『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
177 / 257

第百七十七話

 剛力は自他共に認める巨体の持ち主だ。
 その身長およそ二メートル。加えて鋼のような筋肉を全身に纏う彼の容姿は端的に言って恐ろしく、小さな子供は鬼が来たと泣くほど。

 筋骨隆々、一目見たら二度と忘れることのないであろう剛力の特徴的な容姿は、はっきり言って何かを探りまわるのには全くといっていいほど適性がない。

 しかし長年の戦闘経験から培われた特有の勘やスキルは、身体の差以上になかなか得難いものがある。
 そして基本的に大雑把な性格をしているものの時として妙な細かさを見せる彼は、案外探偵の真似事をするのに向いていた。

「妙だな……今日はもう帰るはずだが……」

 ゆるりとした動きで部屋から離れる男。
 彼が扉を閉めたことを確認し、剛力は音もなく床へと降り立つ。

 一般的に尾行を行う場合、二人から三人によるチームで行動をすることが多い。
 人数が増えれば連絡等の手間が多くなるのは勿論、尾行を一人で行う場合、尾行対象へ追われていることを感づかれてしまう可能性がある為だ。
 しかしながら姿そのものを消してしまえるような人物がいるのなら、体力の問題等あるとはいえ、圧倒的に効率的なのも真であった。

 天井の一角に腕力と脚力で張り付き、スキルで姿や音を隠してダカールの様子をうかがっていた剛力。

 一か月の調査からおおよそのルーティンは割り出されている。
 時として要人との会談などからずれ・・が生まれることもあったが、派手な招宴へ好んで赴くわけでもなく、淡々と日々の職務をこなしては、定時に帰宅する姿へ疑いを掛けるべき点はない。

 強いて言えば普段貼り付けている胡散臭い笑顔を、人がいない間でも崩すことがなかったのは驚いた。
 もはやあれが彼の『無表情』となっているのかもしれない。

 だが、今日の行動は、剛力の知る普段のそれから逸脱していた。

 時針は既に七を過ぎ八へ差し掛かっている。
 夜遅くの会談かと思いきや、その割には秘書の姿が見当たらない。ダカールの服装もタイを解いたラフなもので、執務ならともかく、要人と会うためにはあまりに不適切であった。

「鞄は……持ち出してねえな」

 ひょいと机の下を覗き込んだ剛力、しかし不可解な状況に眉を寄せた。

 帰宅かと思ったがどうやらそういうわけでもなく、しかし書類は全て几帳面にファイルへ閉じて仕舞われている。
 ダカールがファイルを仕舞うのは帰宅時のみ、噛み合わぬ行動はいよいよもって怪しい。
 しかしおおよその動きこそ把握したとはいえ、所詮は一か月程度の短期間、決して全てを理解したとは言い難い。

 まあ、付いていくしかねえよな。

 剛力は扉へ向かう……ことはなく、踵を鳴らし・・・・・・壁をスキルですり抜け、先に部屋を出たダカールの背を追った。



 ゆるゆると彼が歩いて行った先は、協会本部から随分離れた海辺であった。



「やあクラリス、二か月ぶりだね」
「□□□□□□□□」
「おっと、長い間こっちにいたせいでつい忘れてしまうんだ」

 奇妙な光景であった。
 何もない所から不気味な光が溢れ、ふと気付いたときには妙齢の女性が立っていた。

 この世界において、少なくとも剛力の知る限りでは、ダンジョンの扉を除いてよくある『テレポート魔法』の類は確認されていない。
 ユニークスキルの中には存在するのかもしれないが、少なくとも、複数の人間が扱えたという報告を見た記憶はなかった。

 チョコレートのように深いブラウンの肌と、対照的なまでに色のない白の髪、羽織るローブは瑠璃を思わせる濃紺。
 ともすれば何かの仮装のようにも思える出で立ちをした女性だが、しかし服に着られることもなく悠然としている。

 微かに燐光を残した地面。
 複雑な文様によって彩られるそれから彼女が姿を現した以上、どうやらあれは転移することの出来る魔法陣らしい。

 だが女性の話す言葉は剛力に聞き覚えのないものであり、何を言っているのかさっぱり分からない。

 そういえば昔に覚えた『翻訳』があったな……

 大まかな意味を理解することが出来るスキルなのだが、しかし話すことはできない。
 海外への出張時に使えるかと思ったが、結局会話の練習は必須であり、習得するために多少役に立ったものの長いことお蔵入りしていたスキル。
 まさか今になって使うことになるとは。

 壁抜けといいもう使わないと思っていたスキルが、偵察を始めてから意外なところで活躍する。

「俺もまだまだ学ぶべきことがあるのかもしれんなぁ」

 支部長の座についてから久しく感じていなかった感覚にひとりごちる。
 常に自分を律しているつもりであったが、それでも慢心というものがあったのかもしれない。

「……はい、クレスト・・・・さま」
「ああ、そんなに拗ねないでくれ。君の拙い言葉で頑張って話す可愛い姿が見たかっただけなんだよ!」
「そ、そんな……恥ずかしいです」

 一体俺は何を見せつけられているんだ……

 胸元の小型カメラを起動し動画と音声を記録しながら、剛力は壁の影でこの先どうするか逡巡した。

 突如として普段と異なる行動を始めたダカールであったが、この奇妙な会話から察するに、彼女とは随分気心の知れた仲らしい。
 密会とはいえ仲睦まじい男女であり、流石にそこまで監視するのは気が引ける。

 あくまで剣崎がダカールに掛けたのはあまりに根拠の薄い疑惑であり、私的な情事まで観察する必要はない。

 しかしどこか無感情であったダカールが、恋人らしき人物とはいえあだ名か偽名か分からぬが、『クレスト頂上』などと呼ばせているとは、人は案外様々な顔を持っているものだ。

 しかし一応ダカールと深い関係を持つ者、容姿、名、姿等のメモを手帳へ記し、剛力はその場から離れ……

「それで、アストロリアの様子はどうなんだい?」
「――っ!?」

 ダカールの口から飛び出した想定外の言葉に、ピタリと足を止めた。
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す

金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。 「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」 魅了魔法? なんだそれは? その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。 R15は死のシーンがあるための保険です。 独自の異世界の物語です。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。