裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第一章 踏み荒らされ花

忍び寄る影

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「アークが世話になったな。すまない、アイリス」

 テーブルに差し向かいに座ったライドは、アイリスに礼を言う。

「たいした事してませんわ。ライド、アークの悪夢、まだ続いているのね」

 アイリスにしては珍しく暗い顔だ。

 アークは今、鳥小屋の掃除と卵の回収で席を外している。でなきゃ、こんな話出来ない。

「ああ、忌々しいことに続いてる。早く開放されたらいいんだが」

 ライドは切に願う。開放出来る術がもしあるのなら、命を掛けても構わない。それほど、ライドにとってアークは掛け替えの無い存在になっていた。

 それこそ、アークとの距離は昔とはまったく違うが、ライドにとってアークは生まれた瞬間から、今も護るべき存在だ。その想いは日を追うごとに大きくなる。本当の弟のように。家族ってやつを知らない自分がそう思えるくらいにだ。

「あれだけのことをされたのよ。そう簡単に傷が癒えるわけないじゃない。それこそ、一生癒えないかもしれない程の傷よ」

 実の親に手首を切り落とされ、殺されたのだからーー掛けたのではなく。

 口にこそ出さないが、アイリスの目はそう語っていた。実際、ライドがアイリスの元にアークを連れて行った時、その小さな心臓は止まっていた。

 アイリスの蘇生魔法と回復魔法がなければ、間違いなくアークは今この場にいない。

 アークを護るために村を出たのに、アークを護ることが出来なかった。悔しくてならない。自分の不甲斐なさを、ただただ呪う。どんなに剣や魔法を会得しても、肝心な時に間に合わなかったら話にもならない。

「俺がもっと早く駆け付けられてたらーー」

 今でも悔しさで顔を歪め、唇を強く噛み締めてしまう。その度に鉄の味が口の中に広がる。

「いまさら言ってもしょうがないことよ。過去は変えられないのだから」

 そう言いながら、アイリスはライドの口元に手をやり回復魔法を掛けた。

「……アークは本当に強い子だわ。だから、絶対に乗り越えられる。それには、ライド、貴方の力が必要だわ」

「俺の力が……」

「ええ。貴方の無償の愛があの子を癒やしてあげれる。変わらずに、アークを愛してあげて」

「当然だ。俺はアークのためなら、何だってできる」

 ランドは断言する。その様子に、「……ほんと、人って変わるものね」と、しみじみとアイリスは呟いた。

 昔馴染はこういう時、ほんと厄介だな。

 誤魔化せない。ライドは苦笑しか出てこなかった。言われても仕方ないと自分でも思う。昔の自分は酷かったからな。そんなことを考えていたら、アイリスが名前を呼んだ。

「ライド」

 さっきまでと明らかに違う声のトーンで。

「どうかしたか?」

 自然とライドの態度も変わる。声のトーンも大きさも。

「エルヴァン聖王国の兵士がこの村を探してるらしいわ。ゼルからの伝言よ」

 村の商人であるゼルは、村の外に自由に出ることが出来た。だから、エルヴァン聖王国の情報をそれとなく集めてもらっていた。

 ゼルの情報は正確だ。そして信用できる。

 エルヴァン聖王国がこの村を探しているってことは、その目的は間違いなくアークだろう。

 アークの生死を確かめに来たのか。

 アイツらのことだから、ユリウス王子に勇者の紋章が出ないことに、相当苛立っているはずだ。容易に想像できる。

 そして、疑問を抱く。

 殺したはずのアークが、もしかして生きているかもしれないと――

 その考えに行き着くのはおかしなことじゃない。

 さらに拍車をかけたのが、アーク様付きの護衛騎士が、同時期に突然騎士を辞めて田舎に戻ったことだ。もしかして関連があるのでは、そう疑念を抱かれてもおかしくはないだろう。

 五年か……もう少し引き伸ばせたらよかったんだが……仕方ないな。

「…………分かった」

「この村にいる限り大丈夫よ。悪意を持つ者は入って来れないから。いい、くれぐれも村の外には出さないで。結界にも近付けさせないで」

「ああ、分かった。近付かせない」

「ライド、貴方もよ」

「わかってる」

 ライドはそう答えると席を立つ。そのままドアに向かった。

 タイミングよくパタパタと廊下を走る音がする。ライドはドアを開けた。アークが勢いよく入ってくる。

「アイリスさん。はい」

「ありがとう、アーク」

 アイリスはニッコリと微笑みながら籠を受け取る。

「いつも悪いな、アイリス。助けてくれて助かるよ」

「じゃあ、またね。アイリスさん」

 ライドとアークは一緒に帰って行った。アイリスは二人を微笑みながら、その背中を見送る。

 忍び寄る影から二人を護ることを、あらためて決意しながら。

 
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