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「ルエはどうだ?」
「変わらない。全く思い出せないみたいだ。」
「医者は?」
「もちろん何人にも診てもらった。ショックで忘れてるたけだろうって。」
「まあ、命があっただけ神に感謝しないとな。濁流に流されて生きてるなんて運が良いなんてもんじゃない。」
リチャードは庭をニーナと一緒に散歩をしているルエを自分の書斎からギルバートと眺めている。
ルエを助け出して二週間経った。しかし未だ記憶は戻らない。
元気で過ごしている様子を間近で見ることが出来てほっとしている反面やはり寂しい。
ルエはリチャードにとても遠慮している。『クロフォード公爵様』と言う呼び方を変えてくれない。恐れ多くて、といって恐縮してしまうのだ。
「こうして側に居てくれるだけで嬉しいんだ。しかし…。」
「何だ?ああ、寂しいのか。別々で寝てるって聞いたぞ。」
リチャードはぐっと言葉を詰まらせた。
ギルバートの言う通りだ。ルエに触れたくて堪らない。しかしルエは近づくとビクッと身体をこわばらせてしまう。
無理じいはしたくない。ルエが心の底から受け入れてくれるまで待つつもりだ。
「まあ、仕方ないだろ。記憶がないなら出会ってまだ二週間と同じだ。焦らずゆっくり、だな。」
「はぁ。全くその通りだよ。」
肝心のルエはニーナと何やら楽しそうに笑っている。ここ数日、笑顔も増えてきた。
「あ、笑ってる。本当に可愛いな…。」
リチャードは窓に顔を押し付けてルエの笑顔を食い入るように見つめている。
早く自分にもあんな風に笑って欲しい。ニーナにまで嫉妬してしまう。
そう独りごちてため息をつく親友にギルバートは苦笑いした。
「ルエ様、もうすぐ旦那様も来ますからね。」
「は、はい。」
ニーナの言葉にルエは身体を固くして緊張する。部屋には紅茶の良い香りが漂っている。それと同時にケーキや菓子の甘い匂いも広がった。
しばらくするとリチャードがやってきて当たり前のようにルエの隣に座る。
「今日はルエの好きなモンブランとシフォンケーキだ。あとオレンジのムースもあるね。」
「はい。」
ニーナが小さく取り分けてくれたケーキを口に運ぶ。
ほどよい甘さが口いっぱいに広がるが緊張して美味しいのか美味しくないのかよく分からない。
「ルエ、美味しい?」
「え?は、はい。」
記憶のないルエはとにかく粗相がないようにするのに精一杯だった。
今はとても優しくしてくれるけど、もし何か気に触るようなことをして出ていくように言われたら路頭に迷ってしまう。自分の実家がどういう家なのかも思い出せない。
こうして毎日のお茶会は只々緊張して終わってしまい、リチャードとルエの溝は埋まることはなかった。
「よう、ルエ!元気か?」
「ギルバート様。こんにちは。」
「まだ記憶が戻らないんだって?」
「はい…。」
ギルバートは項垂れるルエに気にするなと励ましてくれる。
「リチャードのこと、どう思う?」
「え?」
唐突に聞かれてルエは固まった。
どう思うか。
立派で素晴らしい人だと思う。使用人や街の人にも好かれている。もちろんルエにも優しい。
ただ、凄い人過ぎて恐縮してしまう。自分が相応しいとはとても思えない。嫌われないようにするだけで精一杯だ。
「す、素晴らしい方だと思います。」
「それは夫として?」
ルエとリチャードは夫婦らしいことは何もしていない。食事やお茶の時間を一緒に過ごしているだけだ。もちろん寝室も別々だ。
リチャードは何かと気にかけてくれるが、ルエは上手に返せない。とにかく緊張してしまうのだ。
「それは…分かりません。嫌われないようにする事で精一杯で…。」
「嫌う?リチャードがルエを?」
「はい。だから粗相がないように…」
「あははは!それはないだろ。ルエが何をしたってあいつは嫌いにならないよ。というかなれないな。」
「え?」
「だってルエたちは運命の番いってやつだろ?アルファとオメガにあるっていう切れない絆。」
運命の番い…。
何となく聞き覚えがある。ずっと昔、きっと子どもの頃に聞いたのだ。
項垂れるの番い。それはお互いの唯一無二の存在。
「僕とクロフォード公爵様がですか?」
「ああ。きっとそうだ。リチャードがこんなに執着するのは初めて見たよ。ルエがいなければ生きていけないくらいだからな。」
自分とあの公爵様が運命の番い…。
彼が側に来るとドキドキするのは緊張しているだけではないのだろうか…。
ルエはその後も楽しそうにリチャードの様子を話すギルバートをぼんやりと見ていた。
「変わらない。全く思い出せないみたいだ。」
「医者は?」
「もちろん何人にも診てもらった。ショックで忘れてるたけだろうって。」
「まあ、命があっただけ神に感謝しないとな。濁流に流されて生きてるなんて運が良いなんてもんじゃない。」
リチャードは庭をニーナと一緒に散歩をしているルエを自分の書斎からギルバートと眺めている。
ルエを助け出して二週間経った。しかし未だ記憶は戻らない。
元気で過ごしている様子を間近で見ることが出来てほっとしている反面やはり寂しい。
ルエはリチャードにとても遠慮している。『クロフォード公爵様』と言う呼び方を変えてくれない。恐れ多くて、といって恐縮してしまうのだ。
「こうして側に居てくれるだけで嬉しいんだ。しかし…。」
「何だ?ああ、寂しいのか。別々で寝てるって聞いたぞ。」
リチャードはぐっと言葉を詰まらせた。
ギルバートの言う通りだ。ルエに触れたくて堪らない。しかしルエは近づくとビクッと身体をこわばらせてしまう。
無理じいはしたくない。ルエが心の底から受け入れてくれるまで待つつもりだ。
「まあ、仕方ないだろ。記憶がないなら出会ってまだ二週間と同じだ。焦らずゆっくり、だな。」
「はぁ。全くその通りだよ。」
肝心のルエはニーナと何やら楽しそうに笑っている。ここ数日、笑顔も増えてきた。
「あ、笑ってる。本当に可愛いな…。」
リチャードは窓に顔を押し付けてルエの笑顔を食い入るように見つめている。
早く自分にもあんな風に笑って欲しい。ニーナにまで嫉妬してしまう。
そう独りごちてため息をつく親友にギルバートは苦笑いした。
「ルエ様、もうすぐ旦那様も来ますからね。」
「は、はい。」
ニーナの言葉にルエは身体を固くして緊張する。部屋には紅茶の良い香りが漂っている。それと同時にケーキや菓子の甘い匂いも広がった。
しばらくするとリチャードがやってきて当たり前のようにルエの隣に座る。
「今日はルエの好きなモンブランとシフォンケーキだ。あとオレンジのムースもあるね。」
「はい。」
ニーナが小さく取り分けてくれたケーキを口に運ぶ。
ほどよい甘さが口いっぱいに広がるが緊張して美味しいのか美味しくないのかよく分からない。
「ルエ、美味しい?」
「え?は、はい。」
記憶のないルエはとにかく粗相がないようにするのに精一杯だった。
今はとても優しくしてくれるけど、もし何か気に触るようなことをして出ていくように言われたら路頭に迷ってしまう。自分の実家がどういう家なのかも思い出せない。
こうして毎日のお茶会は只々緊張して終わってしまい、リチャードとルエの溝は埋まることはなかった。
「よう、ルエ!元気か?」
「ギルバート様。こんにちは。」
「まだ記憶が戻らないんだって?」
「はい…。」
ギルバートは項垂れるルエに気にするなと励ましてくれる。
「リチャードのこと、どう思う?」
「え?」
唐突に聞かれてルエは固まった。
どう思うか。
立派で素晴らしい人だと思う。使用人や街の人にも好かれている。もちろんルエにも優しい。
ただ、凄い人過ぎて恐縮してしまう。自分が相応しいとはとても思えない。嫌われないようにするだけで精一杯だ。
「す、素晴らしい方だと思います。」
「それは夫として?」
ルエとリチャードは夫婦らしいことは何もしていない。食事やお茶の時間を一緒に過ごしているだけだ。もちろん寝室も別々だ。
リチャードは何かと気にかけてくれるが、ルエは上手に返せない。とにかく緊張してしまうのだ。
「それは…分かりません。嫌われないようにする事で精一杯で…。」
「嫌う?リチャードがルエを?」
「はい。だから粗相がないように…」
「あははは!それはないだろ。ルエが何をしたってあいつは嫌いにならないよ。というかなれないな。」
「え?」
「だってルエたちは運命の番いってやつだろ?アルファとオメガにあるっていう切れない絆。」
運命の番い…。
何となく聞き覚えがある。ずっと昔、きっと子どもの頃に聞いたのだ。
項垂れるの番い。それはお互いの唯一無二の存在。
「僕とクロフォード公爵様がですか?」
「ああ。きっとそうだ。リチャードがこんなに執着するのは初めて見たよ。ルエがいなければ生きていけないくらいだからな。」
自分とあの公爵様が運命の番い…。
彼が側に来るとドキドキするのは緊張しているだけではないのだろうか…。
ルエはその後も楽しそうにリチャードの様子を話すギルバートをぼんやりと見ていた。
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