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第一章

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◆ユキノ



私の名前は梓山雪乃、16歳
この間二年生になったばかりだというのに、何の因果か私は乙女ゲームの世界にトリップしてしまったのだった

驚いた。
むしろ驚かない方が無理だ。

見知らぬ場所での生活に始めは勿論不安はあった
それでもそれなりの時を過ごせば慣れてくるもので
後、やっぱりお城だからか凄く快適だっていうのもある。
お風呂には毎日入れるし、トイレだって綺麗だ。
お洋服もすっごく可愛い
ゲームの世界観は背景が中世っぽい雰囲気だったし、実際歩いて見た感じはヨーロッパっぽい感じがした。(私は海外なんて行った事ないけれど)
それでもゲームには詳しく描写されていなかっただけで、人の営みっていうのがちゃんと確立されているって事に少し感動したものだ。
時々、ホームシックになる事もある。
お母さんやお父さん、友達に彼氏
会いたくってももう会えない。
帰る方法は一つだけあるけれど、私は帰ろうとは思わなかった。
向こうの私はあの時に車に轢かれて死んだのだと、潔くこっちで生きると決意した。

そうすると、私はとても忙しい
なにせ第二のヒロインのストーリーは大災害を防ぐ為の冒険有り、戦闘有りの
乙女ゲームとは?って感じの迷走してた感たっぷりのストーリーになっている。
ゲームの舞台であるサズワイト王国が滅亡の危機に陥ったりなんかもするのだ。
それだけは絶対に何がなんでも防がなければいけない
冒険パーティーは一人でも多い方が良い、そう思って攻略キャラ達を探し回って、違和感に気付いた。

居るはずの場所に居ない

例えば画家志望のビリークくんのバイト先、角の靴屋さんとあったはずなのにその靴屋が見つからない
唯一靴の売っているお店は服飾が売られていて靴専門には見えなかったし、ビリークくんは居なかった。
他にもマルクスくんとか、ミザリーくんとか、ギラジュくんとか、
探すのにとても苦労したのだ。
未来視を持つ私、メイン火力のレオ様、回復要員のミルウェッチ様、近接戦闘向けのギラジュくん、罠の設置や弓等オールマイティなビリークくんとマルクスくん
バランスの良いパーティーが出来たと思う
恋愛関係にならない程度に好感度を上げて、この国を皆で守ろう!っと一致団結出来たと
そう、思ったのに

何でか上手くいかない

地下洞窟は確かにあった。
魔石がキラキラと光っていて、画面越しに見るよりも迫力ある綺麗な洞窟
その景色を見た時の皆の反応もゲームと全く同じで、舟に乗った私達を襲ってきた魔物もゲームに出てきた物と同じで
このまま地下洞窟ラスボスを倒して、この国を救えるって、そう思っていたのに
居なかった。

地下水に毒素を撒き散らすラスボスは何処にも居なくて、そんな筈ないって慌てる私に
大丈夫だって、きっと逃げたんだろうって、皆慰めてくれたけれど
それでも私は腑に落ちなくって
不安になった。

本当にゲームなんだよね?
ゲーム通りになっているよね?
だって確かにゲーム通りになっている所だってあるんだし

私がなんとかしないと
私だけが知っているんだ。
この国に起こる災害を知ってるのは私だけなんだ

自分の抱える責任の重さに辛くなる
ローズに相談したくても最近の彼女は付き合いが悪い
学院で偶然を装ってもリオンくんに邪魔されるし


結局、レオ様の婚約者はちゃんと存在していたし、何故か黒髪黒瞳だし、ちゃっかり聖女だなんて持て囃されてるし
私はこんなにこの国の為に頑張って苦労しているのに
国から離れていて今更帰って来ておいて、聖女を騙るなんて、なんて図々しい

私は違う
この国を守る為に、この国の人達を守る為に、必死になってる
沢山頭を下げた。
沢山駆けずり回った。

なのに何で、何であの女が本物で、私が偽物だなんて言われなきゃならないの?
国を放って旅に出ていた女と、国の未来の為に頑張ってる私と、どっちが聖女に相応しいかなんて、比べる必要だってないじゃない

未来視の能力も、本当に開花した。
数秒程度先だったり、二、三日先の出来事がチカチカと脳裏に浮かぶようになった。
そして私はぞっとした。
本当にこのままだと、この国が滅んでしまう
私が、私が何とかしないと
その為には私を偽物だとか言ってる人達の認識を改めないといけない
私一人じゃこの国を守りきるなんて出来やしない、そんな力私には無い

私が何とかしないといけないんだ。



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