41 / 53
二章
一日八時間は寝よう
しおりを挟む予想通り、迎えに来てくれたリアムにそれはそれはしっかりと宥めるように優しく叱られた。
「シャノン。君には確かに実力があるだろうけど、まだまだ保護されるべき年齢だということを忘れないでくれ」
「はい……」
「それに、……俺は君のことが好きなんだ。俺の与り知らないところで何かあったらと思うと……。相手が無害でも、どうしても心配してしまう」
好きと言われ気持ちがふわふわとする一方、どこかでそれって俺が一番初めにリアムに出会ったから? と問いかけたい思いが生まれる。
実際どうしてリアムが俺のことを好きになったのか分からないし。や、俺だって気づいたら好きだったわけだから、明確な時期を聞かれたら困るんだけど。
そもそも俺たちの恋愛の発端って多分、例の副作用だしさ……。
考えれば考えるほど気分が落ち込んでくる。あの人の言う通りなんじゃないかっていう気持ちになる。
俺が叱られて落ち込んでいると思ったらしいリアムは「怒ってはいない」と慌てたように付け加えて優しく頭を撫でてくれた。
まずい、今優しくされると泣きそうだ。ここで泣くのはなんかずるい気がするし、頬の内側を思いっきり噛んでぼやける視界を耐え凌ぐ。
「もう、あ、兄上に黙って勝手なこと、しません……」
「ああ、そうしてくれると俺も嬉しい。……シャノン、こっちを向いて」
「うー……。ん、む」
涙を堪えるために顰めっ面になったままリアムを見上げる。今の俺、全然可愛くないと思う。
義兄はそんなこと気にした様子もなく、頬を片手で優しくなぞってから食むように俺の唇に口付けた。
慰めるかのようなそれに頭がどんどんぽやぽやと溶ける。
「ふ、ぅ……いッ、」
口の隙間から侵入したリアムの舌が、ついさっき勢いをつけて噛んでいた頬の内側に触れるとじんわり少しだけ痛みが走った。
どうやら力を込めすぎて、ちょっとだけ血が滲んでいるようだ。
瞬間的な痛みに思わず涙が転がる。
頬を撫でていた手がそれを掬い、目尻に滲む涙も親指で払った。
「……? あれ」
「口内炎になってしまったら余計痛いから。治った?」
先程まで沁みていた頬肉がなぜか全然痛くない。
「治……、え、まさか」
「俺は水属性を持っていないから今まで治癒は使えなかったけど。治癒魔法を持っていると何かと便利だな」
目元を緩ませる義兄に、俺の口内の傷如きに光魔法を使ったのだと察する。これぐらい、自然治癒でどうにでもなるのに。
「本当は自然に治るのを待つ方が良いんだろうが、君が痛そうな顔をするのはどうも耐えられなくて」
そう照れたように視線を逸らす。なんなら頬も少し赤い。濃厚なべろちゅーを突然かましてきた張本人とは思えない。
「……そ、のためにキスしたんですか?」
「いや、口付けは……したくなったから」
彼の頬の赤みがさらに増した。俺もつられるように赤くなる。
む、胸がムズムズする!
この人は何でこんなヒーロー適正が高いんだ。実は少女漫画出身ですと言われても納得する。まあ、でも元チョイ役とはいえ乙女ゲーム出身か。
さっきまで落ち込んでいた気分は随分楽になって、俺は思いっきりリアムの腕に抱きつくことにした。
それから一晩経って、朝。
昨日何であんなヘラってたんだ? ってくらい俺の気分はスッキリしていた。
(もし、もし仮に俺が先にリアムに出会ったっていうアドがあるだけだったとしても、それでもリアムと両思いになったのは俺だし)
それに、向こうにもチャンスがあったかもしれないって言われてはいそうですか。で譲れるほど雑な気持ちは生憎持ち合わせていない。
好きだった期間や歴史に負けたくない。俺だって、リアムのことちゃんと好きだ。
あんな落ち込んだの、もしかして最近興奮気味で睡眠時間短かったせいかも。やっぱり睡眠って大事なんだな。
よーし、もやもやも無くなったところで今日も学校頑張るぞ!
(……って、思ったばっかだったんだけどなあ?)
周囲に誰もいないことをいいことに、めちゃくちゃでっかいため息を吐いてやった。
勢いをつけて壁に背中をつけると手首にはめられている手錠がじゃらりと鳴って、耳を煩わせる。
おっかしいな~。俺はただ普通に登校して、普通に授業を受けて、普通に帰ろうとしてたんだけどな。
いつも通り教室でひとりリアムを待っていたら、突然ひどく頭が痛くなって意識が遠のいた。その後気づけばなーんにも知らない場所に閉じ込められていたという、至極単純な話。
(誘拐、ねぇ)
俺を誘拐して何か利があるのだろうか。まあ、身代金目的が一番しっくりくる。
それか俺に恨みを持ってる人だけど……。昨日会ったばかりのマリアベルが脳裏に浮かぶ。
――いや、それはないだろ。真っ当な倫理観はありそうな人だった。それに何かと俺を小さい子として見てるみたいだったし、そんな存在を誘拐するなんて人には見えない。
だとしたら、見ず知らずの存在が濃厚か。
ここから抜け出そうと思えば多分、できる。見たところこの手錠もただの手錠で、魔封じとかではなさそうだし。建物の影に潜って脱出するのは勿論、単純に俺の気配を消せば目の前の扉が空いた瞬間にしれっと外に出れるだろう。
だけどなんとなく俺の勘が犯人をしっかり目視した方がいいと告げていた。
あとは普通に抜け出せるだろうという自信が恐怖心を一掃していて、好奇心だけが残っているというのもある。
とりあえず情報収集だ、と足枷が鳴らす音にちょっとムカつきつつ天井や壁に手を伸ばす。この部屋は窓こそないけど、ランプ、ベッドやテーブルがきちんと整えられているし牢屋というわけではなさそうである。
壁を叩き帰ってきた音の感覚で隣にも何か部屋があると確信し、ゆっくりと息を吐いてからランプに照らされた自分の影を壁の向こうに寄越す。
これも闇魔法の一種で、自分の影をまるで配下のように操れる技だ。カッコ良すぎてすぐ覚えた。
これで犯人が隣でだらけてくれてたら完璧なんだけどなー。顔見たら帰るし。
数分後、影を元に戻し隣の部屋で見た情報を俺に共有させる。
そこに映っていた、手錠を忌々しげに見つめる少女に思わず息を呑んだ。
(……マリアベル!?)
150
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる