はヤクザだ。軽蔑されても仕方ない」
芯の強い目を向け、芹沢は丈を諭す。
「ですが、こいつからは許せません」
芹沢から羽月に視線を移し、丈は怒りを抑え、持論を述べる。
「お前だって、汚れ仕事を受け持つ軍人だ。人を殺し、金を貰って生きている。立場は違えど同じ生き方だ」
言い終わると、丈は椅子に座った。
「俺は、一度も自分が正しいと言った覚えはない。殺しが仕事である以上、正義もない。当然、正しい行動を取っているとも思わない」
淡々と羽月は反論する。
「なら、俺達を、カシラを侮辱するなっ!」
語気を強め、丈は怒りを漏らす。
「飼おうって思うなら、馬鹿げてるって言ってんだよ」
言い終わり、羽月は煙草を取り出した。タイミングよく、穂積が火を近付ける。
「確かに、その通り——。カシラ、こんな外道を組入りさせたら、幹部連中は仲間割れの危機です」
芹沢に視線を向け、穂積が意見した。
「まぁ、一理あるな。でも考えとけ。俺は、どんなに危険な綱渡りでもやってみせる。甲斐性ならあるからな」
穂積から羽月に視線を移し、芹沢は話しを終える。
「話しが終わったなら、これ吸ったら帰ります」
羽月が煙草を見せて冷ややかに言うと、穂積はカウンターの下から紙袋を出した。中身は芹沢の指示で、羽月に渡すよう言われた札束だ。
それを合図に、羽月は財布を取り出す。
「もう一杯飲んでけよ。ここは俺の持ち物だ。奢られろよ」
「じゃ、遠慮なく——」
言われた通り、もう一杯ノンアルコール飲料を頼み、羽月は奢られる事にした。
暫くして、二千万円の入った紙袋を持ち、羽月は帰って行った。
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