人喰い遊園地

井藤 美樹

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第一章 闇からの誘い

重い口

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 巽が勇也に例の行方不明者の案件を振ってから、一週間が経った。

(そろそろ来る頃だな……)

 いつもの事なので大体予想出来る。

 すると予想通り、勇也は巽のデスクにやって来た。勿論、例の行方不明の中間報告のためだ。だが、どことなく様子が違う。勇也にしては珍しく険しい顔をしたままだった。

「全く……五日ぶりの出社だな。連絡一つぐらい入れろって、いつも言ってるだろ」

 呆れながらも特に怒鳴ることなく、巽は一応所長らしく注意する。

 探偵業務は普通の会社とは全然異なる職種だ。依頼内容によっては、深夜に駆り出されることも多い。ほとんどがそうだろう。普通の人のオフが自分たちの活動時間だ。仕方ない。

 なので巽は、出社義務を部下にかしてはいなかった。そのせいか、何日も事務所に顔を出さないことも、ここでは然程珍しいことではなかった。

 まぁそれでも、定期的に連絡を入れなければならないんだが。それが一応最低限のルールだった筈だ。

 なのに勇也ときたら、一旦案件にのめり込むと連絡を入れるのを忘れることが多かった。だから今回もそうだと、巽は安易に考えていた。頼んだ案件が案件だしな。

 正直言えば、たった五日で進展することはまずないと踏んでいた。大勢の優秀な探偵が匙を投げた案件だ。いくら勇也が優秀であったとしても新人、まず無理だと考えていた。

 巽自身も抱えていた案件が大詰めをむかえていたせいで、忙しかったし余裕がなかった。言い訳にはならないが、特に勇也のことは気にも留めていなかった。勇也に注意を向けてもいなかった。この案件が如何に危険なものかを知らずにだ。

 もし少しでも注意を向けていたなら、自分から電話を掛けていれば、早い段階で勇也の周囲に起きている異変に気付けたのかもしれない。

 大事な後輩で、優秀な部下でもある勇也の身に、すぐそこまで危険が迫っていることに気付けたかもしれない。

 巽は後に、そのことを心から後悔することになる。

 いつもなら、巽から注意を受けた後、悪びれることもなく謝罪の言葉を口にする勇也が、今回は何も言わず黙り込んでいる。険しい顔をしたままだ。

 あまりにもいつもと様子が違ったので、巽は一抹の不安を感じた。別室に勇也を連れて行き、詳しい話を聞くことにした。

「……それで、どうしたんだ? 何かあったのか?」

 尋ねるが、勇也はなかなか口を開こうとはしない。その態度も勇也らしくなかった。

「勇也?」

 巽は再度呼び掛ける。その声は自然と低くなった。

 その間も、勇也は何かを考え込んでいるようだった。いや、何かと葛藤しているようだった。ここで催促すると、勇也ははぐらかすかもしれない。なので巽は、勇也が口を開くのを待つことにした。

 しばらくして、ようやく勇也は重い口を開いた。

「………………この案件、マジやばいですよ。正直、手を引いた方がいいと思います」

 初めてだった。勇也が一度請けた仕事を途中で投げ出すような事を言うのは。

 何かあったからだとは思うが、それが果たして手を引くまでの事なのか、巽は判断し切れなかった。

「……一度請けた案件から手を引けと?」

 巽は煙草に火を点けると軽くふかしてから、勇也に厳しい目を向ける。

「巽さんが、見た目に反して責任感が強いことも、この仕事に誇りを持っていることもよく知っています。それを知った上でお願いします。どうか、この案件から手を引いて下さい」

 いつも茶化した物言いをしている後輩が、敬語を使い、自分の目を見据えて進言している。怯むことなく。

(つまりそれだけ、この案件はヤバイってことか……。にしてもよ、こいつ、俺のこと軽くディスってたよな。まぁ、今は別にいい。それよりも……)

 巽は勇也の直感力を誰よりも認めていた。

 この世界において、直感力と判断力は大きな武器になる。巽が後輩である勇也をこの世界に引きずり込んだのは、まさに彼が持っていた直感力がどうしても欲しかったからだ。

 その勇也が、この案件から手を引けと進言する。

 多少謎はあるが、それでも単純な行方不明事件だった筈だ。少なくとも、ではないと考えていた。

 しかし……もしかして、あっちの方面なのでは。そんな考えが巽の頭を過る。

 そもそも、勇也にこの案件を任せたのは、勇也ならもしかしたら、突破口を見出だせるかもしれないと思ったからだ。どうやら、期待した通り突破口を見付けたようだ。

「…………分かった。お前はこの案件から手を引け。代わりに、俺が引き継ぐ」

 折角、勇也が見付けた突破口だ。無下には出来ない。どうしても。プライドって奴だ。

「待って下さい!!!!」

 慌てた勇也が必死で巽を止める。

「俺は、この案件から手を引いて下さいって言った筈です!! それは、巽さんもです」

 心配してくれるのは正直嬉しい。たが、プロとして簡単に引けない。自分なら多少なら危険な場所でも平気だ。それがでも。

「だから、俺が代わりにーー」

「分からない人ですね!! 俺は手を引かないとかもしれないって言ってるんですよ!! いや、間違いなくよ!!」

 上司である自分の言葉を遮るように、勇也は声を荒げ怒鳴った。普段から文句は言ってても、怒鳴ることなど一度もなかった勇也に巽は目を見開き驚く。

 だがそれよりも、巽は勇也が放った言葉がどうしても引っ掛かった。

(こいつ、今何て言った……? 聞き間違いじゃねーよな)

 ーー間違いなく

 勇也はそう断言した。それも二度もだ。

だと。勇也、お前は何を知ってる? いや、何を掴んだ?」

 ドスのきいた声で巽は勇也に詰め寄った。中途半端な答えは許さない。

 しかし勇也はしぶとく、なかなか口を割らない。更に強く巽は無言のプレッシャーを与えた。

 巽からのプレッシャーに負けたのか、根負けしたのか、何かを吐き出すように勇也は大きく息を吐き出すと、ようやく重い口を開いた。

「…………分かりました。今から話します。俺が調べたことを」

 そう前置きしてから、勇也は静かに語り始めた。


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