ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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お花畑のお花は全部枯れたのよ

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「そんなに焦らなくても大丈夫だよ、シア」

 私が叫んだと同時に、温かいマントが肩にかけられ優しい声が頭上からした。

「…………カイナル様」

 言葉が出なかった。大切な人の名前以外は――

「ラメール侯爵は無事だよ。大量の出血があるが、命に別状はない。今は医療院で治療を受けている」

 この人は……本当に凄い。決死の想いで聞き出したことを、当事者の私より先に把握している。もちろん、私が叫んだ理由もわかっていた。

「よかった……本当に、無事でよかった……」
 
 このまま死んだら、あまりにもラメール侯爵様が可哀想すぎる。いや……貴族社会では死んだことになるかもしれないけど。それは、普通の死よりも辛いことだと思う。

 だけど、生きていたら幸せなことが後にあるかもしれない。死んだら――その幸せを味わうことは、絶対できないんだよ。

「しょせん魔族の手先、しぶといですわね!!」

 お花畑一号の興奮したヒステリックな声が響く。

「本当に。でも、必要な血は十分採取できているのだから、よろしいではありませんか?」

 反対にお花畑二号は、別の意味で興奮しているようだった。彼女の目はカイナル様だけしか見ていない。

 ――気持ち悪い!!

 この時、私はこのお花畑の目を潰してやりたいと思った。でもできないなら、私はカイナル様の前に立つ。そして、自分でも驚くような、とてもとても低い声で恫喝した。

「見るな」

「……なっ、凄んでも怖くないのよ!! 私には貴女の侍女が、えっ!?」

 命じなくても、リアは自分の首筋にナイフを当てていたゴロツキを一瞬で制圧していた。

「少し考えたらわかりそうなのに、私がなんの策も練らずにここにきたと思ったの? 浅はかね。幼稚すぎるわ」

 心底怒った時って、冷静な口調になるみたい。

「「な、なんですって!!」」

 ほんと、仲良し親子。

 私は水魔法で床の血を流す。魔法陣は消え、床はキレイになった。

 固まるお花畑一号、二号。それでも逃げ出そうとする素振りを見せる彼女たちに、私は一歩一歩近付く。

「もう、とうに詰んでるの気付かないの? 私を誘拐した時点で、貴女たちは詰んでるのよ。理解できない? お花畑は脳みそがフワフワだからしかたないか。でもね――もうお花畑のお花は全部枯れたの。これから、貴女たちはそれを身に沁みて知ることになる。いくら王族の血を引いていてもね。ねぇ……私、さっき言ったよね、私の大事な人を見ないでって」

 私はお花畑二号の前に立つと、膝から崩れ落ちている彼女の下顎を、私の方にクイッと持ち上げた。

「それ以上見るなら、その両目潰すわよ」

「ヒッ!!」

 お花畑二号は小さな悲鳴を上げ、ガクガクと小刻みに震えている。やっとこっちを見てくれた。構わずに、私は続けた。

「貴女は大きな間違いをしたの。私の悪口なら、いくら言っても構わなかった。事実、平民だからね。でもね、貴女は私を貶すと同時に、カイナル様を貶したの。私を選んだカイナル様をね。そして、私が選んだカイナル様をね」

「……人族のくせに」

 震える声で、お花畑二号は最後の悪態を吐く。

「そうね、私の行動って人族らしくないわね。でも、自分の番を馬鹿にされたら怒るわよ。貴女の誤算は、私がその怒りを吐き出せる環境にいたってことよ。コンディー公爵家を敵に回したのが、運の尽きよ」

 そう言い捨てると、私はお花畑二号から手をのけた。冷たい目で一瞥すると踵を返す。私はそのままカイナル様の元に戻り、呆けている彼に苦笑しながら話しかけた。

「そろそろ、帰りませんか? 私たちの家に」

 弾かれたように、カイナル様は私を抱き締めると、誰の目にも私の肌が見えないようにマントでくるみ、横抱きにした。

 緩みきった幸せそうな顔で。

「ああ、帰ろう」

「はい!!」

 私は安心して、その温かい胸に身を任せた。

 
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