カゲロウのような君と亜成虫の世代を駆け抜けた

 人の命のはかなさは、まるでカゲロウのようだ。
 カゲロウは風に舞うかのように空中を浮遊する。
 カゲロウという名前は空気がゆらめいて見える陽炎が語源らしい。
 はかなく弱いカゲロウは、成虫になって数時間で死んでしまうらしい。
 しかし、数時間というのは成虫となってからの命だ。
 意外にも、幼虫の期間は昆虫の中では長い方らしい。
 幼虫の時は何度も脱皮する。私たちも脱皮して成長してきたような気がする。
 成虫の姿は生ある時の一瞬の姿だ。
 カゲロウの幼虫から羽化したものは、亜成虫と呼ばれているらしい。
 |翅《はね》があって空を飛び、成虫と似ているのだが、まだ成虫となってはいない。
 亜成虫は、まるで私たちみたいだ。
 ゆらゆら揺れる心。大人になりかけているのに、大人ではない。
 無色透明な翅。私たちは見えない翅を持っている。羽ばたく準備をしている。

「死ぬ前に、俺と友達にならない?」
 優し気な声が背中越しに聞こえる。
 声の主は同じクラスの同級生。
 飛び降りようとしている同級生の私に向かって平然と笑顔で手を差し伸べてくれた。
 彼は不思議な光に包まれて私るように見えた。天使のように救いをあたえてくれる存在に思えた。
 温かなぬくもりを全身に纏ったような人。
 こんな状況なのに驚くこともなく、笑顔で対応する同級生の名前は羽多野空。
 華奢で透き通るような肌色で中性的な雰囲気の少年だった。
「今、死ぬ必要ある?」
 彼はそう言った。
「なんか疲れちゃって」
「俺は生きたくても長生きできないから、人生の長さを選択できる人が羨ましいよ。生まれつき病弱で成人まで生きられないと言われている。いつ、人生が終わるかわからない毎日を過ごしていっる」
「人生の長さをある程度選べる私は幸せなのかもしれないね」
 彼と話していて価値観が変わった。
「親の干渉が辛いんだ。価値観を押し付けられてさ。コミュ力がないから、友達もできないし。スマホは親が持ってはいけない悪いものだと洗脳されている。勉強も一日中しろと監視されている。自由がないの」
 でも、その人は成人の年齢、十八歳になってすぐに亡くなってしまった。
 まるでカゲロウのようだ。
 亜成虫の時期を共に過ごしていたのかもしれないと思う。
 まるでカゲロウのように、成虫になってすぐに死んでしまうかのように――。
24h.ポイント 0pt
1
小説 213,112 位 / 213,112件 青春 7,548 位 / 7,548件

あなたにおすすめの小説

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

裏切り者

詩織
恋愛
付き合って3年の目の彼に裏切り者扱い。全く理由がわからない。 それでも話はどんどんと進み、私はここから逃げるしかなかった。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき