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第一章

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水の節の朝月

それは学院にほんの少しの非日常が訪れる時期である


どこぞの異世界においては新年度を表す時期と言えばわかりやすいだろう
雪が溶け、雪崩がおこりやすくなる朝月
暖かくなり、緩やかな天気の続く昼月
気温の高い日が多くなり、雨が降りやすくなる夜月

水の節の後に続くのが花の節であり、私の生まれた季節だ。それに風の節、雪の節と続く
ちなみに街や地方都市等では花の節の朝月と雪の節の朝月頃に大規模であれ小規模であれ、必ず祭りがあるのが恒例となっている
節の変わり目に行う事で一年のメリハリを付ける為だとか、
その季節が何事もなく安全である事を祈願する為だとか、
祭りが始まった切っ掛けについては諸説あるが国民の殆どはそんなものはどうでも良いのだ
祭り事に漬け込んで屋台を出して商売を行う者、折角の行事なのだからと休みを取り家族や友人と過ごす者、観光客集めの為町を上げて派手な祭りを行う者
イベント事に対して積極的な者が多いのはこの国の風土故なのだろうか


そんな事よりも学院だ
学院には入学式だとか卒業式といった式典は無い
無いが、爵位持ちの生徒は十歳になると学院に通う事が義務となっている以上簡単な説明会がこの時期になると行われる。
新入生に学院生活の基本的な事柄を伝えるレクリエーションのようなものにあたるだろうか
学院教師数人だけで行われるそれ
今年の学院入学者(爵位持ちだけを数えるものとする)は全部で十七名、例年と比べれば多い方だろう
そもそも貴族の数はそこまで多くない
このサズワイト王国の歴史を学べばわかる事だが貴族は王族の親戚みたいなもの、少なからず王族の血を受け継いでいる者を貴族とする
いわば血の繋がりをこそ重んじる考えが染み付いているのだ
だからこそガルパン商会のように金銭で貴族位を買い取ったりだの、国を大いに発展させる程の発明をした者に貴族位が与えられるだの
王族の血の繋がりが欠片もないものを見下す時代遅れな貴族というのが後を絶たないのだろう

時代遅れ、そう、今現在進行形で港町の方では産業革命と言わんばかりの勢いがある
それでも先代の王が存命の頃よりかは落ち着いている方だと言う
王都では実感の無い者の方が多いが、貴族がその価値を無くし商人が力を得る時代へと移り変わっていくだろう
私はその時に路頭に迷わないよう出版社経営を万全のものとするだけだ


「ああ、殿下こうして貴方様のお近くで勉学に励む事の出来る光栄に天にも昇るようなお気持ちですわぁ~っ」
「レオクリス王太子殿下、これからの学院生活よろしくお願い致しますぅ」


「あ、ああ・・これからよろしく」

「「よろしくお願いしますぅ~」」


今年、私の婚約者であるレオクリス・サズワイトが入学する事となった。
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