『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百三十九話

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「これやこれ!」

 しばらくして戻ってきた彼女が手に持っていたのは、紫色のひもで縛られた長方形の木箱、大きさとしては縦横2、30センチくらいだろうか。
 箱の大きさに比べ厚さは大したものではなく、私の親指程度あればいい方だ。

 丁寧に持ってきた割に、随分と軽い音を立てて机へ置かれた箱を覗くと、琉希がピンときた様子で口を開いた。

「ほう、これ桐の箱ですね」

 桐、実物は見たことなかったがこれがうわさに聞く高級木材か。
 なるほど、確か桐はとても軽いと聞くし、それならさっきの音も納得だ。

「んふふー、開けたら多分二人とも魂消るで?」

 彼女の口元はにんまりと弧を描いていたが、はて、この薄くて軽い箱に一体何が入っているのか。
 滅茶苦茶大きなものを持ってきたらどんなものが出てくるのかドキドキするかもしれないが、こんな小さいものでは割とたかが知れている。

 例えばそう、純金製のお面とか?
 でも結構軽そうだしなぁ、金って重いらしいし違う気がする。

「いくで? いっちゃうで?」

 なかなか焦らしてくれる橘さん。

 謎にテンションが上がり続けた彼女は、自分で焦らしておきながら私たちが何か言うのを待てなかったようで、早々に紐を解き箱を開けてしまった。
 そこまで彼女が意気揚々と持ってきた箱の中身は……

「じゃじゃーん!」
「――なにこれ」
「狐面ですね、能楽とかで使う奴ですよ」

 暗闇から現れた鮮やかな白と紅、小さな鈴で飾られた狐面。
 箱の中身は、彼女が後生大事に取り出すようには決して見えない、いたって普通のお面であった。

 確かに紅色の塗りは丁寧で、緻密な模様は素人目にも良い出来であるが、とっておきと言うにはあまりに特徴がない。
 しいて言えば所々に入った金色のアクセントが、ちょっとだけ高級感を漂わせているくらいだろう。

「実はこれ、ダンジョン内で拾った木で作られててな」
「拾った? 切ったじゃなくて?」

 切ったなら分かる。
 ダンジョンの木は切っても切っても生えてくるし、植林して切ってとするより断然楽だから。
 この桐の箱みたいに高級なものを除けば、現状流通している木材の、結構な割合がダンジョン産なんじゃないだろうか。

 私の疑問に待っていましたとばかりの頷き、彼女は椅子の上で足と腕を組んでこちらをビシッと指した。

「せや! 知り合いの職人がBダンジョンで倒したモンスターのドロップで出来てるんよこれ」
「え? 職人が倒したんですか?」
「素材は己の手で見極めてこそやって、同じモンスターからドロップしたものでもちょっとずつ質が違うらしくてなぁ。ってもあての知り合いやなくて親の方やから、ほとんど受け売りなんやけどな」

 職人がB級ダンジョン周回……いったいどんな化け物なのだろう。
 世の中にはまだ知らないことが多いらしい。

 勢いに乗った彼女の語りはとどまることを知らない。
 あれこれとこの朱色や金色、全部の素材もどこのダンジョンで取れたなんちゃらという話を繰り返し……

「それでな? 木で出来てるからかは知らんけど、こうやって光に当ててると……おっ、来た来た」

 話の途中、突然彼女が黙ったかと思うと、仮面が震え出した。

「え、なにこれ怖い」
「あの、橘さん、これ呪いのお面とか言いませんよね?」

 震えは揺れに、激しさは増すばかり。
 まあ見とき? とは彼女の言葉で、一体何が起こっているのか分からない私たちは、ただ彼女の言葉を信じ固唾をのんで見守るしかない。

 1分か、それとも数秒だったのか。
 時間の感覚が分からない異様な時間が過ぎ去った後。

「来たぁ!」

 ふわりと、突然お面が空を飛んだ。

「ふぁ!? しゅごい……」
「え、え、飛びましたけど!?」

 飛ぶといってもどっかへ飛んでいくわけではなく、机の上20センチほどを滞空しているだけ。
 しかし上や下へ手を差し込んでも何かに引っかかることもなく、風が起こっているわけでもない。
 軽く突いてもその場で微かに揺れるだけ、一旦手に取って机に押し付けてもまた浮き上がる。

 種も仕掛けもない、本当に空を飛んでいる。

「せやろ? 凄いやろ! これ浮くんよ!」

 最初は彼女の謎の興奮に引いていた私たちであったが、流石にこれには興奮を隠せない。
 マジで飛んでる、すげーというアホっぽい感想しか出てこなかった。

 そういえば以前あった安心院さんも空を飛んでいたが、あれは結構近くにいた私にも結構な風が来ていたし、この狐面のように風もなく浮くというのは……ああ、そういえばあの『炎来』で助けてくれたコートの人がそうだったか。

 ともかくなかなか見ないものだ。

「凄い、高そう」

 とっておきと言うだけはあった。
 ダンジョン産の素材を惜しげもなく使い作られた浮くお面、戦いにはあまり役に立ちそうにないが欲しい人はいるんじゃないだろうか。

「しかもこれ被るとなんかよく分からんけど目元に風が入ってこないんよ、睫毛が煽られへんのや」
「それはゴーグルで良いと思う」
「風除けだけのためにこのお面はちょっとレベルが高いですね」

 謎のゴーグル機能付きだった。
 それはともかく……

「これ売らないの?」
「最初は結構な値段で大々的に売り出したんやけど……常連はんに呪われそうだの不気味だの言われてなぁ、結局倉庫の裏で塩漬けにされとったのをあてがこの前見っけたんや」

 あれ? それってもしかして 

「不良在庫じゃん」
「ですねー」
「なっ、このいなりんのかわいらしさが分からへん奴らがあかんねん!」

 可愛くはないと思う、というか勝手に商品に『いなりん』なんて名前つけてるけどダメじゃないか。

 本人曰く毎日取り出しては飾り、被り、拭いているらしい。
 ものすごい気に入っているじゃないか、もうそれ売らずに自分で大事に持っておいとくべきだと思う。

 凄いやろ? 可愛いやろ? と自分の子供を自慢する勢いであった橘さんだが、ふと彼女の瞳に寂し気な光が零れた。
 何か置き去りにされたような、孤独を湛えているような、そんな顔だ。

「でもな、いなりん不良在庫なんよ……売れ残り過ぎると倉庫整理の時に捨てられちゃうんや……あても大切にしておきたいんやけど、あての部屋に多様なもの沢山あるから、いなりん置く場所がなくてなぁ……」

 やっぱり不良在庫なんじゃん。
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