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デスハラ発覚
しおりを挟む国際対イーブル軍、警察部隊総本部内——。
応接室で、警察部隊総司令官と司令官の二人が、サファイア・テレジア女王、ソフィア王女、サリノ・セシル近衛隊長、シェリー・ミッシェルに応待していた。全員が軍服を着て正装で来ている。司令官達も普段と同じ軍服の制服姿だ。
「失礼します」
羽月の声に、司令官の一人がドアを開けた。
「三〇一隊、リリア王女様をお連れしました」
挙手の敬礼をし、全員で入室する。
姿を見せたリリア王女に堪らず、ソフィア王女は飛び付こうと両手を広げた。
「リリアちゃん!」
「お姉ちゃん!」
歓喜を表らに、リリア王女も両手を広げ抱き付こうとするも……。サファイア・テレジア女王が割って入った。
「リリアっ!」
強く抱き締められ、母親の愛が伝わってくる。
「ママっ……」
「……やっと会えたっ」
今までの思いが破裂し溢れ出しそうな涙を、母は抱き締めた腕に込めた。
「ママっ、苦しいよ……」
苦痛を訴えたながらも、受け止め切れない母の愛に、リリア王女の胸はいっぱいになった。
——何だ。会いたかったんじゃん。
母の様子を見て、ソフィア王女の蟠りは解けた。
母の抱擁が解け、リリア王女はソフィア王女と目を合わせる。互いに駆け寄り、互いに満面の笑顔で抱き締め合った。
「リリアちゃん! やっと会えて嬉しいっ」
「お姉ちゃん、私もっ! ずっと会いたかった」
互いに抱擁を緩め、顔を見て待ちに待った再会を喜んだ。
「リリアちゃん、大きくなったね」
その言葉に、リリア王女は改めて身長差を確認する。
「でも……お姉ちゃんより全然小さい」
「そんな事ないよ。お姉ちゃんと同じくらい大きいよ」
言いながら、ソフィア王女は両手でリリア王女の胸を揉んだ。
「ええっ⁉︎」
驚き、リリア王女は頰を赤らめる。
リリア王女は、華奢だが胸は大きい。ソフィア王女は、手足の引き締まったメリハリのあるナイスバディだ。
「本当に、この度はありがとうございます」
横一列に整列した四人に、女王は頭を下げた。
「いいえ。仕事ですから」
羽月が返す。
羽月は長い髪を一つに束ねている。普段からちゃんとしている那智は変わらずだが、旭と伊吹も髪型を整えて来た。
「娘を助けてくれて、誘拐も内密にして頂いて、本当に恩に着ます」
ソファーに戻り、女王は心からの感謝を伝える。
初対面という事で、立場と年齢が下でも女王は敬語を使った。羽月達は、謙遜しながら笑顔で受け答えた。
そのやり取りに、向かいのソファーに座る司令官達は、不快を露骨に表情を歪め始めた。
「結城少佐は除いて……こいつらは、恩を感じる必要なき外道ですっ!」
後ろに整列する四人を振り返って一睨みし、総司令官が言い放つ。
「普段から問題行動を繰り返し、命令は無視して……」
「——それで圧勝したなら正しい判断だ」
きっぱりと、近衛隊長が総司令官の言葉を遮った。
「良策がある場合、指揮の交代は認められる」
更に追い打ちをかける。
サリノ・セシル近衛隊長の無表情は何時もの事だが、今の司令官達にはとても冷たく感じ、思わず焦る。
「ですが軍人として、命を懸けて国を護ろうとしていない!」
「デスハラかよ」
旭が呟く。
「軍人なら、国家の為に命を捧げろっ! 当然だろっ!」
左側の司令官が振り返り怒鳴る。
「このデスハラで、俺達の命は戦闘機より軽くなってます。無能指揮官の無謀作戦により、志願書を書かされ、壊れた機体で特攻させられる」
仏頂面で旭が告げ口を始めた。
「空軍だけじゃなく、陸軍もです。下手すりゃ、エンジンかけた瞬間に爆発する、壊れた車で特攻させられてます」
伊吹が続いた。
「世界中の血税から高い給料を貰っているんだろっ! 命を惜しむなっ‼︎」
右側の司令官も怒り怒鳴る。
国際公務員である対イーブル軍人の給料は、加盟国の税金から支払われている。
「じゃあ、何でお前らは生きている?」
羽月が冷ややかに質問する。
「っ口の聞き方、気をつけろっ‼︎」
顔を真っ赤に、総司令官が立ち上がり激昂する。
「普段から、部下の言い分を聞いていないんだろ⁉︎ 不満が募るのは当然だ」
口を挟んだ女王は、平静の様だが刺すような言い方だ。
「はいっ……?」
自分達に味方してくれると思っていた司令官達は、叱られるとは全く思っていなかった。
「任務に命を懸けろと言うなら、部下に首を懸けるのは当然——。懸けているか?」
視線を羽月達に移し、女王は尋ねる。
以前に那智が言っていたこの言葉は、元々、サファイア・テレジア女王が言っていた言葉だった。
「懸けていません。保身に捨て駒にされています」
冷めた表情のまま羽月は答えた。
「アーチェ・レガイロの件もあり、監査権を行使するに正当な理由です」
近衛隊長が女王に切り出す。
「そうだね……」
「待って下さいっ! 勝つ為に必要な事だったんですっ」
了承しようとする女王に、司令官達は慌て出す。
「貴様等、さっきから無礼過ぎるぞっ‼︎ 王族の御前だろっ⁉︎」
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「私は全く構わない。査問にかけようとすれば死地に送られる。だから理不尽に従っていた」
女王は、想像するに容易いらしく、見事に言い当てた。
「その通りッス」
旭が答える。
「待って下さい! こちらにも事情がっ……」
「——当然待つ。今回の件で、監査を予想し、早々に証拠を隠蔽した者も多いだろう。予告をしてしまえば隠蔽されてしまう」
慌て出した司令官達を、薄笑みを浮かべて女王は見据えた。
抜き打ち、秘密裏……。司令官達は固まった。
「今はまだ、注意で構わないか?」
女王は優しさ溢れる表情で、羽月達に問い掛けた。
「構いません。抜き打ちで秘密裏の方が確実ですから」
代表して羽月が受け応えた。
「やったぁ。しばらく安全だ」
両手を頭で組み、旭が笑って言う。
「——そろそろ帰ろうよ。リリアちゃんとアキバに行きたい」
伸びをしながら、ソフィア王女は催促する。
どうしていいか分からず動揺するリリア王女とは対照的に、ソフィア王女は退屈していた。
ソフィア王女を一睨みし、サファイア・テレジア女王は立ち上がった。
「実績を見て、評価を改めさせてもらう。三〇一隊、全員を一階級昇任とする」
「了解! ありがとうございますっ」
声を揃えて言い、羽月達は挙手の敬礼をした。
「あの……本当に、ありがとうございました」
退出の前に、何と声を掛けようか迷い、リリア王女は感謝を口にした。
「今度、お姉ちゃんと遊びに来なよ。俺らが案内するよ」
愛想良く言い、伊吹は他の三人に視線を送る。
「いいんですか?」
「ああ。また会いたいしな」
「えっ⁉︎」
意外過ぎる羽月の発言に、旭は思わず声を漏らした。
「お待ちしていますよ。是非、観光にお越し下さい」
二人の王女に、那智はニコリと微笑みを向けて言った。
「ありがとっ。またね」
気持ちの良い笑顔を向けて礼を言い、ソフィア王女は手を振る。
「嬉しいな。また、会って下さい」
言葉通りの嬉しそうな笑顔を浮かべ、リリア王女は一礼した。
「行こっ、リリアちゃん」
差し伸べてきた姉の手を取り、二人で仲良く退出して行った。
見送りの為、司令官の二人も応接室を後にした。
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