6 / 73
ピアス
しおりを挟む「私が学園ですか……学院ではなくて」
夢の話をしてから一週間後ぐらいかな、帰りの馬車の中で、カイナル様が「学園に通ったらどうか」と提案してきた。考えもしていなかった台詞に、吃驚して目を丸くする。
てっきり、カイナル様は学院を進めてくるって思っていた。それでも、平民の私にとっては幸福な事だよ。
なのに、まさかの学園入学。この前、私が夢の話をしたからだよね。
ゼシール王立魔法学園は共学校で、将来領主になる人や、騎士や文官、王宮魔術師を目指す人たちが通うエリート学校。生徒の九割が貴族で、残り一割が平民なの。平民といっても、商会や町長などの裕福層の人たちばかり。
反対にアシール学院は、貴族様の番になった方や淑女教育、学園に落ちた人が通っているわ。ゼシール王立魔法学園より、かなりレベルは落ちるかな。でも、その分ゆったりとした校風だから、そこを目指す人も意外と多いの。ここも、共学校だよ。
「学院では、ユリシアの夢を叶えるのは難しいだろ。さすがに、初等部を受験する時間はないが、中等部からなら十分時間がある。挑戦するなら、力を貸そう」
(学園か……悪い話じゃない。一級司書官を目指すなら学園に通うべきよね。教育レベルがまったく違うもの。でも……お金がない。私の家からでは到底通えない)
考え込む私に、カイナル様が更に続ける。
「お金のことは心配しなくていい。家庭教師と学園の学費は、俺が払おう」
「そこまで、甘えてもいいのですか?」
助かるけど、さすがに図々しいよね、心が痛む。いくらカイナル様でも、気が引けるよ。
「構わない。ただ……お願いがあるのだが…………」
(お願い? やけに言いにくそうね。まさか!? 抱っことスリスリ、クンクン以上のことがしたいの!? いやいや、さすがにそれは駄目だよ!! 犯罪だと思う!! っていうか、私の心臓が持たないよ~)
声を出さずに叫ぶ私。かなりパニクってるよね。
「…………お願い……ですか」
少し声が震えている。そんな私をよそに、カイナル様は頬を染めながら軽く頷く。そして、私の左耳に軽く触れた。
「ここに、俺の色のピアスを着けてくれないか?」
左耳にピアス――
それは、正式に番契約を交わした証。
番相手の色を心臓に近い耳に着けるの。白百合は番になることを許可しただけ、人族風に言えば、結婚を前提の告白を受け入れた感じかな。ピアスは正式に婚約を交わした感じ。
「わかりました。それで、いいのですか?」
平然と答える私を見て、何故かカイナル様が慌ててるよ。
「……いいのか? ピアスを着ける意味を知らないのか……」
(失礼な)
「それくらい知ってますよ。正式に番契約を交わすってことですよね」
「……抵抗はないのか?」
(何を今さらなこと言ってるんだろ。この人は)
「抵抗して欲しいのですか? 抵抗しませんよ。外堀を完全に埋められてますし。それに、私がもし逃げ出したとしたら、必ず捕まえにきますよね。なら、受け入れますよ」
あまりにも、淡々と仕方なく風に言ったから、カイナル様の表情が曇っている。でも、ピアスを許可したことの嬉しさも同居している感じかな。
私はそんなカイナル様を見て、自然と口元が綻んだ。今度は驚いている。ほんと、二人っきりになるとカイナル様ってコロコロ表情が変わるよね。可愛いな。なんか、安心する。
「カイナル様、私、まだ子供なので、恋愛とかよく分からないんです。姉の恋愛小説を読んでも理解出来なかったし、胸が熱くなったりもしませんでした。友だちの中には、一目惚れしたとか言ってる子もいるのに……私はそう言う方面が人よりも疎くて未熟だと思います。そんな私でも、恋愛に興味がないと言えば嘘になります。その感情をいつ抱くかは分かりませんが、その相手はカイナル様がいいです。これから長い間、共に生活をするのですから、楽しい方がいいでしょ」
いい機会だから、正直に胸の内を語ってみた。
(静かね、カイナル様。てっきり、飛びついてくると思ったけど……)
予想外の反応なので、少し心配になって、カイナル様の顔を下から覗き込む。一瞬、息が止まったよ。
「えっ!? 何、泣いているんですか!?」
私は持っていたハンカチを、カイナル様の目元に慌てて当てた。
「…………ずっと、嫌われてると思っていた」
私の手を掴み、小さくか細い声で、カイナル様は吐露する。
「嫌ってましたよ、始めは」
嫌いって言葉に、カイナル様の身体がビクッと震えた。構わず、私は続ける。
「でも……この三か月、間近でカイナル様を見て考えが変わりました。近くで見ていれば、カイナル様の人柄ぐらい分かりますよ。ただ、拉致監禁したことは一生許しませんけど」
ここまで踏み込んで、自分の気持ちを素直にさらけ出した事はなかったね。そんな事を考えていたら、馬車がタイミングよく停まった。
「それでは、明日から改めて、婚約者として宜しくお願いします」
そう告げてから、私は馬車を降りた。降りた後振り返る。この時の私は、とても良い笑顔だったと思う。カイナル様が惚けていたから。
「…………俺の番は尊すぎる」
そう吐き出された台詞を、家路を急いでいた私には届かなかった。
133
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる