BloodyHeart

真代 衣織

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弾丸遊戯

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 エントランスからマンションに入ると、内藤一家の構成員と旧制チャイニーズマフィアの構成員が大勢集まっていた。
 ホテルロビーの様に、ソファーとテーブルがエントランスロビーには並べてある。
 建設途中の筈だが、ロビー内部に養生材は見られない。エレベーターも稼働していた。
 入って来た三人に、全員が凄み、罵声を浴びせるが、那智と伊吹は全く気にしていない。萎縮しているのはリリアだけだ。
「——お分りだと思いますが、輸出入取引法違反、血液法違反並びに劇薬及び毒物取締法違反——。銃刀法違反により逮捕します!」
 那智が告げ、那智と伊吹は手帳を提示した。
「たった三人で何が出来る⁉︎」
「状況見れば分かんだろっ⁉︎ てめぇらに勝ち目はねぇよ‼︎」
「馬鹿じゃねぇの⁉︎」
 構成員の何人かが吠えた。
「投降して頂けないのであれば、仕方ないですね——」
 最後に溜息を吐き、那智は続ける。
「武力行使に出ますが、どうされますか?」
 那智は問い掛け、抜刀の体勢を取った。
「ふざけてんのかっ⁉︎」
「くたばれっ‼︎」
 那智の平静さと言動が、構成員の怒りを煽った。
 リリアは真っ青になり、伊吹は苦笑いだ。
 構成員は手を上げて投稿するどころか、銃を抜いた。
 その時だった。
「MD寄越せっ——‼︎」
「外道ヤクザっ! くたばれっ‼︎」
 マンションの駐車場裏手とエントランス両側のエレベーターから、黒ずくめのヒューマロイドが襲い掛かって来た。
 鉄パイプや金属バットを振り回す。銃を撃ってる者もいる。
 驚き、両者の構成員は銃を乱射するが、敵わない。
 両者の構成員が持つ銃は、対魔人用ではなかった為、MDで強化しているヒューマロイドには効かなかった。
 ドラキュラと違い、煙は出ずに傷が治癒していく。
 サキュバスも煙は出ずに治癒する。煙の発生は魔人の種族により異なる。
 ヒューマロイドに、構成員達が押される中、那智と伊吹は動かずに傍観している。
 那智に指示され、リリアが覆うように広域シールドを出したからだ。二人はその中にいる。
 両者が戦闘を続ける中、リリアは腕をクロスして広域シールドを維持し続ける。
「言うまでは、そのままでお願いします。それと、スコープを——」
「はいっ」
 那智の指示に、リリアは強く返事をし、頭の小羽と尻尾も出した。
 直後、エントランス入口側から弾丸が掃射された。
 向かいのビルから羽月が掃射する、ガトリングガンの弾丸だ。
 広域シールドに包まれた那智と伊吹、リリアはそのまま留まる。……が、構成員とヒューマロイドは悲鳴を上げ、一斉に両端に寄る。何人も逃げ遅れ、撃たれ倒れていく。
「おいっ、一時休戦だ!」
 両端に寄った構成員の一人が、ヒューマロイドに怒鳴り命じる。
「これ、どうにかしたら、好きなだけMDくれてやるっ」
「本当かっ⁉︎」
「ああ。だから応援呼べっ!」
 その言葉を聞き、ヒューマロイドの青年はスマートウォッチで全員に知らせる。
「やった! 全員、魔サツに負けるなっ!」
 内藤一家と旧制チャイニーズの構成員は、ヒューマロイドとの共闘に合意した。
「——まんまと乗っかりやがったな。フッ、バカ供がっ」
 邪悪に笑い、羽月は吐き捨てる。
 ヒューマロイドに情報を流したのは羽月だった。
 風俗店で、押収したヒューマロイドのスマートフォンから、顧客名簿にあった連絡先にメッセージを送っていた。
『取引日と場所が分かった。その場を襲えば、タダでMDが大量に手に入る。構成員は末端の雑魚ばっかで、対魔人銃も持ってない』
 この情報を元に、ヒューマロイドは人数を集め、襲撃に及んだのだ。
「伊吹っ! 上がって来い——」
 羽月が、ウェアラブル端末から指示を出した。
「了解っ!」
 ウェアラブル端末に伊吹は返事をし、掃射が止む。
 好機に捉え、襲い掛かる構成員とヒューマロイドに、リリアがピンクの刃を無数に放った。
 三人で応戦しながら、伊吹はエントランス入口方向に走る。
 入れ替わるように、旭が駐車場側から現れた。
 手にしている武器は、両側に刃が付いた槍の様な武器だ。
 旭はそれを回転させる。
 すると、黒い刃が無数に放たれた。
 那智に言われ、リリアは留まってシールドを放ち、斬り込む那智をガードする。
 援護を受けた那智は次々に斬り倒す。
 旭の武器は、ブレイヴァンスピアー。
 この武器は自在に長さを変えられ、片側にも両側にも刃を出せる。普段は警棒程の長さで、腰のホルスターに収納している。主に、空軍が地上戦で応戦する用に備えられる。
 エントランスロビーにいた敵が大方いなくなり、羽月が駆け付て来た。
 隠れて銃を撃ってきた二人を、羽月はマシンピストルで仕留める。
「殺り易く散ってくれたな」
 そう言って、羽月は那智と視線を交わす。
「あっ、あの、右側に十四人、左側が十二人。電話で応援を呼んでました。それと、手で五と三を作って、何か指示を出してました」
「指示通り、よく見ていてくれたんですね。助かりましたよ」
「はぁー。よかったぁ」
 那智の言葉に、何とか役に立とうとしていたリリアは、ホッと胸を撫で下ろした。
 那智さん、一度も刃出してないし……。私いなくても問題ない気がする。
 活躍出来ているんじゃないよね。させてもらってるだけ……。
 頑張って役に立たって、恩を返したい……。
 那智の配慮である事に、リリアは勘違い出来ずに気付いてしまっていた。
「ねぇ、これって——」
 近づいて来た旭が、リリアの尻尾を掴んだ。
「やぁんっ」
 リリアは赤面して膝を崩した。
 涙目で両膝を突き、片手を突いて小刻みに震えている。
「えっ、あれっ?」
 そんなリリアを見て、旭も赤面して動揺する。
「あっ、あの……。普段はそれって腰に巻いてるのか、消しているのかなって……。ごめん、気になって……」
「羽と同じで、消してますぅ……」
 涙目のまま、旭の質問にリリアは答えた。
「旭君、体の一部ですから。セクハラになりますよ」
 穏やかな表情を崩さずに、那智は注意した。
「そろそろ、配置に就け」
 冷静というよりか、冷たく羽月は命じる。
「了解!」
 那智と旭、リリアも立ち上がり声を揃えた。
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