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その名前だけはしっかりと胸に刻んでおくわ
しおりを挟む――お花畑のお花は全て枯れ果てた。
あの異質な部屋で言い放った言葉通りの決着だったと、カイナル様は私に教えてくれた。ベッドの上でね。
あの後、気が抜けちゃって寝ちゃったんだよね。それから、半監禁状態だよ。心配させたからしょうがないって納得はしてる。でも、いつまでもこの状態でいるわけにはいかないけどね。中間テスト近いし。
話を戻すけど、現国王陛下の妹であるラメール侯爵夫人と令嬢は、私に対しての拉致監禁と私と侯爵様に対しての殺害未遂、禁術の乱用、以下の罪により、北の塔への永久牢獄が決まった。
そう告げられた時、お花畑一号と二号は泣き叫び減刑を嘆願したそうだ。そして、それが叶えられないと知ると、放心したように座り込んでしまったらしい。カイナル様が教えてくれた。
貴族牢での毒杯ではなく、厳しい修道院でもなく、王宮の外れにある北の塔――
死を賜らなかった判決に、甘いと言う者はいなかったでしょうね。反対に、その場に同席していた者は青ざめ震えていたと思う。カイナル様自身、その刑罰で良しとしているほどの環境下だから、容易に想像できるでしょ。平民である私でも噂で知っているくらい怖ろしい所だと聞いていたし。
王城内の外れにあるその塔の高さは、他の塔より少し高いくらい。
でも、そこに投獄された者は生きては出られない。いや、死んでも出獄は許されない。
明かりは一切なく、窓は格子のはまった小さな空気穴だけ。当然風呂もなく、トイレは小さな桶。そして、死なない程度の粗末な食べ物。身体と精神を病まないよう、塔全体に特殊な魔法が施されている塔の中で、何十年も生きるの。脱獄ができないよう、塔自体にも魔法が施されているらしいから、脱獄は当然不可能。
そんな環境下で、今まで裕福でなんでも侍女たちにしてもらっていた人が耐えれるわけない。その上、なにもかも忘れることも許されない。身体を病まないということは、自死も許されない。ただ、痛いだけ。
死よりも苦痛で残酷な刑罰――
それが、北の塔への投獄だった。
たぶん……カイナル様のことだから、自分の手で投獄したと思う。
「……減刑を願ったほうがよかったか?」
今さらなにを言ってるんだろう、この人は。私が硬い顔で黙って聞いてるから心配になったみたいね。
「いいえ。刑については、国王陛下ご自身が決められたこと、私が異議を唱えることはできません。ただ私が言えるのは……ラメール侯爵夫人とシルク様は、人が越えてはならない線を越えてしまったのです……」
狂気に似た恋心がそうさせた。
「……そうだな」
「悲しい人たちです。それで、ラメール侯爵様は?」
「伯爵に降格だけですんだ。妻子を止めることができなかったからな。とはいえ、自身も重傷の身、かなり情状酌量されているな」
押し付けた手前、国王陛下も強くは言えないよね。
「…………目が覚めたら、苦しみが待ってますね」
夫人のことを愛していたかはわからないけど、家族に、それも自分の娘に殺されかけたのだから、侯爵様、いや伯爵様の気持ちを想像すると、胸が痛むよ。
胸の痛みに気付いてくれたからかな、カイナル様の大きな手が私の片頬を包み込む。
「シアは優しいな。その優しさは尊い。だけど、伯爵にはその優しさは無用だ。あそこまで夫人と娘がいくまでに、兆候がなにもなかったとは考えられない。手をこまねいた責任があると、俺は思う」
カイナル様の言う通りだ。
「……そうですね。でも、伯爵様が止めていても、あの二人はいずれ同じことをしたと思います」
間近で見ていた私にはわかる。遠回りか近回りか、それだけの差だってことが。
狂気じみた愛――狂愛の行き着く先は破滅しかない。それも、他者を巻き込んでの破滅。ほんと、はた迷惑な話よね。でも……ある意味、そこまで一人の人を愛するのは凄いことだと、正直思った。
「確かにな」
「それでカイナル様、シルク様が言っていた、留学先の親友は誰かわかりましたか?」
お花畑二号に要らぬ知識を、それも嘘を教えたやつ、他国だから罪は問えないけど、その名前だけはしっかりと胸に刻んでおくわ。
「わかった。コーマン王国の第二王女、ユベラーヌ・コーマンだ」
「……ユベラーヌ・コーマン」
私は繰り返し呟いた。
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