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一章
俺たちの冒険は特に始まらない
しおりを挟むファンタジー要素はふんわりしてるので読み流しても特に問題ないと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……まあ、うん。シャノンちゃんの闇魔法についても色々話さないといけないから、他の話を進めるぞ」
ため息をつきながらテディが俺たちの間に割って入る。この精霊は何でこんなやれやれみたいな雰囲気を醸し出している? 感情云々については君の報連相不足ですよね!?
……などと色々思うけど、タイミングの問題もあっただろうし口には出さない。
「シャノンちゃんには言ったけど、今日はぐれたのはシャノンちゃんが闇魔法を使って周囲を欺きつつ、気配を消したからだ。たとえ腕の立つ護衛でもその違和感を掴み取るのは無理だったと思うぜ。闇魔法はそういうもんだ」
「普通にすごいよ。光魔法と闇魔法なんて文献に残さないようにしてるから僕たちから直接教わらないとやり方もわからないはずなのに、感覚でやっちゃったんだろ」
「…………使ったつもりはなくて……。ごめんなさい」
周りに迷惑をかけた自覚があるから、声がめちゃくちゃ小さくなるし視線も下がる。
そんなつもりはなかったけど反省はしてるんです。本当です。
「この先無意識に使わないように大体の傾向は知っておくべきだと思う」
テディはそう言うと、いきなり姿を消す。
目をぱちくりさせて周囲を見渡せば、俺の真下から「こっち」と声がする。
ぬっと俺の影からテディの顔が出てきて思わず悲鳴を上げそうになり、慌てて口を塞いだ。
「そんなバケモン見たみたいな顔すんなよ! てかオレ、いつもシャノンちゃんの影から出てたからなっ」
「あっ、そ、そうだったんだ……」
テディはなんで気付かないんだよみたいな顔をしてきたけど、気付かなくてよかった。絶対絶叫してアリアに駆け付けられてると思う。
「闇魔法はこうやって、影とか夜と仲が良い。まー具体的に何個か言うと、気配消すとか、眠りに関係する魔法はお手のもんだ。それと、闇の加護を受けている人間には毒が効かない」
なんかカッコいいな……。
俺がファンタジー作品の悪役だったら世界のひとつやふたつやみっつ掌握できそうだ。
……はっ、俺TUEEEE始まった?!
「随分間諜向けの性能だな。……なるほど、確かにこれは文献に書けないか」
「そうだろ? ていうか今の世の中で光魔法と闇魔法ぶっ放す機会なんて早々ねえからさ。数千年前は違ったけど、オレたちが前加護与えた人間も自衛のために使ってることがほとんどだったなあ。ま、なくても生きてける属性だからな」
始まってなかった。
いや、始まると言われても困るけど。急に世界救ってとか言われてもかなり困るけど。
「文献にできないって……どうしてですか?」
「シャノン、考えてみて。こんなスパイ向けの能力が闇の精霊の加護を受けた人間に必ず宿るって分かったら、権力者たちが黙っていない」
「そうそう、オレたちがかなーり昔に対応ミスって光のパッシブスキルだけは漏れちゃってるけど、それ以外についてはいくら調べても出ないはずだぜ」
たしかに……。絶対に王家に取り込まれそうだ。加護持ちだと分かった瞬間拉致監禁コースになりそう。
「光は?」
「あー、色々あるし感覚で使ってもらうのが早いんだけど分かりやすいのは、まあ、治癒かなあ。治癒は他の属性でもできるけど、光魔法を使う治癒は欠損を治せる。後は、結界とか……あぁ、さっきまで頭の中に話しかけてたのも光魔法だよ」
「念話? 光……ああ、通信とかそういう……」
なんとなくわかった。闇とか光とかから連想できるものなんだろうな。想像力が試されそうである。
「そう。僕が手伝わないとテディはこんな芸当できないから、普段はできないよぉ。あ、あと……」
内緒話するみたいに近づいて、猫のように目を細めるマシュに思わずドギマギする。
「ふふ、あのね、光を操って幻覚を作れるよ。これ、僕のイチオシ」
光ってなんか聖人みたいなイメージが強いから、精神作用系のものが使えるんだってちょっとびっくりした。
マシュと目を合わせるとその綺麗な瞳に光を溶かし、にんまり笑われる。
……いけないことを聞いている気分になって慌てて目を逸らす。
「光魔法も軍事利用されそうですね。パッシブスキルだけで俺は今殿下の護衛を命じられていますし……。これは俺たちだけの秘密にしたほうがよさそうだ」
いきなり身体の重心が傾いたと思ったら、義兄に腰を抱かれていた。
リアムはまだ変なスイッチが入っているようだ。落ち着いてほしい。リアムと同時に俺の心臓も落ち着いてほしい。
「父上と母上のことは信用しているが、こればかりは伝えないほうがいいだろう。シャノンの迷子の件は精霊に呼ばれた等と言って誤魔化そう。そもそもほぼ何も分かっていない分野だから、何が嘘かもわからないさ」
「オレのせい?! ……いや、いいぜ。そうしよう」
悪戯に口角を上げるリアムを見て心臓を鷲掴みにされた気分になる。叫び出しそうになったけど、耐えた。なぜならこれは副作用のせいだから!!
「ま、とにかくシャノンちゃんは軽率に空気になろうとしたり、闇と親和性のあることしようとしないこと! 何があるか分からないから、使うのはオレがちゃあんと教えてからだ。いいな?」
本当にママみたいなこと言うじゃん……と思いつつ、黙って頷く。俺は藪をつついたりしないんだ。
やっぱりまだ安定して見えないみたいで、その後しばらくしたら二人のことが見えなくなった。
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