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「ほら、ルエ様。今日は素敵なコートですよ。まあ!テンの毛皮ですね、本当に素敵…。」
プレゼントの箱を開けたニーナがうっとりしながらコートを撫でた。一目で上質の物と分かる。
このプレゼントはリチャードからの物だ。こうやって毎日のようにルエに贈り物が届く。
「すごい…。でも高そう…。」
「ええ、そりゃあもう…。でも暖かいしルエ様がお風邪でも引いたら大変ですから。」
満面の笑顔のニーナがルエにそのままコートを着せてくれる。小さいルエが着ると毛皮に埋もれているようだ。でもものすごく暖かい。
ここの地域の冬はかなり厳しいと聞く。最近は朝夕はめっきり冷え込んで、羽織ものがなければ外に出られない。
「今日の散歩はこれを着て行きましょう。」
「え?は、はい。」
似合っていないような気もするがせっかくのプレゼントだ。ニーナの言う通り日課の散歩に来て行こうと思った。
「いつももらってばっかりで、僕も何か返したいんだけど…。」
リチャードからのプレゼントはいつも高価な物ばかりだ。同じような物が返せるとはとても思えないが、もらってばかりで気が引ける。
きっと何かプレゼントをした方が良いはずなのだが…。
「えぇ?ルエ様が?そりゃ旦那様は喜ばれると思いますけど…。でもそんな心配しなくても大丈夫ですよ。旦那様はルエ様が居てくれるだけで良いんですから。」
「でも…。」
「ルエ様にプレゼントするのは旦那様の趣味みたいなものですからありがたくもらっておけば良いんですよ。さあ、お散歩に行きましょう。」
ニーナあははと豪快に笑って、てきぱきとルエの支度を始めた。もちろん最後に新しいコートも着せてくれた。
「動物たちも冬眠の準備をし始めましたね。」
「うん。あ、でもあそこに何か居るよ。」
すっかり葉の落ちた木の枝に何かもぞもぞ動いている。
ルエとニーナはその木に近寄ってみた。
「リス、ですかねぇ。」
「うーん、ちょうど見えないけど…。でも…あ、ほら、何か動いた!」
「あら、本当。あ、やっぱりリスですよ。まだ子どもじゃないかしら。」
「小さいね。お母さんはどうしたんだろう。」
目を凝らして見るが一匹しか居ないようだ。
「逸れたのかしら。もう冬眠に入ってる時期なのに。」
「かわいそう…。」
「そうですね。そうだ、庭師のアークに聞いてみましょう!さっき軒下に居ましたね。」
ニーナは庭師のアークを呼びに行ってしまった。庭を仕切っている彼になら何か分かるかもしれない。
ルエは枝を見上げてじっとしていると、何故か胸がざわざわした。
何だろう…。小さなリスが心配なのだろうか。
ふとその木を見ると枝が分かれており登れそうだった。
「僕にも登れそうだ。」
懐かしいような感覚がした。昔、木登りをしたことがあるのかもしれない。
木を触って見るとやはり懐かしいような、何か思い出せそうな感覚がする。その感覚に縋るようにルエは木に手をかけた。
手を伸ばし、足をうろや枝に引っ掛けながら登っていく。身体が覚えているような感覚だった。
かなり登ったところで周りを見渡す。リスはまだ少し上だ。しかしそこでルエはしまった、と顔を青くした。降りる方法を考えていなかったのだ。
二階の窓枠は届きそうで届かない。ニーナが来るまで大人しく待っていた方が良さそうだ。
葉の落ちた枝は心許ないような気がする。
もし折れたら…。そう考えると急に怖くなった。
「ルエ!!」
急にルエを呼ぶ声にビクッとした。窓からリチャードがこちらを見ている。ルエの方に手を伸ばし、その顔は青褪めていた。
「あ、クロフォード公爵様…。」
こんなことをして怒られるかもしれない。ルエはさらに怖くなった。
「ルエ、動くな!すぐ行くから。動くんじゃないぞ!」
ルエの方に手を伸ばしたリチャードに見覚えがあった。
「あ…。」
思い出せそうだ。しかし頭がズキンズキンと痛み出した。
「あ、痛い、」
手を伸ばしたリチャード。前にも見たことがあった。
そうだ。前にもこうやって木に登って…。それから…。
頭が痛い。割れるようだ。ルエは片手です頭を押さえた。頭の痛みが一番強くなったとき、記憶が勢いよく流れ込んできた。
ここに来たばかりの寂しかった記憶、街で変装したリチャードと過ごした記憶、発情期をリチャードと一緒に過ごした記憶、怖くなって逃げ出したルエを探しに来てくれた記憶…。それらが一気に頭の中に流れ込んできて、その重さに身体がぐらついた。
「あ、落ちる…。」
前もこうやって木から落ちてしまったのだ…。
ルエはぎゅっと目を瞑り、来るであろう衝撃に備えた。
ドンッ!ドサッ!!
「うっ、痛…く、ない?え?」
落ちたはずなのに衝撃は柔らかだ。
驚いて身体をパッと起こすとリチャードがルエを受け止めて倒れていた。
「あっ!リ、リチャード様っ!どうしよう、リチャード様!」
リチャードから飛び降りて身体を揺する。ルエを庇って下敷きになっていた。
「リチャード様っ!」
声をかけるが反応がない。
涙が出てポロポロ溢れてくる。
どうしよう…。
「ん、うっ!痛っ!あ、ルエ…?」
リチャードが身じろいてゆっくり目を開けた。
「リチャード様っ、よ、良かった…」
ほっとしてルエはリチャードに抱きついた。
「え?ルエ?今私の名前…」
「う、うぅ、うわーん。リチャード様っ!」
リチャードがルエに話しかけるがわんわん泣いて聞こえていないようだ。
「ルエ様!旦那様も、一体どうしたんですか?」
ルエの泣き声を聞きつけた使用人たちが集まってくる。
ノーマンも急いで駆けつけてきたのか息が乱れていた。
「ノーマン、私は大丈夫だ。とにかくルエを医者に…。ほら、ルエ泣かないで。医者に見てもらおう。」
「リチャード様っ、リチャード様っ!うわーんっ!」
リチャードが宥めるが泣き止まないのでそのまま抱き上げられて屋敷に連れて行かれた。
プレゼントの箱を開けたニーナがうっとりしながらコートを撫でた。一目で上質の物と分かる。
このプレゼントはリチャードからの物だ。こうやって毎日のようにルエに贈り物が届く。
「すごい…。でも高そう…。」
「ええ、そりゃあもう…。でも暖かいしルエ様がお風邪でも引いたら大変ですから。」
満面の笑顔のニーナがルエにそのままコートを着せてくれる。小さいルエが着ると毛皮に埋もれているようだ。でもものすごく暖かい。
ここの地域の冬はかなり厳しいと聞く。最近は朝夕はめっきり冷え込んで、羽織ものがなければ外に出られない。
「今日の散歩はこれを着て行きましょう。」
「え?は、はい。」
似合っていないような気もするがせっかくのプレゼントだ。ニーナの言う通り日課の散歩に来て行こうと思った。
「いつももらってばっかりで、僕も何か返したいんだけど…。」
リチャードからのプレゼントはいつも高価な物ばかりだ。同じような物が返せるとはとても思えないが、もらってばかりで気が引ける。
きっと何かプレゼントをした方が良いはずなのだが…。
「えぇ?ルエ様が?そりゃ旦那様は喜ばれると思いますけど…。でもそんな心配しなくても大丈夫ですよ。旦那様はルエ様が居てくれるだけで良いんですから。」
「でも…。」
「ルエ様にプレゼントするのは旦那様の趣味みたいなものですからありがたくもらっておけば良いんですよ。さあ、お散歩に行きましょう。」
ニーナあははと豪快に笑って、てきぱきとルエの支度を始めた。もちろん最後に新しいコートも着せてくれた。
「動物たちも冬眠の準備をし始めましたね。」
「うん。あ、でもあそこに何か居るよ。」
すっかり葉の落ちた木の枝に何かもぞもぞ動いている。
ルエとニーナはその木に近寄ってみた。
「リス、ですかねぇ。」
「うーん、ちょうど見えないけど…。でも…あ、ほら、何か動いた!」
「あら、本当。あ、やっぱりリスですよ。まだ子どもじゃないかしら。」
「小さいね。お母さんはどうしたんだろう。」
目を凝らして見るが一匹しか居ないようだ。
「逸れたのかしら。もう冬眠に入ってる時期なのに。」
「かわいそう…。」
「そうですね。そうだ、庭師のアークに聞いてみましょう!さっき軒下に居ましたね。」
ニーナは庭師のアークを呼びに行ってしまった。庭を仕切っている彼になら何か分かるかもしれない。
ルエは枝を見上げてじっとしていると、何故か胸がざわざわした。
何だろう…。小さなリスが心配なのだろうか。
ふとその木を見ると枝が分かれており登れそうだった。
「僕にも登れそうだ。」
懐かしいような感覚がした。昔、木登りをしたことがあるのかもしれない。
木を触って見るとやはり懐かしいような、何か思い出せそうな感覚がする。その感覚に縋るようにルエは木に手をかけた。
手を伸ばし、足をうろや枝に引っ掛けながら登っていく。身体が覚えているような感覚だった。
かなり登ったところで周りを見渡す。リスはまだ少し上だ。しかしそこでルエはしまった、と顔を青くした。降りる方法を考えていなかったのだ。
二階の窓枠は届きそうで届かない。ニーナが来るまで大人しく待っていた方が良さそうだ。
葉の落ちた枝は心許ないような気がする。
もし折れたら…。そう考えると急に怖くなった。
「ルエ!!」
急にルエを呼ぶ声にビクッとした。窓からリチャードがこちらを見ている。ルエの方に手を伸ばし、その顔は青褪めていた。
「あ、クロフォード公爵様…。」
こんなことをして怒られるかもしれない。ルエはさらに怖くなった。
「ルエ、動くな!すぐ行くから。動くんじゃないぞ!」
ルエの方に手を伸ばしたリチャードに見覚えがあった。
「あ…。」
思い出せそうだ。しかし頭がズキンズキンと痛み出した。
「あ、痛い、」
手を伸ばしたリチャード。前にも見たことがあった。
そうだ。前にもこうやって木に登って…。それから…。
頭が痛い。割れるようだ。ルエは片手です頭を押さえた。頭の痛みが一番強くなったとき、記憶が勢いよく流れ込んできた。
ここに来たばかりの寂しかった記憶、街で変装したリチャードと過ごした記憶、発情期をリチャードと一緒に過ごした記憶、怖くなって逃げ出したルエを探しに来てくれた記憶…。それらが一気に頭の中に流れ込んできて、その重さに身体がぐらついた。
「あ、落ちる…。」
前もこうやって木から落ちてしまったのだ…。
ルエはぎゅっと目を瞑り、来るであろう衝撃に備えた。
ドンッ!ドサッ!!
「うっ、痛…く、ない?え?」
落ちたはずなのに衝撃は柔らかだ。
驚いて身体をパッと起こすとリチャードがルエを受け止めて倒れていた。
「あっ!リ、リチャード様っ!どうしよう、リチャード様!」
リチャードから飛び降りて身体を揺する。ルエを庇って下敷きになっていた。
「リチャード様っ!」
声をかけるが反応がない。
涙が出てポロポロ溢れてくる。
どうしよう…。
「ん、うっ!痛っ!あ、ルエ…?」
リチャードが身じろいてゆっくり目を開けた。
「リチャード様っ、よ、良かった…」
ほっとしてルエはリチャードに抱きついた。
「え?ルエ?今私の名前…」
「う、うぅ、うわーん。リチャード様っ!」
リチャードがルエに話しかけるがわんわん泣いて聞こえていないようだ。
「ルエ様!旦那様も、一体どうしたんですか?」
ルエの泣き声を聞きつけた使用人たちが集まってくる。
ノーマンも急いで駆けつけてきたのか息が乱れていた。
「ノーマン、私は大丈夫だ。とにかくルエを医者に…。ほら、ルエ泣かないで。医者に見てもらおう。」
「リチャード様っ、リチャード様っ!うわーんっ!」
リチャードが宥めるが泣き止まないのでそのまま抱き上げられて屋敷に連れて行かれた。
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