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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります

ブレスレット

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「では、私からこちらをディア様にプレゼント致しましょう」

 そう言いながら司祭が取り出したのは、どこにでもありそうなブレスレットだった。二つある。

 取り出した瞬間、隣にいる殿下の体が一瞬ビクッと揺れたきがした。いや、揺れた。その揺れに気付いたのは、殿下の後ろにいた私とサクヤぐらいかな。後は、学園長の手下である暗部ぐらいか。実際、何人入り込んでるのかな。ちょっと気になる。

 まぁ今はそれよりも、ブレスレットね。アレ、絶対怪しい。それも二つ。間違いなく、オルガ様とカイン殿下の分ね。

 もうちょっと近くで見たら【鑑定】出来るんだけどなぁ。精神関与の魔法具だとは思うけど、やっぱり【鑑定】しないとはっきりなことは言えない。

 なので、私は足音を消して少しだけ近付こうとした。後三歩近付けば、ギリ【鑑定】出来る。

 念のために強めに認識阻害の魔法を掛けているけど、静かな場所で一歩踏み出すのは勇気がいった。でも確かめないと。グリード家の皆のためだから。

 一歩。二歩。三歩。

 立ち止まる。そして、

『鑑定』

 声に出さずにスキルを発動させる。

 瞬間、血の気がサーと音を立てて引いた。私は反射的に口を押さえる。そうしないと声を上げそうだった。戻しそうになった。

 直ぐ傍にいたサクヤが異変を感じ私を抱える。殿下に目合わせをしてから隅に下がった。

 殿下が扉の横に控えている従者に、トイレに行っていいかと尋ねた。顔を歪めながらも、従者は無言で扉を開けてくれる。先に私とサクヤが。次に殿下が食堂を出た。

「取り敢えず、一旦引きましょう」

 吐息ぐらいの小さな声でサクヤは告げた。

 殿下は軽く頷く。私はまだショックが抜け切れなかった。

 サクヤは殿下に認識阻害の魔法を掛ける。そのまま三人で別荘を出た。ちょうど裏口から村の荷馬車が出て行こうとしていたので、その後を付いて行く。

 結界を通り抜けてから、私はサクヤと殿下から離れて木の影に屈む。途端に戻した。戻しても、心の靄は全く晴れない。心配したサクヤと殿下が背中を撫でてくれようとする手を、私は咄嗟に払いのけてしまった。

「……ごめん。ほんの少しでいいから、一人にしてくれますか」

 殿下とサクヤが離れる気配がした。

 口をゆすぎ、嘔吐物で汚れた服を浄化魔法で綺麗にした。ほんとは歯を磨きたいけど。最後に土魔法で嘔吐物を埋めた。

 そうしているうちに、騎士団長たちがやって来た。

「どこも、なんともないな? ……もしかして、吐いたのか?」

 騎士団長の目は誤魔化せられないね。私の方を見て尋ねてくる。まぁ、青い顔をしてるから誰かは分かるわね。

「もう、大丈夫です」

 出すものもないしね。

「詳しい話は後で。今はここを離れた方がいいんじゃないかな」

 確かに、師団長様の言う通りですね。
 
 私たち一行は直ぐにその場から立ち去った。馬車を停めている場所に戻るまで、誰一人口を開かない。

 戻って来た途端、殿下が尋ねてきた。

「あのブレスレットは何だったんだ?」と。

 訊かれると思ってた。皆に話さなくてはいけない。情報共有は大事だから。でも、その単語を口にはしたくなかった。

 ……ここは我慢しなくちゃね。

「魔法具ですわ。でも、精神関与ではありません。それよりももっと、醜悪な禍々しいものです。

 ……あの魔法具に施されているのは、【隷属】です。

 つまり、着けた者は奴隷になるんです」



 
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