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第二章 開園
桜ドリームパーク
しおりを挟むウサギの着ぐるみを着たレン太とピエロ、そして、お気楽な参加者たちのカウントダウンの声が、田んぼのど真ん中で始まる。
あまりにも異様な熱気だった。
掛け声が零に近付くにつれ、段々と増していく熱気。圧倒的な熱気に圧され、勇也と巽は完全に引いていた。柳井と華は益々顔を険しくする。
三十秒前から始まったカウントダウンは一桁になった。
最高潮に高まる、お気楽な参加者たち。
五、四、三、二、一、零。
カウントダウンの声が零と告げた瞬間、それは起こった。
突如、突風が更地にいる人たちを襲ったのだ。
いきなり襲ってきた突風に、あちこちから悲鳴が上がった。何故か歓声も上がった。
勇也たちは反射的に顔を庇う。幸いなことに、突風は数秒で止んだ。庇っていた手を退け、おそるおそる勇也は目を開けた。
するとそこは、もう……つい数分前まで自分たちが立っていた場所ではなかった。コンクリートで整地された無機質な更地じゃない。
そう、勇也たちが今いるのは遊園地内だった。
ーー【桜ドリームパーク】。
別名【人喰い遊園地】。
「………………連れて来られたのか……」
勇也と巽、どちらの口から漏れたのか分からない。無意識のうちに出た言葉のせいか、誰の声か分からない程、その声はとてもとても小さかった。
柳井と華はこういう事態を予想していたのか、特に驚くことなく、冷静に周囲を見回し対処している。とても心強い。
ここが普通の人間が運営する遊園地なら、絶対カップルで来るべきだ。だって幻想的で、彼女が喜ぶような、可愛らしい雰囲気がある遊園地だったから。
白ではなく、クリーム系に統一された電灯が灯り、シンプルだが、どこか心がほんわかと温かくなるような独特の雰囲気がある。少し懐かしい感じがした。
勇也はよく分からないが、巽さん曰く、昔を思い出させるような演出が所々に施されているそうだ。それが、こじんまりとした遊園地にとても合っていた。
もしここが、都市伝説にもなるような遊園地でなく、あやかしが営む遊園地じゃなかったら、勇也はこの遊園地をお気に入りの場所にしていただろう。正直、自分好みだった。
全身を纏 っている空気も、ほんわかとしていて心地良い。
そして、夏真っ盛りなのに、暑くもなく、寧ろ涼しかった。少し肌寒いくらいだ。
勇也はこの遊園地が持つ独特の雰囲気に、飲み込まれそうになる。いや、既にもう……完全に飲み込れていた。
隣を見れば、巽も間抜けな顔をしてキョロキョロ回りを見ている。
柳井と華から事前に説明されてたから、頭で理解していた。だけど、やはり実際に体験するのとは全く違う。しかし幸いなことに、戸惑いや恐怖心はあっても取り乱すことはなかった。傍に信頼出来る人がいるからだ。何て心強いんだろう。心底勇也は痛感した。
それにしても、ここが人を喰らうあやかしたちの棲む物騒な世界だとは到底思えない程に、和やかで温かい場所だった。
見掛けだけがそうなのだろうか……。ふと、そんな考えが勇也の頭を過る。
「「痛っ!!」」
同時に、勇也と巽の口から悲鳴が上がった。柳井が巽の頭を叩き、華が勇也の足を思いっきり踏んだせいだ。
「正気に戻った? 二人とも」
柳井の冷たい声が耳に届いた。早速、フォローされたな。
(危ない。危ない。意識が完全にあさっての方向に飛んでいたな。怖っ)
痛みで現実に戻る。シンプルだが一番効果的だ。でも、マジで痛い。力入れて踏んだな、華ちゃん。
「悪い」
「すみません」
勇也と巽は二人に謝りながら、改めて周囲を見渡す。
広場らしき場所に立っているのは自分たちだけだった。
((あれだけいた人は、いったい何処に?))
警戒感と不審感が沸き上がる。勇也たちの所だけ明らかに空気が違っていた。大の大人が三人と少女が一人。遊園地とは似つかわしくない厳しい顔で立っている。
その脇を、楽しそうにはしゃぎながら、子供たちが通り過ぎて行った。
勇也はその後ろ姿を見送る。一見、見た感じは普通の子供だった。
お面を被っている子どもたち。
でも子供の中には、耳や尻尾が生えた子もいた。背中に黒い翼が生えた子もいる。
それがアクセサリーじゃないことは、勇也でも一目で分かった。アクセサリーはピクピク動かないだろ。間違いなく、あの子供たちはあやかしだ。そう……。
ーーあやかし。
勇也は生まれて初めてあやかしを見た。ウサギのレン太やピエロは別として。
不思議なことに、恐怖心は湧いてはこなかった。あれ程恐怖で震えていた筈なのに。眠れない夜を過ごしたのに。
目撃したのが子供だったからなのか。それとも、あまりにも人間に近い容姿をしていからなのか。勇也は正直分からなくなっていた。
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