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09 人造

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僕達は恋人になった。
いや、本当に恋人になったのだろうか。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「試しに 俺と“恋愛”してみる?」

「…れん…あい…?」

「そう。俺と恋人になるってことや」

「…なんで…君みたいな人が…僕なんかと、」

「そーやな…シーで言えば、
  こーすけに興味を持ったからやな。」

「興味…?」

「あそこまで俺と“同じ”考えの人間は
  君が初めてだったから。」

さっきまで唇を重ねていたというのに、
君はまるで、何事も無かったかのような話し方で
たんたんと話す。
けれど、君の目だけはしっかり僕を見つめていた。

分からない。
君は一体何をいるんだ。

「でも、たったそれだけで…」

「なに、いやなん?」

わずかながら
君の声が顔が冷たくなるのがわかる。

「だって、僕は…あんなに…君を侮辱したというのに」

僕の回答が想像と違ったのだろうか。
君の表情はまた優しくなった。

「侮辱?俺には情熱的な口説き文句にしか
  聞こえんかったで?」

全てを包み込むかのような、優しい目。
見ているだけで吸い込まれそうなほど鮮やかで綺麗で、でもずっとずっと深い暗闇でできている。
僕はその目が出会った時から好きだった。

その目に映る僕は
きっと人の形をしていないんだろう。
わかっているんだ。
君が本心で言うことなんてないことは。

頭ではわかっていても、
僕の心は身体はそれでもいいと思ってしまう。
この感情は…

「僕が君に抱いていた感情が
  人を好きになるってことになるのかな、」

「さぁな…
  人によって考え方は変わってくるからな。
  愛や恋の違い。
  そんなもの俺には断定できない。
  人の感情なんて所詮、人間が自らの物差しで計って
  できたものに過ぎない。
  人間ははっきり区別したがる生き物やからな。
  こーすけはどう思うの?」

「分からない…けど、もしこれが人を愛する気持ちと言うのならば、僕にも人間らしい感情があったんだって、少し嬉しいよ。」

「…そうか。」

なぜ、そんな顔をするんだ。

「それで、告白の返事は?」

彼は本気だ。
本気で聞いている。
でなければ、僕の血液を飲むなんてことし_ない_


血を飲んだ?
“呪われている”僕の血を…?



「今すぐ吐いて!!!」

「なんや、急に。」

「血!僕の血を…飲んだでしょ。」

「それがどーしたん、」

「だって…僕は…」

もし、僕が呪い(病気)にかかっていると知ったら
君は離れていくだろうか?
それとも軽蔑するのだろうか?
人として目に映っていない僕は、
化け物にでも姿が変わるのだろうか。

そうしたら、
さっきの言葉もなかったことになるのだろうか。


僕の視線は自然と右下へと向かった。
かつて、人の姿だったものを思い出しながら_

「その足と関係あるんことか?」

「……」

知られたくなかった。
少なくとも化け物以外の姿で君の目に映りたい。
けれど、
君が僕と同じ呪いにかかってしまうのは嫌だった。


君に嫌われたくない。


かつての僕だったらこの状況を喜んだだろうか。
いや、それ以前にこうして話すこともないだろう。

少しの間 葛藤をしたが、
僕は後者の選択をした。

僕は嫌われる覚悟をし、静かに頭を下げた。

すると君は突然僕の右裾をまくり出した。

「なっ!?なにを!」


ーチュッ


「素敵な足やん。」

そんなことを言われたのは生まれて初めてだ。

『かわいそう。』

僕の足を見るやつはだいたいその言葉を使う。
例え言わなくても聞こえてくる。
自分とは無縁なことなのだと哀れみの目で僕を見る。

なのに君は、
微笑みながらまるで夢の国の王子のように
僕の人工の足にキスをした。
嬉しかった。
けれど、
神経すらない鉄では君の体温ですら感じない。

悔しい。
でも、それと同じくらいこの足になって
良かったと思った。

彼の指先が鉄を撫でる。
なんだかこそばゆく、恥ずかしい。

「僕、足がないけどいいの?」

「かっこええやん。
  俺はただの生身の身体よりも、こーすけのひんやり    
  とした足の方が好きやで。」

あぁ、君の瞳に僕の足が映る。
それはきっと、実物通りの形で見えているのだろう。

「それよりも ほな、まだ答え貰ってへんけど。
聞かせてくれへんの?」

僕なんかが、いいんだろうか。
君の隣に立ってしまっても。


君はずるい。

ずるい人だ。

僕がどう返事出すかなんて、わかってるくせに。

「おねがい…します。」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あの後、僕達は普通に帰宅をした。

「じゃあ、これから改めてよろしくね。」

「う、うん。」

「またね、こーすけ。」

ひらりと手の甲が揺れ、
まなぶくんの背中が見えなくなるのを確認してから見僕は家に帰った。

信じられない。
この僕に
生まれて初めてできた、
好きな人
愛する人

そして、
偶像である君の恋人。

なんだろう、この気持ちは。

きっとこれは、
彼の人生の中のただの気まぐれに過ぎない。

けれど僕にとっては初めてなことばかりだ。

氷ついていた心が動き始める。
何かが溢れ出しそうで仕方がない。
この夢が永遠に覚めないで欲しい。

いつもは不気味で明かりも少ない夜道も、
輝いて見えた。

僕は
僕自身は
生きていていいんだ。

だって、彼の“恋人”なんだから。

君に褒めてもらった足で
少しばかり小走りをしてみた。

風が心地いい。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

この時の僕は浮かれてしまった。

わかっていたはずなのに。
彼の目に最後まで元の形の姿で映っていたものは、
僕の体の一部にも入らない、
鉄の塊だけってことを_


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