ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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入学前夜

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 あれから、カイナル様との関係は特に変わってはいない。変わったら、倫理上アウトだけどね。
 
 そうそう、カイナル様が優秀な家庭教師をつけてくれたおかげで、無事学園の入学試験合格したの。第二位の成績で。凄いでしょ!! 受けるなら、上位の成績を残さないといけないって思ってたから。だって、私はカイナル様の番だからね。それが叶ってすっごく嬉しいよ!! カイナル様も執事さんも皆喜んでくれた。私の家族もね。

 六年のうち五年は礼儀作法とかの貴族としての教養を積んで、残りの一年を入学試験の対策に当てた。試験日が近付くと、ゲンジュ公爵家に泊まり込みで試験勉強をした。覚えることがありすぎて、マジで頭がパンクしかけたよ。実際、頭から湯気が出たし。

 でも、とっても楽しかった。

 ずっと、勉強したいって思ってたから。でも、平民の私には難しい。カイナル様に大口叩いたわりには、本音では半ば諦めていたの。あまりにも壁が高すぎて。色んな意味でね。なのに……

 入学の準備と引っ越しでバタバタとしていると、あっという間に、入学式前日になった。

「……ユリシア」

 いつもと同じように執務室でゆったりとしていると、私の名前を呼びながら、カイナル様が小さな箱を手渡してきた。中を開けなくてもわかる。ピアスだって。開けたらやっぱりピアスだった。

 カイナル様の瞳と同じ色をした、真っ黒な魔石のピアス。

 とても綺麗で、つい口元が緩んでしまう。カイナル様の色だからかな。今だに、恋愛感情ってよく理解できないけど、こういう気持ちの積み重ねかなって、今は思うの。

「着けてくれるか?」

 なに、そんなに心配そうな顔をしてるの。もしかして、断られるとか思ってる。そんなことないのに……

「痛いのが苦手なので、できれば痛くしないようにお願いします」

 また優しい言葉を言えなかったよ。素直に、嬉しいですって言えたら、カイナル様は、少しは安心するのかな。心の中ではいくらでも言えるのに……ほんと、嫌になる。

「わかった。痛くしないようにする。でも、少しでも痛かったら、遠慮なく言ってくれ」

 カイナル様の少し冷たい手が、私の左耳に壊れ物を扱うように優しく触れる。なんか恥ずかしい。顔が熱くなってきたよ。

「顔が赤いが、熱があるのか!?」

 わざわざ口に出して言わないでよ。かえって恥ずかしいじゃない。

「熱はありません。続けてください」

「そうか」

 私をいつも気付かってくれるけど、こういう時は強引に進めてくれていいのに。わざとなの!!? だったら、意地悪だわ。

 そんなことを考えている私の耳たぶを触ると、カイナル様がなにか口の中で呟いた。すると、耳たぶの感覚がなくなった。パチンと音がする。

「……終わったぞ」

 そう言うと、カイナル様は手鏡を私に手渡してくれた。もう終わったの? 全然痛くなかった。手渡された私の左耳には、カイナル様の色の魔石がキラリと輝いている。

 ちょっと感動していると、カイナル様が私を抱き締めた。いつもはジタバタと暴れるけど、今は暴れない。

「これで、ユリシアは俺のものだ……俺だけのものだ。長かった……本当に長かった」

 そんな呟きが聞こえてきた。

「始めから逃がすつもりがなかったのに、おかしなことを言いますね」

 笑いながら私は言う。

「身体はいつでも手に入れることができるが、俺は欲ばりで心も欲しかった」

 いつでも手に入れれるって……私、まだ十二歳だよ。それ、よそで言ったらロリコン宣言だからね。

「言っておきますが、婚約したからといって、身体を手に入れるのは、私が高等部を卒業してからにしてください」

「最後までしなかったらいいんじゃないか」

 なにを言い出す!! このエロ獣人!!

「手を出してきたら、荷物を持って家に帰ります!!」

 私は本気だからね。持ってきた荷物は少ないからすぐに帰れる。

「許可が出たら、手を出していい?」

 婚約したからなの? ちょっと強気だよね、カイナル様。

「絶対に出しませんから!!」

 真っ赤な顔をしてそう告げると、カイナル様は可笑しそうに笑った。その笑顔を見ていると、私の心に渦巻く不安が晴れた気がした。


 明日から学園に通う。
 
 望んで入学するけど、たぶん……色々な厄介事が降りかかってくる気がするの。

 白銀の守護神の番は、色んな意味でどうしても目立つ。皆の憧れの立場だから――

 今までは家族とカイナル様の保護下にいた。でも、学園では保護の力がどうしても弱くなる。ピアスをしていてもね。悪目立ちしたくはないけど、おそらくするだろうな……でも、私らしく、そしてカイナル様の評価を落とすことなく、負担にならないように頑張らなくては。

 それが、私の夢にも繋がっていると信じているから――

 
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