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第二百四十四話
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階段を下りた先にあったのは、重厚そうな金属の扉。
これはもしかして鍵が必要なのではないか。
そう思ったのもつかの間、カナリアが指先から謎のビームを出し、私が何かを言う間もなく鍵を焼き切ってしまった。
「どうせ鍵持ってないだろ」
とは彼女の談。
地下室の存在を誰も知らなかったのだから、鍵も持っていないのは当然と言うべきなのだが、それにしたって自由にもほどがある。
『うっ……』
誰かがくしゃみをした。
扉を開けた瞬間、一層のこと強くなる埃と土の臭い。
長いこと溜まり続けた湿気がカビを繁殖させ、これは中々強烈なものだ。
このままあまり長時間いたら病気になってしまうかもしれない。
横にあった換気扇のスイッチを押し、カナリアの魔法で外の空気と完全に入れ替えたところで、漸く呼吸ができるようになった。
「六年間ほとんど人の手が入っていなかったから、どうしても湿気が籠ってしまってるみたいね……」
ママが階段の上から差し込む僅かな光を頼りに壁を伝い、ぱちぱちと照明のスイッチを押し込んでいく。
瞬いては消える蛍光灯たち。
しかしすべてが全て駄目になっている、というわけではないらしく、いくつかは煌々とした灯りをともしてくれた。
「おお……本がいっぱい」
「湿気の溜まりやすい地下室に書斎を作るとは、やはり私には男のロマンとやらが理解できん。本が傷んでしまうのにな」
「先生はそういう人ですから……」
地下室というからには相当狭い場所だと思い込んでいたが、一面の本、本、本。
これはもはや小さな図書館とでもいうべきだろう。
ちょっと本の中身を覗いてみたのだが、その大半が日本語ではなくよく分からない外国語ばかり。
しかも英語だけじゃない、確認できるだけでも四つ、五つと見れば見る程外国語の種類が増えていくほどだ。
うーん、よく分かんないけど凄い。
私なんて英語すら相当怪しいんだけど。
そして土を思わせるカビの臭いはするものの、思ったより本はカビに覆われていない。
数冊に一冊ほど、端っこが変色している本がある程度だろう。
ひどい臭いは長年空気の行き来がなかったせいが主な原因のようだ。
「ダンジョン関連はまだ歴史が浅いから細別されてないの。幅広く扱う必要があるからどうしても資料が多くなっちゃうのよね、研究室にはこの十倍以上本があるわ」
「十倍!?」
想像も出来ないほどの文字量に立ち眩みすらしてしまう。
勿論すべての内容を覚えているわけではないのだろうが、それでもこれだけの言語を理解し、本を読み解いて研究をするというのは私には理解が及ばない。
しかし剣崎さんも、そして何故かこの部屋を知っていたカナリアも、そしてママですら然したる驚きもなく受け止めているということは、割と普通な事なのだろう。
研究者ってすごいな。
「除湿器があったわ、まだちゃんと稼働するみたい」
ウィーンと激しく鳴り響く機械音と共に、どこかへ姿を隠していたママが戻って来た。
探索、といってもこの地下室に存在するものは本棚と本ばかり。
必然的に沈黙が厳しくなり、研究者としてのパパを知っていたであろう剣崎さんへ私の質問が多くなる。
「パパってどんな研究してたの?」
「先生は特に魔道具についての研究に傾倒していたわ。魔道具を作った異世界が存在するとして、道具の構造などから異世界に存在する知的生命体の身体構造や環境、行動などを予測していたの。」
「そうなんだ……」
異世界人すぐそこにおる。
「少なくとも現在出回っている魔道具から、異世界の知的生命体は私たちと似た手足を持ち、二足で立ち上がり、衣服などを着こなす……所謂異世界人ともいえる生活様式だったと予想していたわね。これは異世界間における収斂進化とも言えるわ」
「へえ」
多分大体合っとる。
そこで本開いてはうんうんと頷いているエルフをチラ見しながら、語りに熱の乗り出した剣崎さんの解説に耳を傾ける。
「ただし、個々の力に然したる差がない我々と比べて、魔法の存在が大きく社会に関わっているのも間違いない。個人に依存する社会ならば、普遍的な技術の発展も遅いんじゃないかしら。現代では廃れたものの、かの世界では未だに王国制が敷かれているかもしれないわね」
「そうなの?」
「うむ、大体合っている」
こそこそとカナリアに聞いてみると、こくりと頷く彼女。
なんと異世界人のお墨付きだ。
剣崎さんの語るパパの研究は難しい所が多いが、どうやら相当鋭いところまで当たっているらしい。
「しかし力のない人間がただ流されるままに生きているわけではない。大人数で協力することで、天才すらも超える技術の研究は常に行われてきた。そうだな、確かに絶対的な存在がいないわけではないが、決して支配されるだけでもなかったぞ」
「あの……さっきから気になっていたんだけど、この子は?」
どうするか。
私の視線にカナリアは頷き
「大丈夫だ、剣崎は信用できる、私はそれを知っている」
と力強い返答。
そして相変わらず薄いワンピースをばさりと翻すと、偉そうに腕を組み、キリリとした顔つきで宣言した。
「我が名はカナリア! 異世界より来たりし天才学者だ!」
「あっ……そうなんだぁ……」
「うむ!」
「日本語上手ね、どこの国から来たの?」
「アストロリア王国だ!」
「良く知ってるわね、でもそれは異世界にある国の名前でしょ? フォリアちゃんの親戚だとしたら、やっぱりアリアさんと同じイタリアかしら?」
「だからアストロリア王国だと言ってるだろ!」
さくっと宣言を流されてしまい、だんだんと地団駄を踏むカナリア。
まあそうホイホイ目の前にいる人間が異世界人だなんて信じるわけないよね。
私だって色々な事情が重なった上で彼女と出会ってなければ、きっとつまらないジョークだと思って流していただろう。
それにあまりカナリアが異世界人であると伝えるのも良いことではないだろう。
勿論剣崎さんを疑っているわけではない、カナリア本人が構わないと言っているにしても、一体今後何が起こるかなんて誰にも分からないのだから。
リスクは減らしておくに限る。
というわけで、剣崎さんにカナリアは私の親戚だという設定を伝え、やはりとしたり顔で彼女は頷いた。
これはもしかして鍵が必要なのではないか。
そう思ったのもつかの間、カナリアが指先から謎のビームを出し、私が何かを言う間もなく鍵を焼き切ってしまった。
「どうせ鍵持ってないだろ」
とは彼女の談。
地下室の存在を誰も知らなかったのだから、鍵も持っていないのは当然と言うべきなのだが、それにしたって自由にもほどがある。
『うっ……』
誰かがくしゃみをした。
扉を開けた瞬間、一層のこと強くなる埃と土の臭い。
長いこと溜まり続けた湿気がカビを繁殖させ、これは中々強烈なものだ。
このままあまり長時間いたら病気になってしまうかもしれない。
横にあった換気扇のスイッチを押し、カナリアの魔法で外の空気と完全に入れ替えたところで、漸く呼吸ができるようになった。
「六年間ほとんど人の手が入っていなかったから、どうしても湿気が籠ってしまってるみたいね……」
ママが階段の上から差し込む僅かな光を頼りに壁を伝い、ぱちぱちと照明のスイッチを押し込んでいく。
瞬いては消える蛍光灯たち。
しかしすべてが全て駄目になっている、というわけではないらしく、いくつかは煌々とした灯りをともしてくれた。
「おお……本がいっぱい」
「湿気の溜まりやすい地下室に書斎を作るとは、やはり私には男のロマンとやらが理解できん。本が傷んでしまうのにな」
「先生はそういう人ですから……」
地下室というからには相当狭い場所だと思い込んでいたが、一面の本、本、本。
これはもはや小さな図書館とでもいうべきだろう。
ちょっと本の中身を覗いてみたのだが、その大半が日本語ではなくよく分からない外国語ばかり。
しかも英語だけじゃない、確認できるだけでも四つ、五つと見れば見る程外国語の種類が増えていくほどだ。
うーん、よく分かんないけど凄い。
私なんて英語すら相当怪しいんだけど。
そして土を思わせるカビの臭いはするものの、思ったより本はカビに覆われていない。
数冊に一冊ほど、端っこが変色している本がある程度だろう。
ひどい臭いは長年空気の行き来がなかったせいが主な原因のようだ。
「ダンジョン関連はまだ歴史が浅いから細別されてないの。幅広く扱う必要があるからどうしても資料が多くなっちゃうのよね、研究室にはこの十倍以上本があるわ」
「十倍!?」
想像も出来ないほどの文字量に立ち眩みすらしてしまう。
勿論すべての内容を覚えているわけではないのだろうが、それでもこれだけの言語を理解し、本を読み解いて研究をするというのは私には理解が及ばない。
しかし剣崎さんも、そして何故かこの部屋を知っていたカナリアも、そしてママですら然したる驚きもなく受け止めているということは、割と普通な事なのだろう。
研究者ってすごいな。
「除湿器があったわ、まだちゃんと稼働するみたい」
ウィーンと激しく鳴り響く機械音と共に、どこかへ姿を隠していたママが戻って来た。
探索、といってもこの地下室に存在するものは本棚と本ばかり。
必然的に沈黙が厳しくなり、研究者としてのパパを知っていたであろう剣崎さんへ私の質問が多くなる。
「パパってどんな研究してたの?」
「先生は特に魔道具についての研究に傾倒していたわ。魔道具を作った異世界が存在するとして、道具の構造などから異世界に存在する知的生命体の身体構造や環境、行動などを予測していたの。」
「そうなんだ……」
異世界人すぐそこにおる。
「少なくとも現在出回っている魔道具から、異世界の知的生命体は私たちと似た手足を持ち、二足で立ち上がり、衣服などを着こなす……所謂異世界人ともいえる生活様式だったと予想していたわね。これは異世界間における収斂進化とも言えるわ」
「へえ」
多分大体合っとる。
そこで本開いてはうんうんと頷いているエルフをチラ見しながら、語りに熱の乗り出した剣崎さんの解説に耳を傾ける。
「ただし、個々の力に然したる差がない我々と比べて、魔法の存在が大きく社会に関わっているのも間違いない。個人に依存する社会ならば、普遍的な技術の発展も遅いんじゃないかしら。現代では廃れたものの、かの世界では未だに王国制が敷かれているかもしれないわね」
「そうなの?」
「うむ、大体合っている」
こそこそとカナリアに聞いてみると、こくりと頷く彼女。
なんと異世界人のお墨付きだ。
剣崎さんの語るパパの研究は難しい所が多いが、どうやら相当鋭いところまで当たっているらしい。
「しかし力のない人間がただ流されるままに生きているわけではない。大人数で協力することで、天才すらも超える技術の研究は常に行われてきた。そうだな、確かに絶対的な存在がいないわけではないが、決して支配されるだけでもなかったぞ」
「あの……さっきから気になっていたんだけど、この子は?」
どうするか。
私の視線にカナリアは頷き
「大丈夫だ、剣崎は信用できる、私はそれを知っている」
と力強い返答。
そして相変わらず薄いワンピースをばさりと翻すと、偉そうに腕を組み、キリリとした顔つきで宣言した。
「我が名はカナリア! 異世界より来たりし天才学者だ!」
「あっ……そうなんだぁ……」
「うむ!」
「日本語上手ね、どこの国から来たの?」
「アストロリア王国だ!」
「良く知ってるわね、でもそれは異世界にある国の名前でしょ? フォリアちゃんの親戚だとしたら、やっぱりアリアさんと同じイタリアかしら?」
「だからアストロリア王国だと言ってるだろ!」
さくっと宣言を流されてしまい、だんだんと地団駄を踏むカナリア。
まあそうホイホイ目の前にいる人間が異世界人だなんて信じるわけないよね。
私だって色々な事情が重なった上で彼女と出会ってなければ、きっとつまらないジョークだと思って流していただろう。
それにあまりカナリアが異世界人であると伝えるのも良いことではないだろう。
勿論剣崎さんを疑っているわけではない、カナリア本人が構わないと言っているにしても、一体今後何が起こるかなんて誰にも分からないのだから。
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