5 / 34
第一章 踏み荒らされ花
忍び寄る影
しおりを挟む「アークが世話になったな。すまない、アイリス」
テーブルに差し向かいに座ったライドは、アイリスに礼を言う。
「たいした事してませんわ。ライド、アークの悪夢、まだ続いているのね」
アイリスにしては珍しく暗い顔だ。
アークは今、鳥小屋の掃除と卵の回収で席を外している。でなきゃ、こんな話出来ない。
「ああ、忌々しいことに続いてる。早く開放されたらいいんだが」
ライドは切に願う。開放出来る術がもしあるのなら、命を掛けても構わない。それほど、ライドにとってアークは掛け替えの無い存在になっていた。
それこそ、アークとの距離は昔とはまったく違うが、ライドにとってアークは生まれた瞬間から、今も護るべき存在だ。その想いは日を追うごとに大きくなる。本当の弟のように。家族ってやつを知らない自分がそう思えるくらいにだ。
「あれだけのことをされたのよ。そう簡単に傷が癒えるわけないじゃない。それこそ、一生癒えないかもしれない程の傷よ」
実の親に手首を切り落とされ、殺されたのだからーー掛けたのではなく。
口にこそ出さないが、アイリスの目はそう語っていた。実際、ライドがアイリスの元にアークを連れて行った時、その小さな心臓は止まっていた。
アイリスの蘇生魔法と回復魔法がなければ、間違いなくアークは今この場にいない。
アークを護るために村を出たのに、アークを護ることが出来なかった。悔しくてならない。自分の不甲斐なさを、ただただ呪う。どんなに剣や魔法を会得しても、肝心な時に間に合わなかったら話にもならない。
「俺がもっと早く駆け付けられてたらーー」
今でも悔しさで顔を歪め、唇を強く噛み締めてしまう。その度に鉄の味が口の中に広がる。
「いまさら言ってもしょうがないことよ。過去は変えられないのだから」
そう言いながら、アイリスはライドの口元に手をやり回復魔法を掛けた。
「……アークは本当に強い子だわ。だから、絶対に乗り越えられる。それには、ライド、貴方の力が必要だわ」
「俺の力が……」
「ええ。貴方の無償の愛があの子を癒やしてあげれる。変わらずに、アークを愛してあげて」
「当然だ。俺はアークのためなら、何だってできる」
ランドは断言する。その様子に、「……ほんと、人って変わるものね」と、しみじみとアイリスは呟いた。
昔馴染はこういう時、ほんと厄介だな。
誤魔化せない。ライドは苦笑しか出てこなかった。言われても仕方ないと自分でも思う。昔の自分は酷かったからな。そんなことを考えていたら、アイリスが名前を呼んだ。
「ライド」
さっきまでと明らかに違う声のトーンで。
「どうかしたか?」
自然とライドの態度も変わる。声のトーンも大きさも。
「エルヴァン聖王国の兵士がこの村を探してるらしいわ。ゼルからの伝言よ」
村の商人であるゼルは、村の外に自由に出ることが出来た。だから、エルヴァン聖王国の情報をそれとなく集めてもらっていた。
ゼルの情報は正確だ。そして信用できる。
エルヴァン聖王国がこの村を探しているってことは、その目的は間違いなくアークだろう。
アークの生死を確かめに来たのか。
アイツらのことだから、ユリウス王子に勇者の紋章が出ないことに、相当苛立っているはずだ。容易に想像できる。
そして、疑問を抱く。
殺したはずのアークが、もしかして生きているかもしれないと――
その考えに行き着くのはおかしなことじゃない。
さらに拍車をかけたのが、アーク様付きの護衛騎士が、同時期に突然騎士を辞めて田舎に戻ったことだ。もしかして関連があるのでは、そう疑念を抱かれてもおかしくはないだろう。
五年か……もう少し引き伸ばせたらよかったんだが……仕方ないな。
「…………分かった」
「この村にいる限り大丈夫よ。悪意を持つ者は入って来れないから。いい、くれぐれも村の外には出さないで。結界にも近付けさせないで」
「ああ、分かった。近付かせない」
「ライド、貴方もよ」
「わかってる」
ライドはそう答えると席を立つ。そのままドアに向かった。
タイミングよくパタパタと廊下を走る音がする。ライドはドアを開けた。アークが勢いよく入ってくる。
「アイリスさん。はい」
「ありがとう、アーク」
アイリスはニッコリと微笑みながら籠を受け取る。
「いつも悪いな、アイリス。助けてくれて助かるよ」
「じゃあ、またね。アイリスさん」
ライドとアークは一緒に帰って行った。アイリスは二人を微笑みながら、その背中を見送る。
忍び寄る影から二人を護ることを、あらためて決意しながら。
40
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる