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第1話 推し。
しおりを挟む-2021年4月1日-
この日、ある一つのニュースが世間を騒がせることになった。
僕はそのニュースを今スマホで見ているのだが、開いてしまった口が閉じる事はない。
"大人気音楽ユニット『月夜に唄う』のボーカル『シュリ』の素顔"
画面には美しく微笑む女性。
かつて、ボカロ界隈にてその名を知らない者は居ない。とまで言われていた小町P。
彼女は四年前、『絶望の中に』という曲を最後に音楽業界から姿を消した。
僕は小町Pの創る歌が好きだった。
突然のことで悲しみに明け暮れていた僕は一年が再び彼女の創る歌に魅了される。
彼女はボーカルのシュリを見つけ出し、磨き、育て、『月夜に唄う』として帰ってきた。
デビュー同時にYouTubeに上げたMVは1週間で2000万回再生。今やチャンネル登録者数330万人。
音楽配信サービスのランキングでは常に上位に月夜に唄うの名前があり。
TikTokを見れば、彼女の歌を用いた動画が上位を占める。
正真正銘のスターだ。
そして、活動を始めて三年。ずっとひた隠しにされていたシュリの素顔が、昨日の歌番組で初めて披露された。
勿論その歌番組もリアルタイムで見ていた。
それなのに、理解が追いつかない僕の口は未だ動かない。
なぜなら、僕はこの女性を知っている。
シュリを――いや、シュリの素顔を――。
君島 朱莉(きみしま あかり)高校の三年間を同じ教室で過ごしたクラスメイト。
文武両道の彼女はサラッと光沢が眩しいロングの黒髪。彫刻や絵画。芸術品のように整った美しい顔。男なら誰もが夢見る、巨乳にスラッと長い足が魅せるスタイルに、人懐っこい性格。
学校で1番の人気株であり、その名が他校に知れ渡る程の女の子だった。
そして、その女の子が今僕のスマホ画面を独占している。
君島朱莉=シュリ。
僕は気付かなかった。
三年もの間同じ教室に居たのに。
三年もの間シュリを推していたのに。
シュリは僕の生きる希望だ。
僕は高校に入ってすぐ不登校になった。
そんな僕を、全てに絶望していた僕を暗闇から引き摺り出してくれたのはシュリだ。
いや、違う。
彼女の歌が僕を救ってくれた。
改めてスマホを確認する。
君島珠莉と目が合う。終わり。
ようやく開いていた口が閉じ、喉の渇きを訴えてくる。
『君島朱莉がシュリだからってなんだ。僕は彼女と話したことすらない。モブな自分...くたばりやがれーーーーくそーーーーーーー』
発狂した。
三年間も推しと同じ空間に居たのに話さなかった。いや、話せなかった。
そんな不甲斐ない自分に発狂する。
野暮ったい黒髪に、黒縁眼鏡。
中肉中背の根暗が服を着て歩いてる。そんな姿を目撃したら僕だろう。
そう、僕はモブキャラだ。
僕の愛読書たち...ラノベに出てくる主人公たちと異なり、高校生活で女の子と仲良くなることすら出来なかった生粋のモブだ。
『僕はーーーシュリと同じ空気をーー吸っていたーーーーーーーーーーーーーー』
自室で叫ぶキモいオタク。
本当は小躍りしたいけれど、なんとか我慢している。
僕の人生で確実に1番。これから先こんな幸せな出来事は起こらない。
そう、信じて疑わなかった。
この時は――
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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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星、ハート、フォローなど、頂けると幸いです。
次回 カップル枠。 乞うご期待。
応援ありがとうございます!
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