上 下
23 / 53
一章

俺たちの冒険は特に始まらない

しおりを挟む


 ファンタジー要素はふんわりしてるので読み流しても特に問題ないと思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……まあ、うん。シャノンちゃんの闇魔法についても色々話さないといけないから、他の話を進めるぞ」

 ため息をつきながらテディが俺たちの間に割って入る。この精霊は何でこんなやれやれみたいな雰囲気を醸し出している? 感情云々については君の報連相不足ですよね!?

 ……などと色々思うけど、タイミングの問題もあっただろうし口には出さない。


「シャノンちゃんには言ったけど、今日はぐれたのはシャノンちゃんが闇魔法を使って周囲を欺きつつ、気配を消したからだ。たとえ腕の立つ護衛でもその違和感を掴み取るのは無理だったと思うぜ。闇魔法はそういうもんだ」

「普通にすごいよ。光魔法と闇魔法なんて文献に残さないようにしてるから僕たちから直接教わらないとやり方もわからないはずなのに、感覚でやっちゃったんだろ」

「…………使ったつもりはなくて……。ごめんなさい」


 周りに迷惑をかけた自覚があるから、声がめちゃくちゃ小さくなるし視線も下がる。
 そんなつもりはなかったけど反省はしてるんです。本当です。


「この先無意識に使わないように大体の傾向は知っておくべきだと思う」

 テディはそう言うと、いきなり姿を消す。
 目をぱちくりさせて周囲を見渡せば、俺の真下から「こっち」と声がする。

 ぬっと俺のからテディの顔が出てきて思わず悲鳴を上げそうになり、慌てて口を塞いだ。


「そんなバケモン見たみたいな顔すんなよ! てかオレ、いつもシャノンちゃんの影から出てたからなっ」

「あっ、そ、そうだったんだ……」

 テディはなんで気付かないんだよみたいな顔をしてきたけど、気付かなくてよかった。絶対絶叫してアリアに駆け付けられてると思う。


「闇魔法はこうやって、影とか夜と仲が良い。まー具体的に何個か言うと、気配消すとか、眠りに関係する魔法はお手のもんだ。それと、闇の加護を受けている人間には毒が効かない」


 なんかカッコいいな……。
 俺がファンタジー作品の悪役だったら世界のひとつやふたつやみっつ掌握できそうだ。
 ……はっ、俺TUEEEE始まった?!


「随分間諜向けの性能だな。……なるほど、確かにこれは文献に書けないか」

「そうだろ? ていうか今の世の中で光魔法と闇魔法ぶっ放す機会なんて早々ねえからさ。数千年前は違ったけど、オレたちが前加護与えた人間も自衛のために使ってることがほとんどだったなあ。ま、なくても生きてける属性だからな」


 始まってなかった。
 いや、始まると言われても困るけど。急に世界救ってとか言われてもかなり困るけど。


「文献にできないって……どうしてですか?」

「シャノン、考えてみて。こんなスパイ向けの能力が闇の精霊の加護を受けた人間に必ず宿るって分かったら、権力者たちが黙っていない」

「そうそう、オレたちがかなーり昔に対応ミスって光のパッシブスキルだけは漏れちゃってるけど、それ以外についてはいくら調べても出ないはずだぜ」


 たしかに……。絶対に王家に取り込まれそうだ。加護持ちだと分かった瞬間拉致監禁コースになりそう。


「光は?」

「あー、色々あるし感覚で使ってもらうのが早いんだけど分かりやすいのは、まあ、治癒かなあ。治癒は他の属性でもできるけど、光魔法を使う治癒は欠損を治せる。後は、結界とか……あぁ、さっきまで頭の中に話しかけてたのも光魔法だよ」

「念話? 光……ああ、通信とかそういう……」

 なんとなくわかった。闇とか光とかから連想できるものなんだろうな。想像力が試されそうである。

「そう。僕が手伝わないとテディはこんな芸当できないから、普段はできないよぉ。あ、あと……」

 内緒話するみたいに近づいて、猫のように目を細めるマシュに思わずドギマギする。

「ふふ、あのね、光を操って幻覚を作れるよ。これ、僕のイチオシ」

 光ってなんか聖人みたいなイメージが強いから、精神作用系のものが使えるんだってちょっとびっくりした。
 マシュと目を合わせるとその綺麗な瞳に光を溶かし、にんまり笑われる。
 ……いけないことを聞いている気分になって慌てて目を逸らす。

「光魔法も軍事利用されそうですね。パッシブスキルだけで俺は今殿下の護衛を命じられていますし……。これは俺たちだけの秘密にしたほうがよさそうだ」

 いきなり身体の重心が傾いたと思ったら、義兄に腰を抱かれていた。
 リアムはまだ変なスイッチが入っているようだ。落ち着いてほしい。リアムと同時に俺の心臓も落ち着いてほしい。

「父上と母上のことは信用しているが、こればかりは伝えないほうがいいだろう。シャノンの迷子の件は精霊に呼ばれた等と言って誤魔化そう。そもそもほぼ何も分かっていない分野だから、何が嘘かもわからないさ」

「オレのせい?! ……いや、いいぜ。そうしよう」

 悪戯に口角を上げるリアムを見て心臓を鷲掴みにされた気分になる。叫び出しそうになったけど、耐えた。なぜならこれは副作用のせいだから!!



「ま、とにかくシャノンちゃんは軽率に空気になろうとしたり、闇と親和性のあることしようとしないこと! 何があるか分からないから、使うのはオレがちゃあんと教えてからだ。いいな?」

 本当にママみたいなこと言うじゃん……と思いつつ、黙って頷く。俺は藪をつついたりしないんだ。



 やっぱりまだ安定して見えないみたいで、その後しばらくしたら二人のことが見えなくなった。

しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

処理中です...