BloodyHeart

真代 衣織

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狂気の警告

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「——っ⁉︎」
 ドアの前に立つ総司令官の後頭部に、マシンピストルの銃口が突き付けられた。
「四対一で、喧嘩を売った度胸は褒めてやるよ」
 羽月の低い声に、恐怖が身体中を駆け巡る。
「死体の山の大将——。アンタらの所為で若者が死にまくってんだ」
 左後ろで、軍刀を構えた旭が鋭い目を向けて唸る。
「……待て! ここで殺せば誤魔化せないぞっ」
 恐怖に震えながら、総司令官は恐る恐る両手を挙げた。
「只の忠告ですよ。やだなぁ」
 にこにこしながら言う伊吹が、右横からマシンピストルを向けてくる。ドアを塞ぐように那智が移動した。
 何時もと同じ穏やかな那智の笑顔が、何を考えているか全く分からず、総司令官は臆した。
「まぁ、座れよ」
 羽月に顎で命じられ、三人から武器を向けられたまま、先程と同じ下座に座らせられた。
「……何のつもりだ」
「安心しな。いつでも取れる首に興味はねぇよ」
 王族が座っていた上座に、脚を広げ片腕を背もたれに掛けて、横柄に座った羽月が吐き付ける。
 安心しろと言われても、フッと不敵な笑みを浮かべる羽月に、総司令官は全く安心など出来ない。
「王族にデカイ借りを作ったのは俺達だ。てめぇらに借りを利用する権利はない」
「さ、相良……。王族に取り入り、上層部を処分するのが狙いか?」
 恐る恐る口を開いた総司令官を、羽月は笑い飛ばした。
「っ馬鹿か、てめぇ……。自覚がねぇのか? いつでも取れる首だ……。それすら、もう皮一枚……」
 肩を揺らして笑いながら、羽月は心底馬鹿にした。総司令官からすれば、もはや悪魔の嘲笑いだ。
「忠告ですよ。さっき言った通りのっ」
 背後から声を掛けた伊吹は、にこにこしながら銃で総司令官の肩を叩く。右横には、軍刀を突き付ける旭がいる。
「ああ、忠告してやるよ。脳どころか、髪も貧しい頭で覚えときな——」
 羽月の色気溢れる低音の声が、総司令官の脳を震わせる。
 冷酷な羽月の目に、底知れぬ狂気が見て取れる。全身の血が凍りつく感覚に、総司令官は襲われた。
「な、何だ……⁉︎  一体、何なんだ⁉︎」
 ただただ恐怖に震え上がり、総司令官は怯えに口を動かす。
 そんな総司令官を嘲笑うかの様に、羽月はマシンピストルを向けた。
「——誰であろうが俺の首に、縄も鎖もかけさせねぇ!」
 羽月は総司令官の首、頸動脈ギリギリを撃ち抜いた。
 撃たれた総司令官は、痛みすら理解出来ずに放心している。
 後ろにいた伊吹は素早く避けていた。
「……忘れんなよ」
 釘を刺すと、羽月は立ち上がり、総司令官の頭を桁外れの握力で掴んだ。反射的に、総司令官の口から呻き声が上がる。
「警告は済ませた。次は撃つ——」
 冷酷過ぎる羽月の目と声に、一生悪夢を見続けそうなほど、総司令官はトラウマを植え付けられた。
 抜け殻の様になった総司令官を残し、四人は退室しようとしたが……。
「っ結城君っ! 君は待ちなさいっ!」
 ハッと気付き、総司令官は那智を呼び止めた。
 那智は羽月の顔を見る。
「聞いてやれよ」
 羽月に言われ、那智は残った。
 
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